「前にいるなら抜こうとするのがライダー! すべては結果次第」攻めの姿勢を崩さないのが小椋藍選手
今季、ロードレース世界選手権Moto2クラスは最終戦までチャンピオン争いがもつれました。フェルナンデスとタイトルを争ったのが、日本の小椋藍選手。果敢に攻めきった姿勢に多くのファンが感動しました。バイクジャーナリストの青木タカオさんもそのうちのひとりです。小椋選手にお話を聞くことができました!
これぞプロアスリートの姿
ピット前に押しかけたファンたちがサインや写真を求めると、ひとりずつ丁寧に応えていきます。微笑みながらまんべんなく時間をかけ、ときにはスマートフォンのシャッターまで押してあげるという心遣い。“神対応”とはこういうことを言うのでしょう。

プロスポーツにおけるアスリートとしては、シーズン中の試合やレースでの勝負、結果にこだわるのはもちろんのこと、こうしたファンサービスもとても大事なことだと思います。
そんなふうに改めて考えさせてくれたのが、若干21歳、世界の大舞台で戦う小椋藍(おぐら あい)選手です。

出光ホンダチームアジアにてロードレース世界選手権Moto2クラスにフル参戦し、3年ぶり開催となった第16戦日本グランプリでは、16年ぶりの母国GP優勝という快挙を成し遂げ、第18戦オーストラリアGPにてポイントランキングトップにも立ちました。
終盤は熾烈なタイトル争いとなり、第19戦マレーシアでは最終ラップで痛恨の転倒リタイア。最終戦スペインでもノーポイントに終わり、チャンピオンこそ逃してしまいましたが、年間ランキング2位という輝かしい成績を残し、日本のバイクファンにたくさんの感動を与えてくれました。

その姿は11月27日(日)、モビリティリゾートもてぎ(栃木県芳賀郡茂木町)にて開かれた『Honda Racing THANKS DAY』にありました。今回、インタビューに答えてくれると聞き、もてぎでチェッカーフラッグを受ける姿に涙し、テレビで走る姿に勇気をもらい続けた筆者(青木タカオ)としては、憧れのライダーにお話が聞けると大興奮です!
いかにリラックスして挑むか
青木:手に汗握る戦いが続く世界最高峰のロードレース。ポイントランキング首位に立ったフィリップアイランドでは、レース後に「25周の間、ただひたすらバイクに乗り続けることだけに集中していた」とコメント。その集中力を高めていくため、レース前におこなうことはあるのでしょうか?

小椋:どちらかというと、レース前は緊張しすぎてしまうタイプなので、集中するかというよりかは、いかにリラックスして挑むかを考えています。
青木:なにか、秘訣は?
小椋:緊張してしまうのは、もう仕方がないと思っていますので、できるだけ楽なマインドでいられるように心がけています。
青木:レース前、なにかルーティンといいますか、決まり事のようなものがあったりするのでしょうか?
小椋:特にはありません。オートバイに左からまたがる、そのくらいですかね。
料理は自炊、炊飯器でご飯も炊く
青木:全20戦、世界中をまわるわけですが、お住まいは?
小椋:バルセロナです。
※出光ホンダチームアジアも拠点をバルセロナ(スペイン)としている。

青木:食事はどのようになさっているのでしょうか?
小椋:基本的には家で作ることが多く、そのときは炊飯器もあるので、お米を炊いて日本のものを食べることが多いです。
青木:お料理はご自身で? 味噌汁もつくる自炊男子なのですね。
小椋:まぁ、なんとかなるかな……っていうレベルですけど、自分でつくっています。
青木:外でスペイン料理を楽しむことも?
小椋:はい、パスタやピザ、お肉とか、バルセロナは食べ物がとても美味しいですよね。
青木:遠征先でも食事が楽しみだったりするのでしょうか?
小椋:シーズン中はサーキットで過ごすだけになってしまいまして、残念ながら食事を楽しむような時間はありません。とはいえ、少しでもフリーな時間があれば、その国のモノやことに少しでも触れたくて、有名な料理を食べてみようかなってことはあります。
「小椋を勝たせたい」とチームが強く願う
青木:ファンとして気になるのは、ライダーどうしの関係性だったりも……。仲良しの選手は?
小椋:う~ん、あまり仲良くしすぎちゃうと、レースでのバトルに影響しそうなので、程良い距離を保っている感じはあります。もちろんチームメイトとは仲良しですけどね。

※同じチームに所属するソムキアット・チャントラ選手が、インタビュー中の我々に笑顔で近づき、先ほどから様子を見てくれている。
青木:前を譲れないレース。ときには接触なんてこともありますし、そこはライダーどうしライバルですからね。
小椋:海外のライダーたちも基本的にはピリピリしていますし、自然とそうなりますよね。
青木:バイクレーサーに必要なことは?

小椋:ライディングが上手いというのは大前提で、チームにどうやって自分を勝たせてやりたいかと、いかに思わせるかも大事なんだと思います。ほんのちょっとした差で、結果は変わってしまうので、人との関わりはけっこう重要なんじゃないでしょうか。
青木:速さはもちろん、身体の準備であったり、さまざまな面でまずチームに認めてもらわないとならない。レースは個人競技のようにも見えますが、チームでたたかう部分も大きいのですね。
小椋:もちろん、そうです。チームが喜んでくれるからっていうのは(レースをたたかうためのモチベーションとして)ありますし、多くの人が関わってくれていますので、自分がダメだったときも「ダメでした」では済まないのです。
青木:小椋選手が勝つことがチームの喜びでありますし、関わっている人に対しても果たさなければならないこと。そこはプロとして、責任を背負っているということなのですね。

小椋:最後に結果を残すという意味では、そうですね。コースに出たら、戦いはもうひとりなので、それはそうなります。
すべては結果次第、ミスには変わりない
青木:結果がすべてとおっしゃっていましたが、今年は惜しかったです。(ランキング首位で迎えた第19戦マレーシアでは残り半周で転倒リタイア)
小椋:自分の責任でしかないです。まぁ、レースをしていて前に人がいたら抜こうとするのはライダーとしては当然なんですが、その時の状況だったり、何をいちばんに優先するかっていうところではいろいろとありますが、優勝を目指しました。
「攻めきったね」「カッコよかったね」とも言われるのかもしれませんが、ミスには変わりなく、そこは失敗だったと思っています。
青木:言い訳や美化はしないのですね。
小椋:そういう結果が出てしまったので……。もし最終戦で逆転し、チャンピオンが取れていたら、あれは失敗ではなかったわけですし、すべては結果次第だと思っています。

青木:こうやって日本でファンと過ごす日は、いかがだったでしょうか?
小椋:楽しいですし、たくさんの応援が嬉しいですね。
青木:来年シーズンも期待しております! ありがとうございます。
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小椋選手はシーズン終了後。以下のようにコメントしています。
「僕たちはすばらしいシーズンを最後までやり遂げました。最後までタイトル争いをしました。最終的にタイトルを獲得できませんでしたが、多くのことを学びました。来シーズン、僕たちはまた挑戦します」
Writer: 青木タカオ(モーターサイクルジャーナリスト)
バイク専門誌編集部員を経て、二輪ジャーナリストに転身。自らのモトクロスレース活動や、多くの専門誌への試乗インプレッション寄稿で得た経験をもとにした独自の視点とともに、ビギナーの目線に絶えず立ち返ってわかりやすく解説。休日にバイクを楽しむ等身大のライダーそのものの感覚が幅広く支持され、現在多数のバイク専門誌、一般総合誌、WEBメディアで執筆中。バイク技術関連著書もある。