往年のツーリング自転車をレストアする バイクやクルマだけじゃない奥深き世界とは?
旧車のレストアと言えば、古いモーターサイクルやクルマを思い浮かべますが、じつはクラシックやヴィンテージ自転車にも、レストアの世界があるのです。
バイクやクルマだけじゃない、自転車レストアの世界
バイク(モーターサイクル)やクルマではクラシックモデルのレストレーションは古くから盛んに行われ、それ専門のショップも多くあるなど、ビジネスとして確立しています。しかし自転車のレストア、とくにオリジナルにこだわった本格的なレストアを請け負うショップというのは、世界を見渡しでもごく僅かしかありません。

そのうちのひとつが、京都市右京区にある『サイクルグランボア』(以下グランボア)です。代表の土屋郁夫氏は古典的なツーリング自転車、いわゆる「ランドナー」に造詣が深く、自社のオリジナルモデルの製作と併せてヴィンテージモデルのレストアも行っています。
ランドナーは1980年末まで日本で大いに普及していたので50から60歳代の世代には懐かしい自転車かもしれません。そのルーツは1930年代から50年代にかけてフランスで流行した小旅行用自転車「ランドヌーズ」にあります。
このランドヌーズは、フレームにシマノやカンパニョーロといった部品メーカーの市販品を組み込むといった、現代のマスプロ自転車とは成り立ちが大きく異なります。「ルネ・エルス」や「アレックス・サンジェ」といった優れた自転車ビルダーが、フレームのみならずブレーキ、クランクといった主要部品も自社のオリジナルで設計・製作するという高級で手のかかったものだったのです。

土屋氏のレストアの真骨頂は、ビルダーによるカスタムメイドに近かった当時のランドヌーズの「メカ」までも忠実に再現してしまうことにあります。高度な加工技術はもちろん、当時の設計に対する深い理解、その変遷を把握していなければ不可能な仕事です。
「お客様から持ち込まれたヴィンテージ自転車のフレームの年式に沿った仕様や部品をオーダーで作っています。オリジナルの部品を再生することもありますが、フロント変速機やブレーキ、キャリア、ステムなどは当時の資料を参考にして複製することも多いですね。
フランスの自転車は1940年代から1950年代にかけて、様々な野心的なアイデアを具現化して黄金期を迎えました。そこから現代に至るまでに加工技術や素材は大きく進化・洗練しましたが、アイデアという意味ではほとんどがこの時代に生み出されたものなのです。
日本で自転車の本格的なレストアをコンスタントに手掛ける工房はごく僅かだと思います。とくにフランスの自転車に特化して行っているのは私ぐらいではないでしょうか」(土屋氏)

土屋氏は2020年1月に開催された「ハンドメイドバイシクル展」で1950年頃のフレームに「シクロランドナー」という、およそ100年前に設計された変速機が組み合わされた車両を出展しました。
私(筆者:佐藤旅宇)も会場で拝見しましたが、あらゆるところが独創的でありながら、調和が取れているという独特の佇まいに引き込まれました。価格は110万円。なんと1年以上の歳月をかけて製作されたのだとか。
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往年の自転車をレストアする世界も、モーターサイクルや自動車同様じつに奥が深く、興味深いものですね。
【了】
Writer: 佐藤旅宇(ライター)
オートバイ専門誌『MOTONAVI』、自転車専門誌『BICYCLE NAVI』の編集記者を経てフリーライターに。クルマ、バイク、自転車、アウトドアのメディアを中心に活動中。バイクは16歳のときに購入したヤマハRZ50(1HK)を皮切りに現在まで20台以上乗り継ぐ。自身のサイト『GoGo-GaGa!』も運営する1978年生まれ。