「スーパーカブ」シリーズ以上の歴史を誇る、ロイヤルエンフィールド「クラシック350」
ロイヤルエンフィールドの新世代「クラシック350」は、スチールフレームに排気量349ccの空冷単気筒OHC2バルブエンジンを搭載する、歴史の長い伝統のスタイルを継承する最新モデルです。一体どのような進化を遂げているのでしょうか。試乗しました。
ネオクラシックではなく、最新仕様
車名から推察して、いわゆるネオクラシックモデル? という誤解をする人がいるかもしれませんが、ロイヤルエンフィールドが2022年から発売を開始した新世代の「CLASSIC 350(クラシック350)」は、大昔から同社の屋台骨を支えてきた空冷単気筒+スチールフレーム車の最新仕様です。

その原点は、1949年に同社初のスイングアーム装着車としてデビューした「バレット350」で、姿形を大きく変えることなく、長きに渡って熟成を続けてきたという視点で考えるなら、このモデルはホンダ「スーパーカブ」以上の歴史を誇るロングセラー車、と言っても過言ではありません。
外観の雰囲気は、先代以前とほとんど同様です。ただし各部の詳細を調べてみると、実際には2021年に登場した「メテオ350」の技術を転用する形で、シリーズ史上最大となる改革が行われています。
中でも最も注目するべき改革は、振動を緩和する機構としてクランクケース内に1軸バランサーを新設したことでしょう。そしてエンジンに関しては、動弁系をOHV2バルブからOHC2バルブへ、ボア×ストロークを70×90mmから72×85.8mm、1次減速をチェーンかっらギア式に変更したことなども、ロイヤルエンフィールドの新世代単気筒を語るうえでは欠かせない要素です。
なお、フレームは基本的に伝統のダイヤモンドタイプを継承していますが、下部には先代以前には存在しなかった、剛性向上に寄与しそうなボルトオン式のダウンチューブを追加しています。
誰もが気軽に味わえる、伝統のフィーリング
ロイヤルエンフィールドの空冷単気筒+スチールフレーム車には、新車で買える旧車的な資質が備わっています。もっとも私(筆者:中村友彦)の中では、その感覚は時代と共に変化していて、1990年代までは良い意味でも悪い意味でも旧車そのもので、万人にオススメするのは難しかったのですが、以後は着実に改良が進み、2010年頃から展開が始まったUCEエンジン搭載車は「昔ながらの単気筒に興味があるならぜひ!」と言いたくなるほど洗練が進んでいました。では最新の「クラシック350」はどうかと言うと……。

ルックスが好みだから、何となく興味があるから、ホンダ「GB350」の納車が待てないから……などという理由で購入しても全然OKだと思います。旧車的な味わいは依然として存在するのですが、このバイクは一般的な400ccクラスの日本車と大差ない感覚で付き合えるのですから。
まずはエンジンの説明をすると、ロングストローク+重たくて大きいフライホイールならではの鼓動感は相変わらずでも、新世代「クラシック350」は、スロットル操作に対する反応が明らかに良好で、高回転域で発生する振動が劇的に少なくなっています。もうちょっと突っ込んで説明をすると、先代以前に存在したスロットルを開けた際の“待ち”は程良い塩梅で解消され、先代以前では苦行という説があった100km/h巡航が難なくこなせるのです。おそらく、先代以前のオーナーがこのモデルに乗ったら、あまりの進化に面喰うことになるでしょう。

そしてエンジンと歩調を合わせるように、車体も進化しています。フロント19インチならではの安定感と軽快感、優しくてわかりやすいセルフステア、リアから伝わる濃厚なトラクションなどを維持しながら、包容力が格段に上がっていて、先代以前のような気遣いをすることなく、スポーツライディングとツーリングが存分に楽しめるのです。
ただしある程度以上の速度域になると、足まわりの落ち着きが徐々に悪くなってくるのですが、この問題は純正タイヤ(CEATのZOOM PLUS)を日欧の最新バイアス、ダンロップGT601やブリヂストンBT-45、ミシュラン・ロードクラッシクなどに変更すれば、アッサリ解消できそうな気がします。
ライバルは、ホンダ「GB350」とベネリ「インペリアーレ400」
現在の日本市場における「クラシック350」のライバルは、ホンダ「GB350」とベネリ「インペリアーレ400」です。空冷単気筒+スチールフレームという共通点を持つこの3機種は、いずれも面白いモデルで、個人的にはどの車両を買っても充実したバイクライフが送れそうな気がしますが、価格の安さでは55万円の「GB350」が圧勝です(クラシック350は69万1400円~72万8200円、インペリアーレ400は66万8000円)。とは言え、旧車っぽい雰囲気と乗り味では、海外勢のほうが優位ではないかと思います。

では「クラシック350」と「インペリアーレ400」にどんな違いがあるのかと言うと、最も大きな差異は車格でしょう。何と言っても装備重量/ホイールベースは、「クラシック350」が195kg/1390mm、「インペリアーレ400」が205kg/1440mmなのですから(GB350は185kg/1440mm)。と言っても、重さと長さは必ずしもマイナス要素ではないので、この件に安易な優劣は付けられないのですが、「クラシック350」を基準にするなら、「インペリアーレ400」は1クラス上と言いたくなる重厚さを備えているのです。
また、冒頭で述べたように「クラシック350」が長きに渡って生産が続く空冷単気筒+スチールフレーム車の最新仕様であるのに対して、「インペリアーレ400」(とGB350)は旧車の魅力を現代の技術で再構築したネオクラシックモデルです。その素性をどう感じるかは人それぞれですが、伝統や歴史という言葉が好きな旧車好きの場合は、「クラシック350」が最もしっくり来るのかもしれません。
Writer: 中村友彦
二輪専門誌『バイカーズステーション』(1996年から2003年)に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。年式や国籍、排気量を問わず、ありとあらゆるバイクが興味の対象で、メカいじりやレースも大好き。バイク関連で最も好きなことはツーリングで、どんなに仕事が忙しくても月に1度以上は必ず、愛車を駆ってロングランに出かけている。