1392.6万円の真価!! 「ブラフシューぺリア」日本上陸 試乗叶った「ロレンス」が教えてくれたこととは
すでにブランドの再出発から10年以上が経過している「Brough Superior(ブラフシューペリア)」は、高価な限定車を一部の愛好家に向けてデリバリーを続け、その事業が一過性でないことはすでに証明されていますが、日本上陸までには中々至りませんでした。しかし2025年、事態は一転。新生ブラフシューペリア社の社長であるティエリー・アンリエット氏から、日本の「モトコルセ」へ直接オファーが届いたのです。今回試乗したのは「ロレンス」。その名が示す通り、ひとつの人物と物語を背負った特別なモデルです。
ブランド復活から10年以上の時を超えて日本上陸
このバイクに出会い、走り始めた時、筆者(小川勤)は「バイクに長く乗り続けていてよかった」と、心の底から思いました。「Brough Superior(ブラフシューペリア)」の「Lawrence(ロレンス)」が放つ、佇まい、質感、空気を震わせる音、エンジンの奥から見える景色など、その美しさは唯一無二で高貴。そして、乗り味はどこまでも優雅なのです。
オーナー自身が細部までこだわることのできるオーダーメイドスタイルが生み出す、1392万6000円の車体価格(消費税10%込み)は桁違いですが、物作りの本質がわかる人が実車を見れば、その価格に納得し、その価値の高さに驚くことでしょう。それだけ「ロレンス」のデザインはアート的で、効率や量産といった物づくりから最も離れた存在だからです。

ブラフシューペリアという名前に反応する人は、それだけで特別なバイク好きでしょう。1919年にジョージ・ブラフが英国で創業したブランドです。
当時から量産というよりは1台1台オーダーメイドで組み立てられ、厳格なテストをパスし、スペックを実証した個体だけが愛好家の手に渡ったのです。
その品質と性能から、「バイク界のロールス・ロイス」と称えられ、ロールス・ロイス社もこの呼称を公認しています。これが当時、数多くあった英国ブランドの中でも一際特別な存在へと押し上げていたのです。
しかし1940年、第2次世界大戦の煽りを受けて、ブランドは一旦その歴史に幕を閉じます。 そして2010年代、南フランスのトゥールーズという街を拠点とする新たなチームにより、ブラフシューペリアは現代に蘇ったのです。
2013年のミラノショーで「S.S.100」のプロトタイプを発表し、翌年には3種のプレプロダクションモデルを展示。年間100台ほどという限定的な生産体制で、再びバイクを世に送り出したのです。
現在は、独自の車体構成とエンジンをプラットフォームに5つのモデルを展開しています。「復活したブランド」という印象を飛び越え、「ハイブランド」として欧米を中心に販売されています。
1台1台、完璧なこだわりを見せて同じプラットフォームとは思えない完成度の高さが特徴です。また、車両販売は量産と異なり、1人ひとりのオーナーに向けた1台限りのオーダーメイド。100年前と変わらないスタイルを貫いています。
筆者は、これまでに欧州のショーで何度も実車を観てきましたが、ここ日本で、やはり時間を忘れて眺めると色々な思想が見えてきます。また、日本の風景に馴染ませることで、ブラフシューペリアが日本にあることの現実が感動にも似た悦びとして湧いてきます。
削り出しパーツを多用した、量産では辿り着けない完成度
「ロレンス」という車名から、1962年に映画にもなった『アラビアのロレンス』ことトーマス・エドワード・ロレンス(T.E.ロレンス)を思い浮かべた人は、相当の映画好きでしょう。
T.E.ロレンスは、現在世界的に注視されている中東情勢の源流となったパレスチナ紛争に関わった英国の将校であり、一方で文学者、冒険家としても知られた人物です。生涯で7台ものブラフシューペリアに乗り継ぎ、8台目をオーダーしていた頃に、ブラフシューペリア運転中の事故により亡くなりました。
「ロレンス」という車名は記念やオマージュでなく、T.E.ロレンスの精神と思想を、かたちあるものとして現代に継承するという明確な意志が込められているといいます。

実車を見て驚くのは、一切の妥協を許さない、量産では成し得ない作り込みです。多くがアルミ削り出しやチタン製パーツで構成されていることがわかります。見れば現社長であるティエリー・アンリエット氏がブラフシューペリアの全てを理解し、愛していることがすぐに伝わってきます。
エンジンはフランスのアキラエンジニアリングとの協業により設計された、排気量997ccの88度挟角Vツインを搭載しています。90度でなく88度を採用したのは、エンジンの前後長を短くするため。
スペックは102bhp/9000rpm、87Nm/7300rpmとなっています。エンジンを懸架するのはコンパクトなチタンプレートで、スイングアームはエンジンから生える車体構成となっています。
フロントまわりはフィオール式のダブルウイッシュボーンを採用し、ブレーキやサスペンションといったパーツもオリジナルデザインです。
全長2240mmでホイールベースは1540mmと、車体サイズは比較的大柄ですが、跨ると車格を感じさせないフィット感があり、足つきも心配なし。ポジションはワイドで、わずかに先端が垂れたハンドルがリラックスさせてくれます。
エンジンはセルを押した瞬間に目覚め、即座に安定したアイドリングを刻みます。
走って、見て、感動できる「ロレンス」
走り出すと、どこにも違和感はなく、それどころか車両価格の緊張を一瞬で解いてくれる馴染みやすさを披露。また、ハンドリングはVツイン特有の軽快性を持ち、ライダーの感性に自然とフィットする親しみやすさを持っています。

クラッチは全く力を必要としないほど軽く、ブレーキのタッチは柔らかめでしなやか。サスペンションと操舵系を切り離し、上下動の少ないフロントまわりは乗り心地の良さに貢献。またブレーキングでもノーズダイブしない(=キャスター&トレールが変化しにくい)ため、安定感が高いのです。これはタンデム時にも大きなメリットになるでしょう。
88度挟角のエンジンは90度Vツインに近い、理論上は1次振動と2次振動を打ち消す構造です。爆発間隔は272度→448度(クランク2回転)の不等間隔で、スロットルを開けると硬質なトルク感を発揮します。
低速域から扱いやすく、スロットルを大きく開けてもしっかりと応えてくれるのが魅力。十分なパフォーマンスを見せてくれます。高速域での巡航時も直進安定性が高く、その走りはどこまでも大らかかつ自由な気分にさせてくれるのです。

綺麗なものや、素晴らしいものを見たりすると、人は感動するということを「ロレンス」が教えてくれます。ライダーに当たる風さえも上質にし、とてつもない吸引力でライダーを魅了していくのです。
そして、魅了するのはライダーだけではありませんでした。撮影中、多くの人が声をかけてくれたのです。バイクを知っている人、知らない人、様々な世代が「ロレンス」に引き寄せられていたのです。それはまるで、T.E.ロレンスがブラフシューペリアの物語を現代の人々に語りかけているかのようでした。
他のバイクと比較することが、これほど無意味な存在はないでしょう。それだけブラフシューペリアの「ロレンス」の存在は別格なのです。
(写真=長谷川徹)
Writer: 小川勤
1996年にエイ出版社に入社。2013年に二輪誌『ライダースクラブ』の編集長に就任し、様々なバイク誌の編集長を兼任。2020年に退社。現在はフリーランスとして二輪媒体を中心に執筆を行なっている。またイベントレースも好きで、鈴鹿4耐、菅生6耐、もて耐などにも多く参戦。現在もサーキット走行会の先導を務める。







































