バイクとクルマではパワーユニットの考え方が全く違う!? ~木下隆之の、またがっちゃいましたVol.185~
レーシングドライバーの木下隆之さん(筆者)は、バイクとクルマでは、パワーユニットの考え方が全く別だと言います。どういうことなのでしょうか?
バイクではありえない、同じ現行車名で異なる搭載エンジン
先日、僕(筆者:木下隆之)がドライブしたシボレー・カマロSSの走りは強烈でした。搭載されるV型8気筒6.2リッターのパワーユニットは617Nmものトルクを爆発させます。ゼロヨン加速用のローンチコントロールを備え、さらには後輪だけ空転させることのできるバーンナウト機能も備わっているのです。これはもう狂犬ですね。

僕が紹介したいのはカマロSSのインプレッションではありません。バイクとクルマでは、パワーユニットの考え方が全く別である点を考察したいのです。
カマロにはV型8気筒6.2リッターのビッグエンジンが搭載されていながら、一方で直列4気筒2リッターエンジンが積まれているのです。同じボディ、同じプラットフォームなのに、です。気筒数は半分、排気量は3分の1以下のエンジンが同じクルマに搭載されている。これはもう、クルマとしては別物のはずです。
バイクの世界では、そんなことは起こり得ません。ホンダ「CB1300」シリーズに積まれるのは排気量1300ccの直列4気筒エンジンですが、それに400ccクラスの「CBR400R」の直列2気筒エンジンが搭載されることはありませんし、その逆もまた然りです。そもそも免許区分も異なります。
ですが、クルマの世界では、ひとつのプラットフォームに大小のパワーユニットを搭載することはそれほど珍しくはないのです。

極端な例では、レクサスUXでは、直列4気筒2リッターのガソリンエンジンがありながら、エンジンのない電気自動車をライナップしています。
BEV(バッテリー電気自動車)なのにエンジン冷却用のラジエターグリルも残っています(さすがにマフラーはありませんが)。細部にはガソリンエンジンと電気モーターの違いは無くはないのですが、ほとんど同じクルマなのに、パワーソースは異なるのです。
バイクとクルマの最大の違いは、機種にもよりますがパワーユニットをフレームの一部としているか否かです。エンジンも車体剛性の大切な要素としているバイクでは、搭載するエンジンを変えてしまうと剛性バランスが変化し、バイクとしての理想形から離れてしまうことが考えられます。
対してクルマは、モノコックフレームだけで剛性を完結させています。空間さえあれば、どんなエンジンを搭載しても成り立つのです。
バイクにとってもクルマにとっても、最大の重量物はエンジンです。総重量に対してエンジンが大きな比重を占めるバイクですが、クルマにとってはそれほど影響がありません。それが理由のひとつでもあります。
クルマとて厳密に言えば、搭載するエンジン次第で前後重量配分が変化しますが、走りが破綻することはありません。ですからV型8気筒6.2リッターと直列4気筒2リッターのカマロのような極端なことが起こるのでしょう。
こうしてバイクの目線でクルマを観察するのは楽しいものです。激辛マッチョなカマロSSはモンスタースポーツですが、派手なスタイルながらもカマロRSの方は、じつは大人しいクーペに成り下がります。
V型8気筒を積むカマロSSは限界域での旋回性が粗いのに対して、軽量なカマロRSは、速くはないがフットワークは軽快です。性格は全く異なるのだから、これはこれで面白いものです。
Writer: 木下隆之
1960年5月5日生まれ。明治学院大学卒業後、出版社編集部勤務し独立。プロレーシングドライバーとして全日本選手権レースで優勝するなど国内外のトップカテゴリーで活躍。スーパー耐久レースでは5度のチャンピオン獲得。最多勝記録更新中。ニュルブルクリンク24時間レースでも優勝。自動車評論家としても活動。日本カーオブザイヤー選考委員。日本ボートオブザイヤー選考委員。