【インタビュー】Moto2小椋藍選手、カタルーニャGPの優勝に「安堵」の意味。長年コンビを組むクルーチーフが語る「小椋藍の強さ」とは
長年、隣にいたノーマン・ランクは、小椋藍の強さをこう見る
そして今回は、小椋選手のクルーチーフを務めるノーマン・ランクさんにも話を聞くことができました。
ランクさんは小椋選手がFIM CEVレプソルMoto3ジュニア世界選手権に参戦した2017年からコンビを組んでおり、今季、小椋選手がイデミツ・ホンダ・チームアジアからMTヘルメット – MSIに移籍した際にも、小椋選手の希望で共に移籍しています。
「自分にとってほかのメカニックとは違う、特別な存在です」と、小椋選手が信頼を寄せるクルーチーフなのです。

ランクさんは、「外は騒がしいから」と言って、チームのトラックに案内してインタビューに応じてくれました。
元々はライダーだったドイツ人のランクさんは、ヨーロッパ選手権やドイツ選手権などに参戦したのちに、50ccから125ccのレーシングバイクをレンタルする会社を設立。元GPライダーがそのバイクをレンタルした縁で、クルーチーフとして、MotoGPのパドックでの仕事をスタートしたそうです。初めてのインタビューでしたが、ランクさんはとても饒舌でした。
「ル・マンですでに、我々が正しい方向にあるのだという大きな兆候は見えていた。我々のターゲットはただレースに優勝することではない。チャンピオン争いをすることだ。だから、カタルーニャはとてもうれしかったよ。我々があまり強くないサーキットで、彼(小椋選手)が勝ったんだからね」
カタルーニャGPの小椋選手の優勝についてそう語ったランクさんに、小椋選手のタイヤマネージメントについて尋ねました。カタルーニャGPでは、フロントにミディアムタイヤを選択するライダーがいる中、小椋選手は前後ソフトを選択。そして、フランスGPに続き、後方からの追い上げと終盤でのオーバーテイクに成功しているのです。
「ピレリのタイヤ選択は、少し違うんだ。ミディアムタイヤは、硬めのタイヤ、というだけではない。ミディアムタイヤで旋回性が良いと感じるライダーもいるし、シャシーにもよるが、ソフトのほうが良いというライダーもいる」
「ただ、最も重要なことは、彼がタイヤをゆっくり理解しているということだ。彼はライディングスタイルを適応させている。序盤はフロントタイヤをより多く使ってラップタイムを稼いだ。レース終盤に立ち上がりでタイムを稼ぐのにリアが必要だと知っていたからだ。つまり、レース中に彼は自分のスタイルを変えたんだ。レースを正しく理解していたということだ」
小椋選手の優勝を含め、ボスコスクーロ勢が今季、5勝を挙げています。結果を見るとボスコスクーロはカレックスよりも優れた部分があるのではないか、と思えます。しかし、これについて、ランクさんは否定しました。
「外からはそう見えるだろう。確かにバイクは良いが、バイクだけではないんだ。ライダーのためにバイクをセットアップしなければならない。今季、4台のボスコスクーロが参戦していて、ライダーのセットアップはかなり違う。ボスコスクーロのライダーチョイスは、非常に賢い。トップクラスの4人のライダーを揃えたことで、パッケージが良くなった。4人の速いライダーがいる。つまり、ひとつのセッションで4つの良いタイムがある。連鎖反応のようなものだ」
「カレックスはライダーチョイスがちょっとアンラッキーだった。カレックスを使っている(チェレスティーノ・)ヴィエッティはチームを移籍して、新しいサスペンション、WPを使うことになった。それで今は苦しんでいるんだ」

それでは、ランクさんが見る小椋選手の強みは何でしょうか。タイヤマネージメントか、ブレーキングか……。しかしランクさんは、最初に週末のアプローチを挙げたのです。その答えは、カタルーニャGPの優勝の要因につながるものでした。
「最も優れている点は、バイクをセットアップするために、私やクルーと共にその週末をどう始めるのか、どう考えるのか、どのように分析するのか、という取り組み方だ。セッションの度にバイクを改善し、彼自身のライディングも向上させていくんだ。そして、多くはないが、はっきりとしたコメントをする」
「常にレースペースについて考え、取り組んでいる。1発の速さについてはそこまで気にしていない。彼は、10周を速く走るセットアップを望んでいる。たった1周のスーパーラップではなくね。レースでは10周、20周の安定したラップタイムが必要だ。そして、タイヤをマネージメントしなければならない。つまり、ユーズドタイヤでできるだけ長くラップタイムを維持することが、彼の最も優れている点だと思う」
「また、レースでバトルになったときに、バイク、タイヤの状態が良ければ、ほとんどの場合、彼が勝つ。彼は、ブレーキングでとても強いんだ。バイクの止め方を知っている。でもそれは、分析的、実践的に取り組み、週末をスタートし、我々と取り組んだ結果なんだ」
さらにランクさんは「彼の長所は、目標をたったひとつに絞っていることだね」と言います。確かに、外側から取材をする身としてさえ、小椋選手の目標に向かう凄まじい集中力とそれに対する尽力は感じるものがありました。
「できるだけ速く走り、レースで目標を達成すること以外に、彼は注意を払っていない。わたしにはそう見える。ほかのことにかけている時間はない。そこに全てのエネルギーを注ぎ、努力しているんだ。彼にとって大事なことは、ここで勝つこと、そしてチャンピオンになることだ。彼は世界選手権でランキング5位、6位で終わるライダーではない。彼はレースに勝つ人間だ。そうとは口に出さずとも、彼はそれを知っている」
「小椋藍がノーマン・ランクに信頼を寄せている」ように、「ノーマン・ランクもまた、小椋藍をリスペクト」していることが窺えました。
そこで、「MTヘルメット – MSIにともに移籍したとき、迷いはなかったのですか?」と聞きました。ライダーと同じように、クルーチーフにとってもキャリアは重要です。そこには大きな決断と、決断させたものがあったはずです。
一方で、ライダーにとっては、自分に理解のあるクルーチーフが結果にとって重要なもののひとつであると言えるでしょう。バレンティーノ・ロッシ選手とジェレミー・バージェス、マルク・マルケス選手とサンティ・エルナンデス、Moto3クラス時代の佐々木歩夢選手とエマヌエーレ・マルティネッリなど、チャンピオンやチャンピオンを争ったライダーたちには存在の大きなクルーチーフがいることも少なくありません。
「なかった。迷いはなかったよ」と、ランクさんはきっぱりと言い切りました。
「私たちはとても良いデータベースを持っていて、お互いを知っているし、彼はとても特別なんだ。1人で新しいチームに行けば、彼がスタッフを信頼するのに、スタッフが彼を理解するのに半年かかる。私は彼を知っている。長いこと一緒に仕事をしているからね。そして、ここが彼をMotoGPに昇格させるプロジェクトを完了させるポイントだ。私はお金や仕事のためにここにいるのではない」
「数年前に彼のような才能あるライダーと出会えて、私はラッキーだよ。彼とともに成長して、彼から多くのことを学んだよ。クルーチーフというのは、ライダーに教えるだけではないんだ」
「私たちはすでに2度、チャンピオン争いをした。どちらも最終戦まで争ったが、チャンピオンを獲得できなかった。チャンピオン獲得のためにはたくさんのことが完璧でなければならないし、運もある。しかし、それは私たちの誇りでもある。最終戦までMoto2、Moto3クラスでチャンピオンを争ったんだ。昨年は負傷をした。しかし、今年は再びチャンピオン争いをするよ。私としては、このプロジェクトに参加できて、これ以上嬉しいことはないんだ。それが、質問に対する答えだよ」
2024年シーズン、小椋選手は優勝という形でチャンピオン争いに名乗りを上げました。カタルーニャGP終了時点で、Moto2クラスのチャンピオンシップのランキング3番手につけています。ここから、ランクさんとともに3度目のチャンピオン争いに臨むはずです。
Writer: 伊藤英里
モータースポーツジャーナリスト、ライター。主に二輪関連記事やレース記事を雑誌やウエブ媒体に寄稿している。小柄・ビギナーライダーに寄り添った二輪インプレッション記事を手掛けるほか、MotoGP、電動バイクレースMotoE取材に足を運ぶ。





