バイクもヘルメットの下に、フェイスマスクが有効では? ~木下隆之の、またがっちゃいましたVol.88~
レーシングドライバーの木下隆之さんは、巷のライダーがフェイスマスクを着用していないことが不思議だと言います。どういうことなのでしょうか?
ヘルメットが臭い?
「ヘルメットが臭い」……バイク乗りにとって、これほど致命的なことはあるまい。ヘルメットが臭いという現象は由々しき問題。ライダーの沽券(こけん)に関わることなのである。

それはイコール自分の顔(頭部)が臭い、と同意であり、顔が臭いということは自分が臭いのであって、悪臭を嗅ぎながらのツーリングは、どれほど清々しい春の日和であっても、爽やかな海岸線であっても、すべてが臭いのである。
人気K-POPアイドルグループのようなイケメンがビッグバイクのリアシートに爽やかな若手美人女優を乗せてタンデムツーリングをしていても、じつはかぶっているヘルメットが臭いかも? などと勝手に想像すると幻滅する。だって、顔が臭いふたりなのだから……。
2輪に乗る者は例外なくヘルメットの着用が義務付けられているから、これはつまり、ライダーが押し並べて抱える悩みなのではないだろうか? とくにこれからの暖かい季節になれば汗もかく。夏場ともなれば、エアコンのないバイクは頭部から汗が滴り落ちるわけで、それで爽やかもへったくれもないのである。
使うたびにインナーを取り外して洗うのも面倒だろうし(インナーの取り外しができないヘルメットもあるだろう)、ツーリングのたびに天日干しをしたところでたかが知れている。臭気の元である雑菌はそう甘くはなく、仕方なく我慢をしている御仁も多かろう。

じつはレーシングドライバーの僕(筆者:木下隆之)も同様の悩みを抱えている時期を過ごした。愛用のヘルメットは常に悪臭を放ち、激烈なバトルで欠かせない集中力も削がれる。問題だったのだ。
もっともそれも過去のこと。4輪のレースではフェイスマスクの着用が義務付けられており、それがヘルメットを清潔に保ってくれている。フェイスマスクは布製だから、下着と一緒で毎日洗濯ができるのである。
フェイスマスクの本来の効用は、火から顔を守ることにあるのだが、もはやヘルメット臭から逃れるためのアイテムだと認識しているほど。
だというのに、巷でフェイスマスクを着用しているライダーを見かけることはまずない。顔が臭い状態のツーリングが快適であるはずがないのに……。
【了】
Writer: 木下隆之
1960年5月5日生まれ。明治学院大学卒業後、出版社編集部勤務し独立。プロレーシングドライバーとして全日本選手権レースで優勝するなど国内外のトップカテゴリーで活躍。スーパー耐久レースでは5度のチャンピオン獲得。最多勝記録更新中。ニュルブルクリンク24時間レースでも優勝。自動車評論家としても活動。日本カーオブザイヤー選考委員。日本ボートオブザイヤー選考委員。