キャブレターならではの魅力 ~2輪系ライター中村トモヒコの、旧車好き目線で~ Vol.1

エンジンに燃料(混合気)を供給する気化器は、機械式キャブレターから電子制御式インジェクションが一般的になりました。今後復活することのないキャブレターの魅力を、ライターの中村友彦さんが解説します。

性能的には、インジェクションの圧勝

 エンジンに燃料/混合気を供給する気化器は、昔は機械式キャブレターが主役でしたが、4輪では1980年代、2輪では2000年代から、電子制御式インジェクションが一般的になっています。

1960年代後半に登場した「AMAL CONCENTRIC MkⅠ(アマル・コンセントリックMkⅠ)」は、当時のイギリス車の定番にして、世界中の気化器メーカーが参考にしたと言われているキャブレター。現在でも新品を入手することが可能

 もちろん、負圧で混合気を“吸わせる”キャブレターと、プログラムに従って臨機応変に燃料を“噴射する”インジェクションのどちらが優れているかと言ったら、それは間違いなくインジェクションでしょう。インジェクションでキャブレターのフィーリングを再現することは可能ですが、キャブレターはインジェクションほど緻密な仕事はできないのですから。

 とはいえ、キャブレターが時代遅れのダメな機械かと言うと、必ずしもそうではありません。近年の厳しい排出ガス規制を考えれば、キャブレターが気化器の主役として復活する可能性は無いですが、キャブレターにはインジェクションとは異なる魅力が備わっていたのです。

エンジンとの対話が楽しみやすい

 私(筆者:中村友彦)が考えるキャブレターの最大の魅力は、エンジンとの対話が楽しみやすいことです。インジェクションが状況に応じて最適な燃料を噴射、ちょっと表現は悪いですが、バイクのほうが勝手に判断して仕事をしてくれるのに対して、キャブレターの場合は乗り手がエンジンに混合気吸わせているのです。もっとも実際のライディング中に、キャブレター車で“吸わせ方”を考える人はほとんどいないでしょうし、逆にインジェクション車だって、あまりに無謀な操作には対応できないのですが……。

バイク用のキャブレターいろいろ。電子制御式インジェクションが一般的になる以前は、機械式キャブレターが主役だった

 例えば峠道の上りのヘアピンカーブ立ち上がりで、ミッション段数が理想より高かったとき、インジェクション車は何も考えずに右手をグイッと捻っても、普通に加速できることが少なくありません。でもキャブレター車で同じことをすると、エンジンの反応がいまひとつで車体が前に進まないので、右手をジワリと動かすか、ミッション段数を1つ下げるか、という選択を迫られることが多いのです。これは極端な例ですが、横着な操作を簡単に受け入れてくれないキャブレターのほうが、乗り手がエンジンの気持ちを察する機会は多くなるでしょう。

 なおライダーだけではなく、メーカーの設計者にとっても、キャブレターはエンジンとの対話が楽しみやすかったのかもしれません。と言うのも、その気になれば大量の燃料をエンジンに送り込めるインジェクションとは異なり、キャブレター時代の設計者はライダーと同じように、どうやってエンジンに混合気を吸わせるかを考えたうえで、カムシャフトの形状やバルブサイズなどを選定する必要があったのです。もちろん、現代の設計者だって根本的な考え方は同様ですが、吸入負圧への依存度が高かったキャブレター時代のほうが、エンジンに対するご機嫌伺いは慎重だったのではないか……と思います。

電気の力を必要としない、考える気化器

 冒頭で述べたように、インジェクションはキャブレターより優れた資質を備えています。ただし部品単体での完成度という見方をするなら、実はキャブレターはインジェクションより優秀と言えなくもないのです。

電子制御式フューエルインジェクションを動かすためには、ECUと各種センサー、バッテリーが必要。この図版は1998年型ホンダ「VFR800」だが、基本的な構成は現代のモデルも同様

 プログラムが入ったECUと多種多様なセンサー、そして電源無しでは仕事ができないインジェクションに対して、キャブレターは負圧さえ存在すれば、エンジンに燃料を供給できるのですから。そう考えるとキャブレターは、外部の力を必要としない、“考える気化器”だったのです。

 その究極形と言えるのが、扱いやすさを前提にして、1980年代から本格的な普及が始まったCV式キャブレターでしょう。1970年代以前の王道だった強制開閉式キャブレターの場合、乗り手が直接スロットルバルブを操作して、吸気通路の開閉と燃料の増減を行っていたのですが、CV式で乗り手が操作するのは吸気通路の開閉を行うバタフライバルブで、燃料の増減を担当するするスロットルバルブの上下動は、負圧によって自動で行われます。もっともその結果として、操作に対する反応はよくも悪くもマイルドになったのですが、エンジンとの対話に関しては、CV式でも十分に楽しめると私は感じています。

キャブレターの魅力について語る筆者(中村友彦)。写真はスーパースポーツモデルの試乗取材時(2020年8月)。けして旧車偏愛というわけではない

 さて、長々とキャブレターの美点を記してきましたが、私は決してインジェクション否定派ではないですし、近年の厳しい排出ガス規制を考えれば、キャブレターが気化器の主役の座を降りたのは当然のことだと思っています。とはいえ、今でもキャブレターを見たりいじったりしていると、これはこれで素晴らしい機械だったのだなあ……と、しみじみ感じることが少なくないのです。

【了】

【画像】もう見納め!? バイク用のキャブレター、詳細画像を見る(10枚)

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Writer: 中村友彦

二輪専門誌『バイカーズステーション』(1996年から2003年)に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。年式や国籍、排気量を問わず、ありとあらゆるバイクが興味の対象で、メカいじりやレースも大好き。バイク関連で最も好きなことはツーリングで、どんなに仕事が忙しくても月に1度以上は必ず、愛車を駆ってロングランに出かけている。

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