おもちゃ箱のようなモータースポーツ・イベント? 驚きの連続『グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード』

ロンドンから電車とバスを乗り継ぎ、『グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード』の会場にたどり着いたとき、何よりも驚いたのは、その規模でした。あまりにも広大な敷地に、あまりにもたくさんのプログラムが、各エリアにあるのです。そして、とてもたくさんの観客が、そのイベントを思い思いに楽しんでいるのでした。

1日じゃ全然足りない!! 確かに「おもちゃ箱」のようだった

 2023年シーズンのMotoGP取材のためにイギリスのロンドンに滞在していた約6カ月間、わたし(伊藤英里)にはちょっとした野望がありました。イギリスのバイクやレースに関連するイベントやミュージアムに、できるだけ足を運びたいと思っていたのです。これだけ長い間イギリスにいられることはそうそうあることではないし、なにより滞在中、少しでもその土地に馴染んでいる(あるいは馴染み始めた)間に、そうしたイベントやミュージアムに触れておきたかったのです。

『GOODWOOD FESTIVAL OF SPEED(グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード)』の会場へ。「グッドウッド・ハウス」の前の広場には、アミューズメント・パークのような巨大なオブジェがあった
『GOODWOOD FESTIVAL OF SPEED(グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード)』の会場へ。「グッドウッド・ハウス」の前の広場には、アミューズメント・パークのような巨大なオブジェがあった

 どこへ行こうかと模索しているとき、イギリス人のジャーナリストが「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードは行ったほうが良い」と教えてくれました。そして、知り合いのフォトグラファーも「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードは、モータースポーツのおもちゃ箱のようなイベントみたいですよ」と勧めます。

 わたしは「おもちゃ箱みたいなイベント」という言葉に、すっかり心を奪われてしまいました。一体どんなイベントなのだろう? とても気になって「行くしかない」という気持ちにさせられてしまったのです。

 イベントは2023年7月13日から16日にかけて、4日間開催されました。チケットを購入すべく動き始めたのがひと月くらい前からだったのですが、このときすでに、木曜日以外は「SOLD OUT」でした。元々、仕事の都合で木曜日しか行くことができなかったとはいえ、完売ぶりに「なんかすごいぞ、このイベント」という雰囲気を感じ取りました。

 当日の朝は、どんよりとした分厚い雲が空を覆っていて、ロンドンのビクトリア駅から電車とバスを乗り継ぎ、約3時間かけて会場へとたどり着いたときには、小雨がパラパラと降り出していました。2023年のイギリスの夏はあまり気温が上がらず、この日も長袖シャツに長袖のパーカーを着込んでいて、それでも冷たい風に震えるほど。そのあと、だんだん天気が回復して陽の光が射すのですが、冷たい風は1日中びゅうびゅうと吹いて、ずっと体が冷えていた気がします。

パドックに停められた(展示された)マシンに、たくさんの人が足を停めて熱心に眺めていた
パドックに停められた(展示された)マシンに、たくさんの人が足を停めて熱心に眺めていた

『GOODWOOD FESTIVAL OF SPEED(グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード)』(以下、グッドウッド)について調べてみると、第11代リッチモンド公爵が1993年にスタートさせた、モータースポーツ・イベントとのことでした。

 広大な会場は公爵の私有地というのですから、度肝を抜かれるとはまさにこのことです。とにかく広く、会場の中には膨大な数のクルマとバイクが停まるパドックがあり、そのパドックに停まるレーシングマシンが、実際にヒルクライムを走るのです。

 そして、これまた広いスペースに、主に各4輪メーカーの展示があり、またショップのテントも回りきれないほどたくさんあります。ちなみにショップのテントには、モータースポーツ雑誌やミニカーの販売だけではなく、一見するとレースには全く関係ないように思われる、お酒、靴磨き、アパレルのショップなどもありました。

「モータースポーツ・イベントだけれど、モータースポーツに関係がないもの」もいっしょくたになっているのです。これは良いイベントだなあ、と、素直に感心しました。その方が、来る人を選ばないと思うからです。

 メインイベントの「ヒルクライム」は、歴史的なものを含むレーシングマシンがグッドウッド・ハウスからスタートして行きます。参加する車両は少し離れたパドックから、観客の間を縫ってスタート地点まで移動します。これが文字通り「人の間を縫って」行くのです。つまり、貴重なレーシングマシンが、触れられるくらいに近いわけです。本当に驚きました。この距離感はパドックも同様です。パドックと言っても参加車両の展示にもなっていて、観客が貴重なレーシングマシンをすぐ近くで見られるのです。

1951年のノートン・マンクス。「このバイクで、(レジェンドライダーでありイギリス人の)バリー・シーンが2002年のグッドウッドで最後の勝利を飾った。最近、このバイクのオリジナルビルダーによってフルモデルチェンジされた」と説明書きがあった
1951年のノートン・マンクス。「このバイクで、(レジェンドライダーでありイギリス人の)バリー・シーンが2002年のグッドウッドで最後の勝利を飾った。最近、このバイクのオリジナルビルダーによってフルモデルチェンジされた」と説明書きがあった

 イベントは4輪がメインらしく、広過ぎるパドックではなかなか2輪エリアにたどり着けません。インフォメーションブースにいた英国紳士に「2輪パドックに行きたいんだけど」と聞くと、親切にも連れて行ってくれました。その紳士は60歳を超えているように見えます(彼らの見た目から年齢を判断するのは全く自信ないのですが……)。もしかしてもうリタイアしていて、趣味であるモータースポーツ・イベントのお手伝いをしているのかも? などと想像しながら「あまりにも広くて、迷っちゃったよ」と言うと、「そうだよね」と笑っていました。

 4輪パドックに比べるとささやかな2輪パドックは、1920年代のバイクなど、たくさんの貴重なレーシングマシンが並んでいました。そのなかには、ミック・ドゥーハンが走らせたホンダ「NSR500」(1997年)もありました。このマシンは栃木県の「モビリティリゾートもてぎ」にある「ホンダコレクションホール」から、イギリスまで運ばれてきたのだそうです。

 2輪のパドックもかなりフレンドリーで、偶然見かけたMotoGPライダー、ポル・エスパルガロ選手(※2023年シーズンをもってMotoGPのレギュラーライダーとしてのキャリアに終止符)や、1993年のロードレース世界選手権500ccクラスチャンピオン、ケビン・シュワンツにカメラを向けると、2人とも当たり前のように、にっこりとほほ笑んでくれました。

「こんな至近距離に世界最高峰のライダーがいるなんて!」と感動。グッドウッドでは、走るライダーもイベントの一部なのです。

パドックからヒルクライムへ、観客の間をゆっくりとマシンが移動する。このとき、白いツナギを来たマーシャルが誘導する
パドックからヒルクライムへ、観客の間をゆっくりとマシンが移動する。このとき、白いツナギを来たマーシャルが誘導する

「確かに、モータースポーツのおもちゃ箱みたいなイベントだなあ」と、実感しました。おもちゃ箱にはいろいろなものが入っていて、出てくるものはどれも、わたしを楽しませてくれるのです。そして箱に手を入れてみると、また新しい何かが出てくるのでした。

 グッドウッドは、そういうイベントです。常にあちこちでイベントがあって、展示があります。子供連れで食事をする若いファミリーや、ヒルクライムのコースサイドでレーシングマシンが走る姿を熱心に見る若者たち。ソフトクリーム片手に歩くお父さんと女の子。様々な人が、いろいろな楽しみ方でその場にいました。もちろん、わたしもその1人でした。

 帰りのバスに乗り込むと、横目にキャンピングカーが停まる駐車場が見えました。きっと彼ら彼女らは、数日間かけてこのイベントを味わい尽くすのでしょう。

「来年は、数日間かけて来よう……」

 ガタガタと乱暴に揺れるバスの中で、それでも歩き回った疲れとひたひたとした満足感から、ゆったりと睡魔がやってきました。

伊藤英里 Eri Ito

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Writer: 伊藤英里

モータースポーツジャーナリスト、ライター。主に二輪関連記事やレース記事を雑誌やウエブ媒体に寄稿している。小柄・ビギナーライダーに寄り添った二輪インプレッション記事を手掛けるほか、MotoGP、電動バイクレースMotoE取材に足を運ぶ。

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