一体なぜ? クルマでは常識の「バックギア」がバイクには(一部を除いて)無い理由とは 今後は装備が普通になる!?
どんなクルマ(4輪車)にもバックギアがあるのに、なぜバイクには無いのでしょうか。狭い場所や坂道で取り回しするときなど、バックギアがあれば便利ですが……。
押し引きすればいいから、バックギアは必要ない?
「バイクにはバックギアが存在しない」と言うと突っ込まれそうなので先に書いてしまいますが、バックギアを装備するバイクも少なからず存在します。逆に言うと、なぜほとんどのバイクはバックギアを備えていないのでしょうか。
たとえばクルマ(4輪車)は乗用車でもトラックでも、マニュアルトランスミッション(MT)でもオートマチック(AT)でも必ずバックギアがあります。バックギアが無ければ車庫入れすることもできないので(頭から突っ込んで停めたら出られない)、ある意味当然かもしれません。
対してバイクは、足つき性が良ければ跨ったまま地面を足で蹴ってバックできますし、バイクから降りて押し引きして取り回すことができるので、バックギアが無くてもさほど困りません……と言いたいトコロですが、足つき性が悪ければ(ライダーが小柄なら)跨ったままバックするのは無理。降りて押し引きするにも車重のある大型車だと、路面が前下がりの場所では後ろに引っ張ってバックするのはかなり大変です。
そんな時、「クルマのようにバックできれば良いのに……」と切実に感じます。にもかかわらず、ほとんどのバイクはバックギアを装備していません。

バイクのエンジンに、バックギア装備は難しい?
バイクにバックギアが無いのは、バイクが採用する「変速機(トランスミッション)」の構造が関係しています。
スポーツバイクの多くは「常時噛合式トランスミッション」を採用しており、(スクーターなどのCVT機構は除き)最近増えているスポーツ車のオートマチックの場合も、変速機の構造自体はMTモデルと大きく変わりません。
エンジン(クランクシャフト)の回転がクラッチを介してトランスミッションのインプットシャフトに伝わり、変速ギアで減速されてアウトプットシャフトと同軸のドライブスプロケットを回し、チェーンを介して後輪のドリブンスプロケットを回すことでバイクは前進します。

そのためこの構造でバック(後進)するには、エンジンを逆回転するしかありません……が、バイクに限らずエンジン(内燃機関)は簡単に逆回転させることはできません。
そこでトランスミッションのインプット側とアウトプット側の間に、もうひとつバック専用のギア(軸)を設ければ、アウトプットシャフトの回転方向が逆になるのでバックすることができます。すごくザックリ言えば、クルマのバックギアはこれに近い構造です。
バイク用にバックできる変速機を装備しないのは、構造が複雑になって大型化(重量も重くなる)するからでしょう。バイクはクルマのようにスペースに余裕がなく、とくにスポーツバイクは軽量・コンパクトなことも大切です。
そして前述したように、クルマと違って足で地面を蹴ったりバイクから降りて押し引きすればバックできるので、バックギアは不要、というコトでしょう。
バックギア(機能)装備のバイクも、少なからず存在する
繰り返しになりますが、重量のある大型車や、前下がりの路面でバックするのは大変です。というわけで、バックする機能を装備するバイクも存在します。
まずはホンダの大型ツアラー「ゴールドウイング」ですが、1988年のモデルチェンジで排気量1520ccの水平対向6気筒エンジンになった際に、電子制御式の「電動リバース」を装備しました。これはエンジン始動用のセルモーターを使ってバックさせるシステムです。
そして2018年のフルモデルチェンジで、オートマチックのDCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)を進化させた「第3世代7速+リバースDCT」を装備。こちらは常時噛合式のトランスミッションにリバースチェーンとリバーススプロケットを加えた構造により、エンジンの力でバックします。
ギア同士が噛み合う変速ギアだと、インプットシャフトに対してアウトプットシャフトは逆方向に回転しますが、チェーン&スプロケットとすることでそれぞれのシャフトが同方向に回転するため、バックすることができます。

他には、BMW Motorradの並列6気筒エンジンを搭載する大型ツアラー「K 1600 GTL」が、2017年モデルから「リバース・アシスト」が登場しました。こちらは機構図を見たところ、セルモーターを利用した電動リバースになります。
車量重量は「ゴールドウイング」が391kgで、「K 1600 GTL」が358kgと、いずれも超重量級なので、多少エンジンの寸法が大きくなったり重量が増しても、バックギア(リバース機能)が装備されるのはありがたい……というより必須かもしれません。
ちなみに、大型ツアラーと言えばハーレーダビッドソンも有名ですが、こちらは純正装備ではありませんが、以前から社外品でバックギアが販売されています。相応に高額で(10~20万円以上)取り付けるのに工賃もかかりますが、やはり便利なので装着しているユーザーも少なくないようです。
電動バイクはバックできるのが普通!?
バックギア(リバース機構)を装備するバイクは限られた大型ツアラーのみ……でしたが、じつは近年、とあるカテゴリーのほとんどのバイクが装備しています。それは電動(EV)バイクです。
電動モーターはエンジン(内燃機関)と異なり、簡単に逆回転させることができるうえに、従来型の変速機(トランスミッション)も不要なので、複雑な機構を追加しなくてもバックさせることができるからです。
カワサキ初のEVバイク「Ninja e-1」および「Z e-1」には、取り回し時に便利な歩行速度に近い微速で動かせる「ウォークモード」が備わり、前進だけでなくバックも可能です。
また世界初のストロングハイブリッドモーターサイクルである「Ninja 7 Hybrid」および「Z 7 Hybrid」にも、EVモデル同様のリバース機能付きのウォークモードを備えています。

郵便配達などで目にするホンダ「ベンリィ e:I/II」や3輪の「ジャイロ e:」、電動コミューターの「CUV e:」なども後進アシスト機能やリバースモードを備えています。
またホンダは初の本格スポーツEVバイク「WN7」を発表しましたが、こちらも微速前進・微速後進できる「ウォーキングスピードモード」を備えています。
このように、一部の大型ツアラーや電動バイクはバックギア、またはリバース機能を備えていますが、ほとんどの現行バイクが非装備です。
スポーツバイクとしての軽量・コンパクトさや価格とのトレードオフとも言える仕方ない部分でもあり、無くても乗れますが、バックギアがあったら良いな……と思うシーンが少なくないことも事実ではないでしょうか。
Writer: 伊藤康司
二輪専門誌『ライダースクラブ』に在籍した後(~2005年)、フリーランスの二輪ライターとして活動中。メカニズムに長け、旧車から最新テクノロジー、国内外を問わず広い守備範囲でバイクを探求。機械好きが高じてメンテナンスやカスタム、レストアにいそしみ、イベントレース等のメカニックも担当する。




















