一糸乱れぬ走りの3連星に心奪われた夏の早朝!! ~木下隆之の、またがっちゃいましたVol.9~
猛暑に耐えうる年齢と体力は、決してリセットされずに衰えていく中、手練れのライダーたちのハートビートな走りに心奪われた。
手練れのライダーたちのフォーメーションにハートが高鳴る!
春先から海岸線、ツーリングを楽しむ集団が増える。何を好き好んでなのか、猛暑日が続く夏になっても減る気配はない。ライダーって、暑くても爽やかである。ただし、けっして憧れない。というより、年齢と体力の衰えはリセットできないから、憧れないのではなく、憧れられないのである。

それもけっして嫉妬に焦がれて意固地になっているわけではなく、こっちのおじさんのほうがステキだなぁ~ってシーンを目撃しまったからなのだ。仕事に向かう道すがら見掛けた原付き3台のおじいちゃんライダーにハートが高鳴った。目指すべき対象が、目の前にすくっと仁王立ちしていたのだからもうたまらない。
時刻は早朝6時頃だったと思う。その3台は、一糸乱れぬ完璧なフォーメーションを型取りながら、葉山の裏街道を軽快に走っていた。
年の頃なら70歳代。ニッカポッカを履きこなしているから、鳶か庭師かあるいは、役所から派遣されたシルバーさんかもしれない。ドカヘルは揃いの白。所属を現す記述はない。若者のようにステッカーでデコレートする気配もない。ワークマンで買ってきたに違いない、こだわりのなさなのだ。だからおそらく雇用形態でいえばフリーであろう。
先頭バイクの荷台にくくりつけたプラケースには、工具らしきものが積んである。2台目は空荷。足をポーンと投げ出したライディングフォームが板についている。しんがりからフォローするバイクの荷台には、クーラーボックスが積んである。おそらく3人が炎天下の鳶仕事でも枯れないための補給用水分が収まっているに違いない。ヤカンで煮出したお茶を昨晩のうちに冷蔵庫で冷やし、人数分の茶碗と共に準備したに違いない。そこまで想像すると、実に微笑ましく思えるのである。

まずもって、肩の力を抜いたそのライディングが感動的である。街道の流れを乱さぬ適切な速度を保ち、キープレフトは徹底していた。右折の30メートル前に先頭のバイクがウインカーを点滅させると、連鎖するように見事なタイミングでチカチカが連なった。まるで一台のバイクの連写画像を見ているかのような流れで、リーンインをしていったのだ。ハンドルで曲がるのではなく体重移動で旋回する感覚である。その道50年の手練れのライダーであることは明白であろう。
僕からすれば、真夏にツーリングを楽しむ若者よりも数字的にはこっちのほうが近い。まして、黙っていてもいずれこの年齢にはなる。だったらこっちを目指そうと思うのは、自然なことだと思う。
【了】
Writer: 木下隆之
1960年5月5日生まれ。明治学院大学卒業後、出版社編集部勤務し独立。プロレーシングドライバーとして全日本選手権レースで優勝するなど国内外のトップカテゴリーで活躍。スーパー耐久レースでは5度のチャンピオン獲得。最多勝記録更新中。ニュルブルクリンク24時間レースでも優勝。自動車評論家としても活動。日本カーオブザイヤー選考委員。日本ボートオブザイヤー選考委員。