その呼び名カン違い!? あの頃「ハングオン」はライダーの憧れ……だったけど、ホントは「ハングオフ」!?
1980年代初頭の世界GPレースで、大きく腰をズラして路面にヒザを擦り付けて旋回する「ハングオン」を初めて目にした当時のライダーたちは、こぞってマネをしました。ところがこのフォームの呼び方、じつは「ハングオフ」の間違いだったようです……。
沸いた!! 「ハングオン」に憧れた80年代
いまどきのバイクレースでは、コーナーで腰をズラしてヒザを擦るのは当たり前で、一般ライダーが参加するサーキット走行会でも、多くのライダーがヒザを擦っています。バイクブームに沸いた1980年代初頭、世界GPのトップライダーがコーナーでヒザを擦る姿を初めて見た当時のライダーたちは大いに憧れました。そしてこのフォームを「ハングオン」と呼び、多くのライダーがマネをしました。

コーナーでハングオンするのは、「当時のレーシングマシンは現代よりバンク角が浅くてタイヤのグリップ力も低かったため、身体をイン側にズラして車体をなるべく傾けないようにした……」というような珍説もありましたが、主たる理由は「身体の重心をイン側の低い位置に預けてコーナリング性能を引き出す」ためであり、これは現代も基本的に同じです。
とはいえ正しい効果や理由はともかく、派手なフォームと「ハングオン」という言葉の響きがカッコ良くて、当時のスポーツ派ライダーはこぞってマネをしました。皆が見様見真似で、なかにはナゼか両方のヒザを大きく開いたライダーの姿もありました。
その呼び名は、カン違いだった!?
ところが1980年代前半のバイク雑誌などで頻繁に登場した「ハングオン」というコトバは、いつしか姿を消して「ハングオフ」に変わっていました。
「英語ではHang off(ハングオフ)と呼ぶのが正しく、日本では間違って広まった」とか「ハングオンは和製英語」いうのが理由のようです。
とはいえ英語にもハングオン(Hang on)という言葉は存在します。「しがみつく、掴む」という意味を持つので、あながち間違ってはいないのでは……と感じなくもありません。
対するハングオフ(Hang off)は「宙づり、ぶら下がる」といった意味なので、やはりコチラが正しく感じます。
とはいえライディングテクニック的には、バイクに「しがみつく」のも「ぶら下がる」のもNGなので、あくまで形態としての表現かもしれません。
ちなみに現在のライディングテクニックの記事などでは、腰をイン側にズラすフォームを「リーンイン」と表現することが多く、ハングオフという文言はあまり目にしません。
最初に腰をズラしたライダーは?
ハングオン(ハングオフ)という言葉やフォームが流行ったのは、前述したケニー・ロバーツやフレディ・スペンサーなどの活躍が大きいのですが、じつは1960年代頃にも腰をイン側にズラして曲がるライダーはいました。
ちなみに、ロードレースで初めてそのフォームで走ったライダーは、フィンランドのヤーノ・サーリネン選手と言われます(諸説あり)。
彼は北欧のアイスレース(氷結したコースを、長いスパイクを前後タイヤに打ったマシンで70°以上もの深いバンク角でスライドしながら走る)の出身で、氷結路面とバイクの車体に腰が挟まれる極端なフォームをロードレースでも活用しました。
しかし当時はまだハングオン(ハングオフ)という呼び名はありませんでした。時代的にバイク雑誌などで海外のレースを掲載したり、話題になる機会が少なかったからでしょうか。
他にもあるぞ、ハングオン!
とはいえ「ハングオン」の流行は、ゲームやラジコンの世界にも波及しました。ゲームで有名な「セガ」はアーケードゲームとして、初の体感ゲーム機「HANG-ON」を1985年にリリースし、全国のゲームセンターで大ヒット。プレイヤーはハンドル部にモニターが設置されたバイク型の躯体に跨ってステップに足を載せ、車体をバンクさせるとモニター画面のバイクも傾いて進路を変え、ハングオンのライディングを疑似体験できました。
またラジコンで有名な「京商」は、1992年にRCバイクの「ハングオンレーサー」を発売。乗車するライダーのフィギュアは関節が13カ所もあり、車体を傾けると連動してヒョイッと腰をズラしながらイン側のヒザを開きます。
重心移動で曲がる実車さながらの操縦の難しさや精緻なメカも相まって、いまだファンが多いRCバイクで、毎年のように再版される人気の高さがあります。
いまや「ヒジ擦り」の時代!!
1980年代のレースシーンのトップライダーの走りは衝撃的で、ハングオン(ハングオフ)という言葉も流行しました。それから40年以上が経ち、現在のMotoGPやスーパーバイクレースでは、ヒザどころか「ヒジを擦る」コーナリングフォームをよく目にするようになりました。

ヒジを擦る理由も、かつてのハングオン(ハングオフ)同様にいろいろな説があるようですが、さすがにバイクブームの頃とは時代が違うので、峠道でヒジ擦りのマネをするライダーはいないようです……(と言うか、キケンです)。
Writer: 伊藤康司
二輪専門誌『ライダースクラブ』に在籍した後(~2005年)、フリーランスの二輪ライターとして活動中。メカニズムに長け、旧車から最新テクノロジー、国内外を問わず広い守備範囲でバイクを探求。機械好きが高じてメンテナンスやカスタム、レストアにいそしみ、イベントレース等のメカニックも担当する。










