車いすレーサーに取り組む、ホンダの本気 ~木下隆之の、またがっちゃいましたVol.121~

レーシングドライバーの木下隆之さん(筆者)は、ホンダの「車いすレーサー」には勝つためのノウハウが注がれていると言います。どういうことなのでしょうか?

車いすレーサーに取り組む、ホンダの本気

 ホンダが陸上競技用「車いすレーサー」の開発をスータートさせたのは2000年のこと。1999年に「ホンダアスリートクラブ」を発足させており、そのプロジェクトのひとつが障害アスリートのための競技仕様だった。

ホンダの陸上競技用「車いすレーサー」
ホンダの陸上競技用「車いすレーサー」

 だが、本格的なプロ仕様の一般販売は2014年まで待たなければならなかった。本田技術研究所が持つ高度なノウハウ、つまりF1やホンダジェットで得た技術と、障害アスリートの要求をバランスさせるのに、時間がかかったのだ。

 勝負事に対しては一番でなければ気が済まないホンダは、2014年に「極<KIWAMI>」の販売を開始してから技術を磨き、2019年に進化版「翔<KAKERU>」を駆るマニュエラ・シャー選手(スイス)が、大分国際車いすレースで優勝。世界女子最高タイムとなる1時間35分42を記録した。障害アスリートの世界でもホンダはトップになったのだ。

 いやはや、僕(筆者:木下隆之)は今回、希望が叶ってホンダの車いすレーサーを体験したのだが、その車体はもう一切の贅肉を取り除いたアスリートマシンだった。バイクのように動力源を持たないから、サイズはコンパクト、車重は8kgだという。

 人が乗るシート部分は2輪であり、前方へ伸びる細く長いフレームの先に、華奢なタイヤが1輪組み付けられている。2輪でなくトライクのイメージだ。

 ホイール周りに薄いゴム片を巻き付けただけのようなタイヤには、ちゃんと空気が充填されている。チューブレスタイプだそうだ。

 着座は体育座りで、膝を抱えるような前傾姿勢になる。脳天で風を受けるような低い姿勢で両輪を手で回す。プロのアスリートともなれば30km/hに達するという。僕も必死に漕いでみたのだが、トロトロ進むだけだった。うっかり前傾姿勢を緩めると、フロントタイヤが浮き上がり後転してしまう。それを心配したスタッフが僕の横で手をかざしながら補助してくれていた。人が中腰でサポートしてくれる程度の速度が精一杯。笑いが巻き起こった。

ホンダの「車いすレーサー」を体験する筆者(木下隆之/レーシングドライバー)
ホンダの「車いすレーサー」を体験する筆者(木下隆之/レーシングドライバー)

 両手を伸ばすと、小さなハンドルバーがある。だが、カーブを曲がるのも一苦労だった。車いすレーサーは頑固に直進しようとする。車輪を漕いでいる時はハンドルを保持できない。

 路面からの振動を吸収するサスペンションはない。だが前輪のよれを防止するダンパーが組み込まれていた。やはり直進性がキモなのである。

 細いフレームの左右に小さなレバーがついていた。それを操作すると前輪の角度が固定され、トラック競技用のハンドルのような役目をする。小さく曲がる1レーン用から大外回りの8レーン用まで、瞬時に前輪の向きが固定されるのだ。これにより、両手で漕ぐことに専念できるというわけだ。

 ホンダが本気で取り組んだ「車いすレーサー」には、バイクで世界の頂点を極めた「勝つため」のノウハウが注がれているような気がした。

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Writer: 木下隆之

1960年5月5日生まれ。明治学院大学卒業後、出版社編集部勤務し独立。プロレーシングドライバーとして全日本選手権レースで優勝するなど国内外のトップカテゴリーで活躍。スーパー耐久レースでは5度のチャンピオン獲得。最多勝記録更新中。ニュルブルクリンク24時間レースでも優勝。自動車評論家としても活動。日本カーオブザイヤー選考委員。日本ボートオブザイヤー選考委員。

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