パラモトライダーを支援するSSPとは? ~ハンディキャップがあってもバイクに乗れる~後編
バイクタレント兼こうのす観光大使・岸田彩美さんがサイドスタンドプロジェクト(SSP)について解説します。
世界初となるパラモトライダーの公道走行
こんにちは。バイクタレントの岸田彩美です。前回に引き続き、SSP(サイドスタンドプロジェクト)の活動についてお伝えしていきます。

障がいがある方の「オートバイに乗る」という夢をサポートする支援団体であるSSPは、パラモトライダーに向けた練習会を行うなど、積極的な活動を行っています。
2022年9月11日にはアネスト岩田箱根ターンパイクを貸し切った走行会「やるぜ! 箱根ターンパイク」が行われましたが、そこでは世界初となるパラモトライダーさんの公道走行が実現したのです。
この日を目標に、練習・準備を重ねてきた14名のパラモトライダーさん並びにサポートをするSSPのメンバーやボランティアスタッフさんが現地に集結しました。
使用するバイクの多くは、パラモトライダーさんがご自身で所有する車両で、トランポに積んで現地まで運び、ヘルメットやウエアなども自前の装備を着用。ヘルメットに付けるインカムに関しては、当日B+COMのスタッフさんが現地で装着、シューズに関しても特別に手を加えなくてもバイクに固定出来るよう、シューズにはめる器具が用意されました。
走行の隊列ですが、青木宣篤さん、今年鈴鹿8耐にも参戦した今野由寛選手、さらに小田原市白バイ隊員の方々による先導、その後ろにパラモトライダーさんが走ります。続いてライダースといってパラモトライダーさんのお仲間やご友人の方々が走り、列の一番最後に着く役目のライダー(スイーパー)が走ります。
コースは小田原料金所スタート~大観山の往復26kmの道路で、カーブや上り・下りのある道路を貸し切っての走行。ボランティアスタッフさんは、個々の役割をミーティングで入念に確認、走行に参加するライダーの方々が使用する車両についても朝一で車検が行われ、 整備不良が無いかなど安全面も徹底されていました。
実際に走行したパラモトライダーの感想は?
今回走行した数名のパラモトライダーさんにお話をお聞きしました。

■囲美和さん
右大腿切断により、義足を装着している囲さん。走行前は緊張感でいっぱいでした。昨年6月に初めてSSPに参加。その当時は20年ぶりにバイクに乗ったので感覚が掴めず悔しい思いをしたそうです。「もう一度バイクに乗りたい」その思いから一から普通中型AT免許から取り直し、10月には免許を取得。さらに限定解除をするために現在マシンを用意し、それを教習所に持ち込んで教習が出来ないか準備中とのこと。
リウマチと義足になって3年が経過し、ハンディキャップを持つ仲間の輪が増え、自分でもやれることがあるんだと実感し一年で形にしてこの日を迎えたそうです。
例えばバイクを買うならバイクを置ける場所が必要になるので土地を買い、来年3月に家が完成するそうで(つい最近、地鎮祭を終えたばかりなんですって!)、現在トランポの購入も検討中。さらにレーシングスーツも用意し、ブーツは今回の走行イベントに来る途中の清水のクシタニで注文済みなんだとか。
出来ないことは事実だし、日によって体調が変わるし体力もないけれど、プロジェクトに刺激を受けたから自分で出来ることはやりたい! とおっしゃっていました。
走り終わった後に最高! SSP最高! の言葉を連呼していた囲さん。今日の走行を振り返ってみてどうだったか尋ねてみたところ、走行がスタートして終わるまで、一年を振り返る静かな時間だったそう。今回バイクに乗る機会を与えてもらったからとにかく“任務を果たすべく走行”をしたそうです。
世の中にはハンディキャップを抱えながらもバイクに乗りたいと思う人がたくさんいるから、次につながるバトンを渡せたらいいなと語ってくれました。
次にどうバトンを渡すかはこれから考えるとのことでしたが、コースにUターンがあるしどうしよう……と不安になっていた走行前とは表情が変わっており、壁を乗り越え、次の目標に向け大きな一歩を踏み出したように感じられました。

■丸野飛路志さん、古谷卓さん
丸野さんは右大腿切断により義足を装着、古谷さんは脊髄損傷により車いすを使用しています。
非常に仲が良いお二人は、僕たちは“ニコイチ”なんだ! といつもじゃれあっていて、走行前も全然緊張なんかないよ、楽しみでしょうがない! と終始リラックス。
基本的には1つのグループに1人のパラモトライダーさんの走行ですが、お二人に関しては一緒の枠でニコイチ走行が行われました。
少々ハプニングがあったそうですが、それを吹き飛ばすくらい笑いの絶えないお二人で、バイクに乗る事を全力で楽しんでいる印象を受けました。

■横沢たかのりさん
元モトクロスライダーの横沢さんは練習中の事故により脊髄損傷し、車いす生活に。
現在は参議院議員として公務にあたる中、バイカーズ議員連盟という集まりがあり、もう一度横沢さんをバイクに乗せよう! と動き出したのがきっかけで、先日、袖ケ浦で行われたSSP走行会で久しぶりに走ったそうです。今回の走行会には新しいチャレンジをするべく参加したそうで、走行前は全く緊張感は無く、やっぱりバイクに乗ると生きてるって感じがするとおっしゃっていました。
走行時は力も抜けて余裕のあるライディングでしたし、終わった後の眩しい笑顔が印象的でした。

この走行会では、各地点の駐車場から声援を送る大勢の仲間や、ピンストライパーのビートンさんによるイラストのプレゼントもあり、パラモトライダーさんにとって思い出深い一日になったことでしょう。
最後にSSPの青木治親さんは、「事故が無かったことが成功ですし、世界にはバイクに乗りたいと思っているハンディキャップがある方がたくさんいる。4大メーカーのあるこの日本から発信して、SSPの活動を来年も再来年も、10年後も続けていきたい」とおっしゃっていました。
実はフランスではパラモトライダーさんによるレースも開催されているんだそうです。
出来ないから諦めるのではなく出来るようにするための方法を考え力を合わせる事が大切で、今後もSSPの活動はますます広がっていくのだろうと確信しました。
私も自分に出来る範囲で協力していけたらと考えています。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。
Writer: 岸田彩美
食べる事とインコが大好き。愛称:あやみん。2011年駒澤大学準ミスグランプリを取得後、ツインリンクもてぎのイメージガール、ツインリンクもてぎエンジェルを務めた。任期中に様々なバイクの楽しみ方に出会いその魅力に心を奪われた。トライアルデモンストレーション、MotoGP 日本グランプリでステージMCなどバイクのイベント出演や司会も務める。