オートマチックやクラッチ操作不要と言えば? 昔から様々な機構を開発していたホンダのバイクとは
最近はクラッチレバーの操作ナシで乗れるスポーツバイクが増えています。中でもホンダは「DCT」と「E-Clutch」の2種類を用意していますが、じつは昔から開発に心血を注いできたメーカーなのです。
ホンダの「クラッチレス」は、1950年代に始まった
バイクを「趣味の乗りもの」と捉えると、クラッチレバーやギアチェンジの操作は「楽しみ」の範疇になりますが、配達や移動手段など「仕事の足」として考えると、これらの操作は煩雑で利便性を損なうモノと言えます。そんなは相反する課題に対して、ホンダは長く研究・開発を重ねてきました。
※本記事での「クラッチレス」という表現はクラッチレバーが非装備、またはクラッチレバー操作が不要という意味です。クラッチ機構を持たないという意味ではありません。

その第1弾が、1958年に発売された「スーパーカブC100」です。発進・停止時はもちろん、ギアチェンジの際にもクラッチレバー操作が不要な「自動遠心クラッチ」は、バイクにとって革命的な機構でした。
「スーパーカブ」は操作が容易で配送業務などで大活躍し、日本の経済を支えたバイクと言っても過言ではありせん。
そこからホンダはクラッチレスに続き、オートマチックの開発にも力を入れて現在に至ります。
というワケで、ホンダのAT&クラッチレス技術の数々を、年を追って見ていきましょう。
油圧で無段変速に挑んだ1960年代
「スーパーカブC100」の自動遠心クラッチで大成功したホンダは、バイクの「無段変速」に着手して作り上げたのが、スクーターの「ジュノオM80」(1961年)、「ジュノオM85」(1962年)です。
このスクーターにはイタリアのバダリーニ社がパテントを持つ、油圧機械式無段変速機の「HMT(ハイドロリック・メカニカル・トランスミッション)」を、ホンダが特許を取得して独自に改良を加えた2輪車用オートマチックの「HRD」を採用。この機構は回転力の伝達を油圧トルクと機械トルクに分割し、変速比を効率よく変えて後輪に伝える方式です。
かなりハイメカの意欲作でしたが、オイル漏れの懸念から高圧な油圧作動が達成できず、結果的にパワー不足の感があり、商業的には成功しませんでした。
ATスポーツは不振だが、「ロードパル」は大成功!
1970年代にはスポーツバイクのオートマチック化にチャレンジし、「ドリームCB750FOUR(K7型)」をベースとする「EARA」(1977年)と、「ホークII」がベースの「CB400Tホンダマチック装備車」(1978年)が登場します。
こちらは4輪車のオートマチックでお馴染みのトルクコンバーターをバイク用にコンパクトに仕上げて装備しました。
AT車なのでエンジン特性も穏やかに設定され、最高出力は「CB750FOUR(K7)」の66馬力に対して「EARA」は50馬力でした。これが主たる原因とは言い切れませんが、販売的には不振でした。
それと当時のライダーには 「スポーツバイクでイージーライディング」という発想が、まだ生まれていなかったのかもしれません。
対する排気量50ccクラスのコミュータ―では、またしても革命的な「ロードパル」が1976年に発売されます。女性にも乗りやすいミニサイクル並みのサイズとスタイルに、クラッチレバー操作が不要な自動遠心クラッチを装備し、エンジン始動は独自のゼンマイ式のタップスターターを装備。変速機構のない1速エンジンですが、操作の容易さと乗りやすさで爆発的にヒットしました。
「スクーター=Vマチック」の公式
空前のバイクブームを迎えた1980年代に、ホンダはベルト式無段変速機の「Vマチック」を世に送り出します。これはエンジン側と後輪側に備えた幅が変わるプーリーと、V字断面のベルトで構成されます。

エンジン回転数(スピード)によって、遠心力とウェイトローラーの働きで無段階で変速比が変わります。また自動遠心クラッチと組み合わせることで、もちろんクラッチレバー操作も不要です。
このVマチックは1979年の原付バイク「カレン」が初装備でしたが、1980年発売の「タクト」で大ヒットします。シンプルでコンパクトな構造ゆえに、エンジンとスイング―アームや後輪までの駆動系を一体化した「ユニットスイング式」に適し、フラットフロアや後に標準装備されるシート下のメットインスペースなど、スクーターの形態と使い勝手を一気に向上させたからです。
そしてVマチックは進化と熟成を重ねながら、2000年代に流行したビッグスクーターはもちろん、現在の国内外のスクーターのほぼ全車が採用しています。
名称はメーカーによって異なりますが、4輪車で馴染みのあるCVTと呼ぶメーカーもあり、基本的な構造は同じです。
再び油圧機械式無段変速に挑戦!
1990年代はVマチックの進化が進み、電子制御によって無段変速を敢えてMT風に楽しめる「Sマチック」などを開発し、250ccクラスのスクーターのスポーツ性を高めたりもしました。
それと並行して、1960年代の「ジュノオM80/M85」に採用した油圧機械式無段変速機「HRD」を改良し、「HFT(ヒューマン・フレンドリー・トランスミッション)」と名を変えて、なんと全日本モトクロスに参戦。実戦で開発を行いながら1990年はランキング7位を獲得し、翌年にはシリーズチャンピオンを獲得しました。

そのHFTをさらにブラッシュアップして市販車に投入し、新たな乗り味にチャレンジしたのが2008年に発売された「DN-01」です。61馬力を発揮する排気量660ccの水冷V型2気筒エンジンにHFTを組み合わせ、スクーターとは異なる「オートマチック・スポーツ」を具現化しました。
……が、残念ながらヒットに至りませんでした。登場するのが早過ぎたのか、新しい線を狙い過ぎたのか、不振の原因は分かりませんが、もしかするとベルト式無段変速機のVマチックの完成度が高いがゆえに、既存のビッグスクーターやメガスクーターとの違いを見い出せなかったからかもしれません。
もはやラインナップの半数以上がAT&クラッチレス!?
そしてホンダは2010年にオートマチックの新機構「DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)」を開発し、ミドルクラスから1000ccクラス、さらにはフラッグシップの「ゴールドウイング」にも装備しました。
さらに2024年にはクラッチレバー操作を電子制御で電動モーターが行う「E-Clutch(イー・クラッチ)」を世に送り出し、2025年1月には大人気の「レブル250」にE-Clutch装備車が加わったのは記憶に新しいところです。
ちなみに、E-Clutch装備車はAT免許では運転できません。現在のホンダのホームページを見ると、AT免許で乗れる車両が20車種以上あり、E-Clutch装備車や原付(50ccモデルはVマチックまたは自動遠心クラッチのみ)を合わせると、全ラインナップの半分以上がクラッチ操作ナシで乗れるバイクになります(競技用車両を除く)。
かつては相反すると思われたスポーツ性と利便性ですが、このラインナップ状況を見るとホンダはそれを両立するべく、AT&クラッチレス技術を磨いていることが強く感じられます。
Writer: 伊藤康司
二輪専門誌『ライダースクラブ』に在籍した後(~2005年)、フリーランスの二輪ライターとして活動中。メカニズムに長け、旧車から最新テクノロジー、国内外を問わず広い守備範囲でバイクを探求。機械好きが高じてメンテナンスやカスタム、レストアにいそしみ、イベントレース等のメカニックも担当する。















