3Dスキャナーとプリンターによる原型の製作で迎える カスタムパーツの新時代
カスタムバイクの製作現場では近年、新たな技術の導入により量産までの効率が高められているといいます。どのような技術なのでしょうか。
高効率化と正確さを大幅に向上
鉄やアルミを切断し、曲げ、溶接するなどして生み出されるカスタムパーツたち……現在でもワンオフ(一品もの)は、こうした工程で生み出されるケースが多いのですが、それを「量産化」する工程の中で新たな技術として注目を集めるのが『3Dスキャナー』と『3Dプリンター』の存在です。

日本のカスタム&チョッパーシーンでは、まだ一般的に導入されているケースも少なく、この新時代の機械を使用することに「どのようなメリットがあるのか?」がイマイチ、ピンとこない方も多いでしょうが、先に兵庫県神戸市で開催された『ニューオーダーチョッパーショー2020(以下NOCS)』にて大阪の“モーターガレージグッズ”が件の『3Dスキャナー』と『3Dプリンター』を駆使し、外装を製作したカスタムを出展。同店にてこの新時代の機械を使い、パーツ開発を担当する山下英生氏に導入の理由やメリットなどを伺ってみました。
山下氏「この3Dスキャナーとプリンターを使う利点は商品の“正確性”と“デザイン性の高さ”、それと“修正能力の高さ”ですね。これまでタンクやフェンダーといった外装パーツを量産化する場合、鉄やアルミで製作したワンオフ(一品もの)パーツを元型にしてFRP(グラスファイバー)の雌型を作ったり、パテなどで元型を製作していたのですが、パソコン上のCADでデザインした商品をそのままプリンターで出力出来るのがメリットですね。

これまで弊社の内部や外注で製作してきた試作品がプリンターによって自動で製作出来るというのは大きいですね。手作業によってかかる時間や人件費を削減出来るのはもちろん、数値上の正確性や商品がキッチリ左右対称になるというメリットもあります。人間の手作業だと、完全な左右対称の商品を作るというのは意外と難しいので。
作業の手順としては、装着するベースモデルに3Dスキャナーを当ててデータ化し、それに合わせたパーツをパソコン上でデザインしていくのですが、ノーマル車両のタンクマウントやサイドカバータブに合わせて正確なパーツ造りが可能というのが強みだと思います。また製作したパーツが“ちょっとサイズが大きいかな”とか“もう少しテールの長さを短くすれば”という修正作業もデータ上では容易に行えます。

原型製作したものを修正するとなると、作業時間も大幅にかかりますが、そうしたサイズの変更やデザイン変更がデータ上だと簡単に出来るのもメリットです。またパソコン上で作った設計データを工場へ直接、送信出来るのも大きいですね。ニュアンス的なものではなく、きっちりと数値を職人に伝えられることも商品のクオリティアップに繋がると思います」。
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実際、2020年のNOCSで展示されていたヤマハ「TW」ベースのダートラカスタムを見ると遠目から眺めた限り、ごく普通のカスタムなのですが、パーツ表面を見ると「樹木の年輪」のように幾層にも素材を積み重ねて製作されたものであることが分かります。
これは熱で溶かした樹脂をノズルから押し出し、それを積み重ねることで成形される“FDM方式”の3Dプリンターの特徴とのことで、データを入力後、自動的に形成されたもの。このように職人の手を動かすことなく原型を製作出来るというメリットがあります。

現在でもモーターガレージグッズでは各モデルのカスタムシートベースを製作する上で、この3Dスキャナーとプリンターを使用しているのですが、年式ごとに異なる微妙なマウント位置の違いやフレーム形状に合わせて「正確な商品」を生産出来ることが最大の特徴とのことです。
今後は今回のヤマハ「TW」用の他、「SR」やハーレー・ダビッドソンのスポーツスター用パーツを3Dスキャナーとプリンターを駆使して生産予定というモーターガレージグッズ。現在も様々なモデル用のパーツを2000点以上ラインナップする同店ですが、より作業効率とクオリティがアップした今後の展開にも益々期待が高まるばかりです。
【了】
Writer: 渡辺まこと(チョッパージャーナル編集長)
ハーレーや国産バイクなど、様々な車両をベースにアメリカン・テイストのカスタムを施した「CHOPPER」(チョッパー)をメインに扱う雑誌「CHOPPER Journal」(チョッパージャーナル)編集長。カスタム車に限らず、幅広いバイクに対して深い知識を持つベテラン編集者。