4ストロークの「YZ-F」とは吸排気が真逆? ~2022年型「YZ125」開発陣に聞く、最新2ストローク事情(第2回/全4回)~
ヤマハは2022年型として、2ストロークエンジンを搭載するモトクロス競技車両「YZ125」を17年ぶりにフルモデルチェンジしました。国内2輪メーカー唯一となった最新2ストロークモデルについて、ライターの中村友彦さんが開発陣に話を聞きました(第2回/全4回)。
開発陣は、全員がオフロード好きだった
ヤマハが2022年型でモトクロッサー「YZ125」を17年ぶりにフルモデルチェンジし、そのエンジンが2ストロークという点がとても気になって仕方ない筆者(中村友彦)は、開発に携わる技術者たちにいろいろ話を伺ったわけですが、前回(第1回/全4回)は長い前振りで終わってしまったので、今回は早々に本題に入ります。

2022年型「YZ125」に関する質問に答えてくれたヤマハの技術者は、プロジェクトリーダーを務めた上村正毅さん(1987年入社)、エンジンテスト担当の福岡直樹さん(2006年入社)、ボディ実験担当の尾崎友哉さん(2013年入社)、ボディの信頼性を担当した佐藤祐太さん(2015年入社)の4人です。
ちなみに、最近の上村さんはオフロードを走る機会が少なくなったそうですが、他の3人はプライベートでもYZシリーズを愛用する、現役オフロードライダーです。また、上村さんは2ストロークの全盛期を知るベテランエンジニアで(初めて開発に携わった機種は1988年型TZR250)、かつての尾崎さんはヤマハの契約ライダーとして、ジュビロレーシングから全日本モトクロス選手権に参戦していました。
ヤマハが2ストロークの改革に着手した理由
──まずは単刀直入な質問からです。YZ125が17年ぶりにエンジンを新規設計した理由を教えてください。

上村さん(以下、敬称略)「ライディングスタイルや走行環境、レースレギュレーションの変化などを考慮した結果です。中でも最近の欧州では、ジュニアの育成用として2ストロークの新型車を期待する声が高まっていました。もっとも我々としては、既存のYZも十分な戦闘力を備えていたと思っているのですが、時代の変化によって、お客様の要望をすべて満たすのは徐々に難しくなってきたので、まずは2019年型で85の刷新と65の追加を行い、2022年型で125のエンジンを全面新設計したわけです。また、近年になって当社が2ストロークYZの改革に着手した背景には、技術の伝承、人材育成という意図もあります」

──1997年以降のヤマハは2種のYZ、2ストロークと4ストロークのオフロード専用車を販売しています。作り手としてはどんな住み分けを考えているのでしょうか。
上村「排気量のハンディを考慮する必要はありますが、モトクロスコースを速く走れるのは、やっぱり全域で扱いやすい4ストロークです。一方の2ストロークの美点は、軽量・コンパクト・ハイパワーで、乗りこなす喜びが味わいやすいことでしょう。もちろん、4ストロークでも乗りこなす喜びは味わえますし、当社の最新2ストロークは4ストロークに通じる扱いやすさを獲得しているので、まったくの別物と言うわけではありません」

尾崎「モトクロスを今以上に熱心にやっていた若い頃に、2ストロークから4ストロークへの乗り換えを経験した私としては、“レースに勝つには4ストローク”というイメージが強いです。とはいえ、最近のオフロードレースの世界では、バイクの基本的な操作が学びやすいのは2ストロークで、2ストロークを経験したほうが確実に成長できる、という認識が一般的になりつつあります」

福岡「現在の私は2ストロークと4ストロークのYZを所有していて、エンデューロレース用としては、2ストロークのマシンをメインで使ってきました。だから単純な比較はできないのですが、気軽にエンジンのメンテナンスが行ないやすいのは、構造がシンプルな2ストロークでしょう。事実、コースやレースで知り合ったライダーと話をしてみると、2ストロークユーザーは自分でエンジンのメンテナンスをする人が多いようです」
上村「もっとも、我々は2ストロークをイチオシしているわけではありません。現在のヤマハでは、2050年までに2010年比でCO2排出量90%以上削減という目標を掲げて、BEV(Battery Electric Vehicle)やCN燃料などの研究を進めています。ただしヤマハ全体の中で考えると、2ストロークは排出割合が非常に小さいので、ジュニアレースへの対応と若いライダーの育成という観点から、YZシリーズの開発を継続しています」
従来の考えを推し進めた、後方ストレート吸気
──2022年型YZ125のパワーユニットで、私が最も興味を抱いているのは、シート後方の左右から新気を取り入れる“後方ストレート吸気”を採用したことです。

4ストロークのYZ450/250Fで、ヤマハは2010/2014年型から前方吸気・後方排気という独創的な配置を採用していますが、最新の2ストロークで真逆の構成を選択した背景には、どんな事情があるのでしょうか。

上村「開発陣に真逆という意識はないんですよ。吸気抵抗をできるだけ少なく、吸気通路をできるだけストレートにしたいという考え方は、4ストロークも2ストロークも同じですから。YZ-Fの場合は、気化器をキャブレターからインジェクションに変更する際に、吸気ポートが地面とほぼ水平から上向きのダウンドラフトになり、既存の配置では吸気系部品がシートやガソリンタンクなどと干渉してしまうので、通路のストレート化が実現できる前方吸気を採用しました。では2ストロークのYZはどうかと言うと、エンジンの構造としてダウンドラフトも前方吸気も必要がないので、既存の配置を維持したまま、吸気通路のさらなるストレート化を図っています」
──ただしかつてのヤマハは、2ストロークのオンロード用レーサーとそのレプリカ、1988年型から1990年型のTZ250と、1989年型から1990年型のTZR250で、前方吸気・後方排気を採用していました。

そう考えると2ストロークでも、吸排気系を逆にするメリットがある気がするのですが……。
上村「チャンバーのストレート化という意味で、メリットはあります。ただしリアショックなどとの干渉を考えると、4ストロークのエキゾーストパイプより管径が太い2ストロークのチャンバーは、車体を構成するうえで大きな障害になります。そしてモトクロッサーの場合は、前輪が巻き上げる泥や水を考慮する必要があるので、吸気ポートがダウンドラフト式のエンジン以外では、あえて前方吸気・後方排気を採用する必要はないでしょう。なお4ストロークは吸入負圧が大きく、吸気通路に脈動が発生して慣性効果が得られるのですが、2ストで大きな脈動が発生するのは排気側のほうで、吸気側に脈動はほとんど発生しません。だから2ストロークのYZは、以前から吸気抵抗の低減に気を使っていて、2022年型ではその考え方をさらに推し進めています」

尾崎「ストレート吸気については、新気をスムーズに導入するために、エアクリーナーエレメントのガイドリブを8本から3本に減らしたこと、シートベース裏面にフィンを設置したことも重要な要素です。これらは実走テストでさまざまな形状を検討して、高回転域の回り込み、パワーフィーリングという点で、現状の形で明確な効果が体感できたので、2022年型YZ250にも同じ構造を採用しました」

佐藤「吸気系の見直しを受けて、2022年型YZ125/250ではシートの取り付けを、ステーを介した左右のボルト2本から、上面の1本に変更しています。当社にとってこの構造は初の試みですが、耐久性はきちんと確保しているので、実用上の問題はまったくありません」
──非常に私的な質問になりますが、2022年型YZ125/250で行なわれた吸気抵抗の低減と吸気通路のストレート化は、古い2ストロークのオンロードバイクでも有効でしょうか(筆者が愛用している1986年型TZR250は、現在はエアボックスを撤去した、いわゆる直キャブ仕様)。

上村「オフロードとオンロードでは使用環境や常用回転数が異なりますから、必ずしも有効とは言えません。例えばサーキットでの速さを追求するなら、2ストローク時代の後期に生まれたレーサーがそうだったように、気化器の後方に十分な容量のエアボックスを設置したうえで、カウルの前面から新気を導入してラム圧をかけるのがベストでしょう。とはいえ、吸気抵抗をできるだけ低減して、気化器にスムーズに新気を導くという考え方は、どんな時代のどんな形式のエンジンにも有効です」
※ ※ ※
インタビューはまだまだ続きます。次回(第3回/全4回)はキャブレターやリードバルブなどの構成部品について、また2ストロークエンジンならではの改革などについてお伝えします(つづく)。
Writer: 中村友彦
二輪専門誌『バイカーズステーション』(1996年から2003年)に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。年式や国籍、排気量を問わず、ありとあらゆるバイクが興味の対象で、メカいじりやレースも大好き。バイク関連で最も好きなことはツーリングで、どんなに仕事が忙しくても月に1度以上は必ず、愛車を駆ってロングランに出かけている。













