アメリカから里帰りした超激レアな非売品「ハンターカブ」を現役復帰!! 不動車エンジン復活の「方程式」とは?
スーパーカブC100の大規模プロダクションを担当した、三重県の鈴鹿製作所の稼働が順調になった頃から、C100シリーズをベースにした派生モデルも積極的に開発投入されました。その中には、カタログにも掲載されなかった「非売品」モデルもあったそうです。
不動車のエンジンを復帰させるポイントは?
OHVエンジンを搭載するホンダ「スーパーカブC100」シリーズに限らず、不動車になったバイク(放置期間が長くなると特に始動不良になりやすい)を現役復帰さるケースでは、排気量やシリンターの数に違いがあっても、4ストエンジンであればその「方程式」はほぼ同じと考えられます。

作業の流れを、確認すると、
① ガソリンをしっかり供給できていますか?
② キャブレターの機能は正常ですか?
③ スパークプラグは着火していますか?
④ コンプレッション(圧縮圧力)はありますか?
あくまでザックリした流れですが、これらの項目を確認してから、それぞれの項目に対して、より詳細なチェックを進めることで、どこに問題があるのかが明確になります。
オーナーさんから依頼を受けた車両は、発売当時、拡販に貢献したディーラーに対し、アメリカホンダモーター、もしくは本田宗一郎社長(当時)ご本人から手渡されたというメッキ仕様の非売品、「C105H」通称ハンターカブ(1962年式)を里帰りさせた一台ですが、このバイクでは、スパークプラグを取り外してメインキーをONにしてから、プラグのネジ部分をシリンダーヘッドへ押し付け、キックアームを手で押し下げることで、スパークプラグの着火確認はできました。
小さな火が元気良く飛んでいたのでOKと判断しました。さらにプラグ穴に指先を当て、キックアームを押し下げると、ポンポン、ポンッと元気良く指先を押し上げる圧縮感もあります。このように簡単な点検で、項目③と④はクリアできたと考えても良いでしょう。
着火と圧縮はOK!! 残るは燃料共有の確認
そうなると問題は、①と②になります。②はキャブレターを分解して内部を点検洗浄し、各部の通路が通気していることを確認しなくてはいけません。C100で以前に経験したことですが、メインボディとフロート室の締め付け座面にある通路が、堆積したゴミで埋まっていて、始動不良になっている例が何度かありました。

そこで今回は、ガソリン通路よりも細い「キャブメンテナンス用ニードル」で通路を突っつきましたが、このキャブもやはり詰まり気味でした。取り敢えずは、メンテナンス用の細いニードルで通気確保しましたが、そんなコンディションだと知ると、完全分解後にキャブクリーナー液に浸して、徹底洗浄したくなるところです。
さらに遡った位置にあるガソリンタンクのコンディションにも要注意です。アメリカで使われていたガソリンにありがちな、ガム状のタール汚れがタンク底部分に堆積していました(アメリカ製ガソリンに含まれる添加剤がガム状タール=ワニスへ変質します)。

高温乾燥ヒーターのカーベック製「CVジュニア」に、取り外したガソリンタンクが収まったので、脱脂洗浄液で分解処理しました。60度の温度設定で1時間×3回の処理を、じっくり4日間行いました。タンクキャップ穴からLEDランプで内部を照らすと、付着している汚れの様子がわかります。正直、なかなか溶かすことができませんでした。そんな汚れを落としてから、花咲かGタンククリーナーでサビ取り作業を行いました。こんな手順でタンク内の汚れとサビをキレイに落とし、鉄板地肌が見えるようになりました。
タンク洗浄を行いながら、点滴タンクを利用してエンジン始動を行ったところ、キック数発で簡単に始動しました。始動直後には白煙を吹き出しましたが、エンジンが温まってからは白煙が減少。エンジンが冷えてから再始動→暖機、再び冷えてから再始動→暖機を数回繰り返したことで、白煙の出方は落ち着きました。これでオーナーさんからのリクエストが完了になりましたので、次は自身所有のスーパーカブいじりを楽しみます。今回も作業の手順は写真とキャプションを参考にしてください。
Writer: たぐちかつみ
フリーランスライター。バイクも作る国内自動車メーカーの生産技術開発部門を経てから大人向けのバイク専門誌「クラブマン」誌へ合流。同誌のメンテナンスコーナーが縁で、1995年春には「モト・メンテナンス」誌を創刊し編集長を務めた。同誌休刊後の2019年秋からは、内外出版社にて「モトメカニック」誌を創刊。現在も同誌編集長を務めている。













