一体なぜ? 53年目の課題 今こそ必要な「二輪車安全運転指導員」と、現場のジレンマとは
バイク乗車中の事故は、自転車乗車中の死亡者を追い越すほど都市部では高止まりしています。また地方では、高校生の送迎に悲鳴を上げる保護者がバイク通学を求めても、学校が二の足を踏んでいるケースもあります。どちらにも必要なのは継続的な「二輪車安全運転講習」です。しかしその制度が、存続の瀬戸際にあります。
遠距離通学で保護者が望んでも「バイク通学できない」背景
急速に進む公共交通の衰退──バス、列車を問わず、各地で減便と廃線が進みます。通学路線では、かろうじて朝の通学時間帯の移動が確保されることもありますが、部活後の帰宅時間帯までは支えてくれません。市町村がスクールバスを手当したとしても、同じ不便さは残ります。
結局、過疎の通学は保護者の送迎に頼るしかありませんが、それを変える唯一の手段が、生徒の「バイク通学」と期待されています。

唯一の通学手段である民営バス路線が廃止された地域の保護者を関係者が代弁します。
「学校も保護者の送迎が限界にあることを理解している。親はそれならバイク通学を認めてくれないかと頼むわけですが、学校はそれだけでは納得しないんです。その理由のひとつが、免許取得後の安全運転。休みの日に乗るだけなら家庭の責任ですが、通学で認めるとなると、そうはいかない」
二輪車の安全運転講習は各地の指定教習所が引き受けるという方法があります。原付免許の人は、いずれ上位免許を取る可能性もあるからです。
しかし、教習生の減少で教習所はギリギリまで人を減らしています。前述の関係者はこう訴えます。
「親がバイク通学を認めて欲しいというような地域は、山坂もあって子どもが自転車で1時間以上かけて通うところ。人が少ないから電車やバスがなくなるような場所で、教習所も相当な覚悟が必要。では、警察署が講習会を開いてくれるかというと、交通課のおまわりさんも人手不足。安全運転講話ぐらいはできるが、講習は地域に根ざして継続的に安全運転講習をできるような人が望ましい、というだけです」
過疎に悩む自治体も、移動の足が確保できないことを危ぶんでいます。ある地方の首長はこう話します。
「高齢化だけが注目されているが、公共交通が無くなれば、子どもを持つ親は便利のいい都会に引っ越すしかなくなる。仕事の関係で親は地元に残って、子どもだけが寮などに入ったとしても、子どもはもう戻ってこない。生徒自身が移動手段を持つことは、地元で若者が暮らすためにも必要だ」
安全運転講習の必要性を実感した関係者は、「二輪車安全運転指導員」の資格に注目しました。制度を運営するのは全国の交通安全協会。警察行政OBで構成される団体です。
指導員の資格取得条件は、原付以上のバイク免許を取得して3年以上経過したライダーで、講習と審査で資格が得られます。しかし、2025年の審査会場は首都圏を中心にわずか9都県。過疎に悩む地方では、ほぼ開催されていないの状況です。
東京と大阪、自転車乗車中を追い越す交通事故死者封じ込めにも役立てるはずが……
原付を代表として、バイクは「市民の足として大活躍」と伝えられることもありますが、必要な地域ほど頼りにならない存在に陥ろうとしています。
「二輪車安全運転指導員」制度は、制度が発足した1972年から昭和、平成の交通安全を下支えしてきました。
1970年代には原付と自動二輪の2種類だけだった免許区分が、小型、中型、限定解除(現在の大型)と細分化され、ヘルメットの着用義務もできました。事故増加を厳罰化と安全運転教育で抑えようとした時代です。
30年以上にわたって指導員を続けてきた関係者が振り返ります。
「指導員による安全講習は、本当に盛り上がったんです。各地で独自色を生かして、民間の土地だけでなく、自動車学校のコースや警察の運転免許試験場を借りて開催したこともあった。ところが、放置駐車の厳罰化で登録台数が減り始めるのと比例して、開催回数も数えるほどに減り、指導員が参加する講習会もほとんどなくなりました。指導員の謝礼どころか昼食も出ないようになり、安全運転を伝えなければと熱心に活動をしていた人ほど熱が冷めてしまったんですよ」
そんな状況でも、安全運転指導員は求められているとも言います。
「女性ライダーが多くなったと言いますけど、コロナ禍で免許を取得し、バイクを買った人が、公道デビューできずにバイクを手放す人もいると聞いてます。教習所を出ただけで終わっている人が、すべてライディングスクールに行くわけにはいかないけど、もう少し不安の無いように乗りたい、というライダーの要望に応えられるような講習は必要です。ただ、バイクの乗り方は誰でも教えられると言っても、基本的なことでも他人に教えるとなると、指導員のような資格は必要です」
しかし、現実は指導員の高齢化で、活動に参加できる実働人数も減少しています。
別の講習関係者はこう指摘します。
「指導員の資格を持っている人のほとんどは70代、60代。50代が資格取得の最後ぐらいではないでしょうか。もちろん講習会を開催している都県では新しい世代も出てますが、その資格を活かせる場所がほとんど無い」
東京都や大阪府で発生するバイク乗車中の死亡事故は、自転車乗車中の件数を追い越して、歩行者に次ぐ2位争いを繰り広げています。
バイク業界団体が参加する会議体「バイク・ラブ・フォーラム」は、次の3本柱で2030年までに2020年比でバイク事故死者数の半減を目指します。
・一般ライダー向け安全運転教育の充実と啓発
・二輪車利用高校生への安全運転教育の充実と体制強化
・二輪車利用事業者、通勤利用者への安全運転教育の強化
2024年度、全日本交通安全協会の調べでは、16都道府県で受検したライダーは168人。そのうち159人が合格しました。
2025年度の開催は18都道府県で予定しているとしますが、一方で、「日本二輪車普及安全協会」がウェブサイトに掲載する審査会場は8都県しかありません。
今こそ必要とされる「二輪車安全運転指導員」制度。その取り組み姿勢が問われています。
Writer: 中島みなみ
1963年生まれ。愛知県出身。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者を経て独立。行政からみた規制や交通問題を中心に執筆。著書に『実録 衝撃DVD!交通事故の瞬間―生死をわける“一瞬”』など。


