旧車で「あおり運転」はできない? ~2輪系ライター中村トモヒコの、旧車好き目線で~ Vol.12

近年、世間でも問題視されるようになった「あおり運転」ですが、その要因として乗り物の技術の進化もあるのではないでしょうか。旧車好きの目線で、中村友彦さんが抱く違和感を考察します。

トヨタ「アルファード」の衝撃!?

 計12回に渡ってお届けした当連載は、今回でひとまず最終回です。そして最後だからというわけではないのですが、今回は本来のテーマから微妙に逸脱し、荒唐無稽な内容になるのを承知で、ここ数年の私(筆者:中村友彦)が漠然と感じている、技術の進化に対する違和感を記したいと思います。

数年前から筆者(中村友彦)が愛用している2台。オドメーターの数字は、アルファードが16万kmで「V850GT」が5万kmほど。中村家に来てからの走行距離はそれぞれ7万kmと2万km
数年前から筆者(中村友彦)が愛用している2台。オドメーターの数字は、アルファードが16万kmで「V850GT」が5万kmほど。中村家に来てからの走行距離はそれぞれ7万kmと2万km

 今から約5年前、私は2006年型のトヨタ「アルファード」を購入しました。それまで所有していた4輪が昭和末期に生まれたキャブレター仕様の商用車、ニッサン「ホーミー」だったものですから、10年落ちで走行距離が9万kmの中古車だったとはいえ、アルファードの高性能ぶりは衝撃でした。

 なかでも印象的だったのは、自宅がある東京から実家の岩手に帰省したときの疲労度で、ホーミー時代は、到着後の数時間は心身がグッタリして身動きが取れなかったと言うのに、アルファードになってからは、すぐに買い物や食事に出かけられるようになったのです。

イカツい顔になった現行モデルと比較すると、初代アルファードはフロントマスクがおとなしめ。エンジンは2.4リッター直4と、3.0リッターV6の2種。筆者が選んだのは前者
イカツい顔になった現行モデルと比較すると、初代アルファードはフロントマスクがおとなしめ。エンジンは2.4リッター直4と、3.0リッターV6の2種。筆者が選んだのは前者

 ただし一方で、これは危ないなという印象も抱きました。と言うのも、アクセルとブレーキ操作に対する反応が鈍いホーミーに乗っていた頃の私は、周囲に迷惑をかけないよう、常に細心の注意を払って運転をしていたのですが、アクセルペダルを踏めばガツーンと加速し、ブレーキペダルを踏めばガツーンと減速するアルファードを走らせていると、何だか運転が乱暴になってしまうのです。それを認識したとき、なるほど、この特性はあおり運転の原因になるのかも……と、私は思いました。

 もちろん、そのあたりはアルファードに限った話ではなく、現代の4輪ほぼ全車に共通することでしょうし、あおり運転の一番の原因は運転手のモラルの欠如です。とはいえ、間違った万能感を運転手に与える近年の4輪に、私は何とも言えない怖さを感じました。

「あおられる」可能性

 そしてアルファードを所有してしばらく経った頃、いまどきの4輪には、あおられ運転の資質も備わっているのか……と私は思いました。またしても比較対象は昭和生まれの商用車ですが、気密性が低くて純正オーディオが貧弱なホーミーは、周囲の状況が手に取るようにわかるアウトドアな乗り味でしたから、後方から速い2輪や4輪が近づいたらすぐに気付きました。

かつて筆者が愛用していたニッサン「ホーミーE24」は、現代の目で見ると旧車感満載の乗り味だけれど、ハンドリングの切れ味は抜群だった
かつて筆者が愛用していたニッサン「ホーミーE24」は、現代の目で見ると旧車感満載の乗り味だけれど、ハンドリングの切れ味は抜群だった

 でもアルファードの場合は、気密性が抜群なうえに、高品質な純正オーディオが上質なサウンドを聞かせてくれるので(クラッシュのロンドンコーリングのCDを初めてかけたときは、ポール・シムノンが弾くベースのカッコよさに改めて感心しました)、周囲に対する注意力が散漫になりがちなのです。

 もちろんこの件に関しても、運転手の意識次第ではあるのですが、巨大な機械を動かしているにも関わらず、自宅でくつろいでいるような錯覚を与える(与えてくれる)近年の4輪は、見方によっては危険な乗り物なの“かも”しれません。

モトグッツィ「V850GT」に乗って気づいたこと

 さて、ここまでは4輪を題材にして旧車と現行車の印象を記してきましたが、旧車だったら、あおり/あおられ運転は起こらないんじゃないか……? という荒唐無稽で突飛な発想が浮かんだのは、今から4年前に、友人から1973年型のモトグッツィ「V850GT」を譲り受けたときでした。

1973年型「V850GT」は、初期のモトグッツィVツインシリーズが採用していたループフレームの最終モデル。最高出力は55hpで装備重量は255kg
1973年型「V850GT」は、初期のモトグッツィVツインシリーズが採用していたループフレームの最終モデル。最高出力は55hpで装備重量は255kg

 私はこのバイクを過去に何度か経験していたのですが、自分のフィールドで日常的に使ってみると、アクセル操作に対する反応の鈍さやブレーキの貧弱さが、安全に貢献しているかのように思えてきたのです。

 具体的な話をするなら、アクセル操作に対する反応の鈍さは無謀運転防止に結びつきますし、ブレーキが(現代版ほど)利かない車両は前走車との距離が自ずと長くなります。もちろん「V850GT」が現役だった時代も含めて、昔からあおり運転をする人はいたはずですが、自分本位の加速と減速が容易ではなく、マニュアル式ミッションが普通で、電子制御によるサポートがまったくなかった時代の4輪で、前走車をピッタリ追随するには相当以上のテクニックと度胸が必要でしょう。その事実に気づいた時点で、私は技術の進化に違和感を抱くようになったのです。

 まあでも、そんなことを言い出したら最終的には、年式が古ければ古いほど、性能が低ければ低いほど、4輪は安全という話になりそうですし、そもそも技術の進化は否定するべきではないと思います。

 とはいえ技術の進化が、必ずしも万人に幸福をもたらすわけではなく、場合によっては不幸の種になることを、私は「アルファード」と「V850GT」を通して思い知りました。

【画像】モトグッツィ「V850GT」(1973年型)詳細を見る(6枚)

画像ギャラリー

Writer: 中村友彦

二輪専門誌『バイカーズステーション』(1996年から2003年)に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。年式や国籍、排気量を問わず、ありとあらゆるバイクが興味の対象で、メカいじりやレースも大好き。バイク関連で最も好きなことはツーリングで、どんなに仕事が忙しくても月に1度以上は必ず、愛車を駆ってロングランに出かけている。

最新記事