Moto3佐々木歩夢選手 カタールGPで手からすり抜けたチャンピオンと、チェッカーの瞬間に感じたもの
2023年シーズンのMoto3クラスチャンピオン争いは、MotoGP第19戦カタールGPで決着しました。ランキング2番手の佐々木選手は奮闘の末、6位でゴールし、チャンピオン獲得はなりませんでした。カタールGPから4日後の最終戦バレンシアGPの木曜日、リカルド・トルモ・サーキットのパドックで、佐々木選手に話を聞きました。カタールGPの決勝レースを、佐々木選手はどう戦ったのでしょう。
カタールGPの決勝レースを振り返って……
「やりきったな」
佐々木歩夢選手(#71/ハスクバーナ)は、チェッカーを受けた瞬間、そう思いました。
MotoGP第19戦カタールGPのMoto3クラス決勝レースは、チャンピオンシップを争ったジャウメ・マシア選手(#5/ホンダ)がトップでゴールして優勝。佐々木選手は6位。この結果により、佐々木選手のチャンピオン獲得はなりませんでした。しかし、己の全力を尽くした佐々木選手の戦いぶりは、チャンピオン争いをするライダーにふさわしい、と言えるものでした。

カタールGPで、佐々木選手はMoto3クラスのチャンピオン争いの重要な局面を迎えていました。ランキングトップはスペイン人ライダーのジャウメ・マシア選手(ホンダ)、佐々木選手はランキング2番手です。カタールGPの時点で、チャンピオンシップは実質、マシア選手と佐々木選手の2人にしぼられており、その差は13ポイントでした。
“勝つしかない”、という重要なレース。佐々木選手はベストを尽くし、いつも通りのレースをして、勝ちたいと考えていました。
「最近は少しアグレッシブさが足りないなと思うところもあったから、カタールはアグレッシブに、しっかり優勝争いをして優勝できればいいな、と思って臨みました」
結論から言えば、レースは後味が良いとは言い難いものになりました。
3周目と7周目、6コーナーのブレーキングで、マシア選手は佐々木選手を押し出すようなライディングをして、佐々木選手は8番手付近にまで後退しては、そのたびにポジションを回復して優勝争いに加わりました。
残り3周ではマシア選手のチームメイト、アドリアン・フェルナンデス選手(#31/ホンダ)にも厳しいチェックを受けて、10番手にポジションを落とします。それでも最終ラップまでに7番手に浮上し、トップのマシア選手を追いかけましたが、届かず、6位でゴールしたのでした。

もちろん、レースでは全てのライダーが全力を尽くし、勝つために走っています。とはいえ、レオパード・レーシング(マシア選手とフェルナンデス選手の所属チーム)2人のそれは、佐々木選手に対する妨害の意図が含まれていると、はっきり分かるものでした。
果たしてこれが完ぺきにクリーンなチャンピオン争いだったのかと考えれば、疑問が残ります。
しかしそんなレース中、佐々木選手はあくまでも落ち着いていました。
「なるべく落ち着いてレースをしようと、昔から心掛けているんです。怒っても仕方ないし、走っているときに怒ったら遅くなってしまうから。だから、レース前半、マシアに6コーナーで押し出されたときも、そのあとアドリアンにやられたときも、“そういうことをしたいならすればいい”と思っていました。後退しても、1周あれば戻ってこられたし。マシアは僕を怒らせようとしてやっていたみたいですが、“やればいいよ”と思っていましたね」
「僕には速さもあったし、フィーリングもよかったから、気にしませんでした。アドリアンがアクセルを戻してトップグループから離されたときは、何も考える時間がなかったので、どうやってアドリアンを抜いて、どうやってあと2周でトップグループに追い付くか。それだけに集中しました。残り2周は、予選よりもアタックしてましたね」
「カタールはベストを尽くしたレースでした。それに、コントロールができていたんです。それだけに、ちゃんと戦いたかったですね。(ポイント差から考えて)この2戦で僕が優勝したとしても、マシアが2位だったら、彼がチャンピオンだったんですから」

激しく攻めながらも、佐々木選手はあくまでも自分の走りを守り、崩すことはありませんでした。後退するたびに、上位に舞い戻るその様子は、佐々木選手の速さもさることながら、心を乱すことなく、素晴らしく集中しているのだと感じさせるもの。佐々木選手は、ただ純粋に、誰よりも前でチェッカーを受けるために走っていたのです。
「本当に集中できていたレースでした。Moto3人生でいちばん大切なレースだったのも分かっていましたから。自分の中で、いままで学んできたこと全てを費やしただけです。集中力はどれだけ高いのか分からないけど、人と比べてあまりカッとならないのが自分の強みであるところ。落ち着いて、自分をコントロールしてレースできたのは誇りに思います」
チェッカーを受けた瞬間、佐々木選手は「やりきったな」と思ったそうです。
「最終ラップ、マシアがトップだったのは見えていて、僕は5番手。4番手とは0.6秒くらいの差がありました。でも、“セクター3をめちゃくちゃ速く走ったら、最終コーナーで追い付いて、抜ける”。そう思ったんです。だから、セクター3と4はものすごくアタックしていたんです。“やるしかない”、“このレースを獲れなかったら、転んでも関係ない”と思って。それくらいプッシュしていました」
「(レース後)セクタータイムを見たら、最終ラップのセクター1、2、3は、コースレコードになるくらいのタイムで走れていました。もう、全てを出し切りましたね。(最終ラップのセクター4で)ハイサイドしそうになるまでは、コースレコードくらいのタイムできていたんです。だから、チェッカーを受けた後は“やりきったな”って。仕方ない、とは思わないですよ。やっぱり。でも、自分のなかではそう思えるレースでしたね」
「あのレースは誇りに思えるレースでしたか?」と聞くと、佐々木選手は少し、複雑そうな表情を浮かべました。
「最後の2周までああやってプッシュできたのは、誇り……に思う部分もあるけど、やっぱり、負けちゃったレースですから……(笑)。そこがね、誇りに思えるかと言われたら、何と言ったらいいか分からないです」
「でも、やりきったレースだったかな。だから、今週は、やりきって、その結果が6位じゃなく優勝で終われるようなウイークにできるように、集中して頑張っていきたいです」

インタビューにやってきた佐々木選手は「お疲れ様です」と、いつも通りに朗らかな様子でした。佐々木選手の言葉にもあるように、自分ができることは「やりきった」ということもあったのかもしれません。
一方で、インタビューでは時折ヒートアップした口調が混じり、彼の消化しきれない何かをも感じることになりました。しかし、バレンシアGPの決勝レースでも、佐々木選手らしい力強い、自分のやるべきことに集中したレースを見せてくれるはずです。
■Moto3クラスとは……
Moto3クラスは4ストローク250cc単気筒エンジンのレーシングマシンで争われる。タイヤはダンロップのワンメイク。MotoGPクラス、Moto2クラス、Moto3クラスの中で参戦するライダーの年齢層が最も低く、Moto2クラス、MotoGPクラスへの昇格を目指す若いライダーたちがしのぎを削る。
Writer: 伊藤英里
モータースポーツジャーナリスト、ライター。主に二輪関連記事やレース記事を雑誌やウエブ媒体に寄稿している。小柄・ビギナーライダーに寄り添った二輪インプレッション記事を手掛けるほか、MotoGP、電動バイクレースMotoE取材に足を運ぶ。





