スズキ油冷4気筒を搭載するオリジナルマシン「OV-41」の詳細に迫る ~CLASSIC TT-F1を目指して(2)~

鈴鹿のパーツメーカー『OVERレーシングプロジェクツ』創始者である佐藤健正さんは、仲間と共にオリジナルマシン「OV-41」を製作し、海外のクラシックレース進出を目指します。一体どのようなマシンなのでしょうか。その詳細に迫ります。

油冷GSX-R系エンジンを選択した理由

 当記事では、「TT-F1」(スーパーバイクが普及する以前に世界各国で開催されていた、改造範囲が相当に広いプロダクションレース)スタイルのレーサーで、海外のクラシックレース参戦を夢見る3人の男を追っています。

「OV-41」が搭載するスズキGSX-R系の油冷4気筒エンジンは、JEφ83mm鍛造ピストンを投入して1277ccの排気量を獲得。カムシャフトとバルブスプリングはヨシムラ製で、クラッチはスリッパータイプ
「OV-41」が搭載するスズキGSX-R系の油冷4気筒エンジンは、JEφ83mm鍛造ピストンを投入して1277ccの排気量を獲得。カムシャフトとバルブスプリングはヨシムラ製で、クラッチはスリッパータイプ

 車両製作を担当した『OVERレーシング』の佐藤健正さん、ライダーを務める『D;REX(ディーレックス)』の豊田浩史さん、そして発起人の寺嶋浩司さんの活動を紹介していますが、今回は当プロジェクトの2号機となる、「OV-41」の詳細に迫ってみましょう。

 1号機のOV-40が、往年のTT-F1レーサーへの強いこだわりを感じる構成だったのに対して、OV-41はそういった要素をやや控え目とし、代わりに現代的な運動性能を獲得しています。2台の最大の相違点はパワーユニットで、OV-40はカワサキZ系の空冷4気筒、OV-41はスズキGSX-R系の油冷4気筒を搭載しています。

寺嶋「インターネットで海外のクラシックTT-F1レーサーを調べると、カワサキZ系やホンダCB系、BMWやドゥカティなども参戦しているのですが、最も台数が多いのは油冷GSX-R系でした。やっぱり、年式が比較的新しく、生産期間が長かった油冷GSX-R系は、パワーアップや維持という面で有利なのでしょう」

クロモリ製のオリジナルフレームに油冷GSX-R系エンジンを搭載するOV-41は、当初から海外で開催されるクラシックTT-F1レースを念頭に置いて製作
クロモリ製のオリジナルフレームに油冷GSX-R系エンジンを搭載するOV-41は、当初から海外で開催されるクラシックTT-F1レースを念頭に置いて製作

 ちなみに、ポリス仕様を除くカワサキZ系の生産期間は1972年から1980年代中盤で、油冷GSX-Rがスズキの旗艦として活躍したのは1985年から1990年代初頭です。ただしスズキの油冷4気筒は、1990年代中盤以降はGSFやバンディットシリーズ、GS1200SSに転用され、最終的には2006年まで生産が続く長寿エンジンになりました。

佐藤「当初は、過去にOVERでレーサーを作ったことがあるヤマハの空冷4気筒、FJ/XJR系も検討したのですが、寸法がやや小さいこと、耐久性が高いと言われていること、それに加えて私自身が未経験なのでいじってみたいという理由で(笑)、油冷を選択しました。なおFJ/XJR系を候補から外した理由としては、1980年代前半のヤマハはTT-F1規定のレースにほとんど参戦していなかったので、場合によってはクラシックレースの規定に合致しないかもしれない、という不安もありましたね」

 茨城県の筑波サーキットで行なったOV-40のテストで、豊田さんがマークしたタイムは1分2秒から3秒台でしたが、OV-41で参戦した2021年11月の『Taste of Tsukuba(テイスト・オブ・ツクバ)』では、59秒076を記録しています。なおOV-41は、練習走行ではすでに58秒台が出ているのですが、そのタイムをコンスタントに維持するのは難しかったようです。

当プロジェクトの発起人は、写真左の寺嶋浩司さん。右がOVERレーシングの佐藤健正さんで、中央はライダーを務めるD;REXの豊田浩史さん
当プロジェクトの発起人は、写真左の寺嶋浩司さん。右がOVERレーシングの佐藤健正さんで、中央はライダーを務めるD;REXの豊田浩史さん

豊田「OV-41でOV-40より速いタイムが記録できた理由は、エンジンがパワフルになっただけではなく、車体も現代的になったからです。ただし我々がテストの舞台に選んだ、テイスト・オブ・ツクバのハーキュリーズクラスでトップ争いが出来るかと言うと、それは不可能でしょう。現状のOV-41の最高出力は160psですが、ハーキュリーズの上位陣は190psが当たり前で、200ps以上も何台かいますからね。もっとも、我々の目標はハーキュリーズの優勝ではなく、海外のクラシックレースを念頭に置いて、筑波サーキットを58秒台でコンスタントに周回することで、熟成が進んでそれが実現できれば、ハーキュリーズでも表彰台は何とかなる……と思います」

現代的な運動性能を追求した車体

 続いては車体の話です。佐藤さんが設計・製作を担当したクロモリ製のダブルクレードルフレームは、1980年代前半のスズキGS1000Rを規範としながら、現代の足まわりに適合できる剛性を獲得しています。

前後ショックはオーリンズ製、フロント3.50×17、リア6.00×17のホイールはJBマグタンを選択
前後ショックはオーリンズ製、フロント3.50×17、リア6.00×17のホイールはJBマグタンを選択

 そしてその足まわりは、OV-40では往年のTT-F1レーサーを意識して、APロッキードのブレーキキャリパーや細身の17/18インチホイール、正立式フロントフォークなどを採用しましたが、OV-41のブレーキキャリパーは最新のブレンボで、ホイールは現行スーパースポーツと同様の前後17インチ、フロントフォークは倒立式を選択しています。

佐藤「OV-40では往年のカワサキKR1000を意識して、ステアリングヘッドパイプとスイングアームピボットプレートを結ぶ、2本のメインチューブの間隔を広めにしましたが、OV-41では間隔を狭めています。スチールフレームの場合は、2本のメインチューブの幅を広くすると、剛性が出しづらいんですよ。また、メインチューブの外径を上げたこと、リアサスペンションをベルクランク式からボトムリンク式に改めたこと、スイングアームエンドのチェーン引きをエキセントリック式からオーソドックスな構成に変更したことなども、OV-41の特徴です」

OV-40でキャブレターの左右に配置されていた2本のメインチューブは、OV-41ではキャブレターの上部を通過。各パイプのサイズやスイングアームピボットプレートの構成も異なる
OV-40でキャブレターの左右に配置されていた2本のメインチューブは、OV-41ではキャブレターの上部を通過。各パイプのサイズやスイングアームピボットプレートの構成も異なる

豊田「現代のスーパースポーツに慣れていると、OV-40の場合はライディングの大幅なアジャストが必要になるのですが、OV-41ならアジャストは少しで済みます。具体的な話をするなら、コーナーの進入では無理が利くし、立ち上がりでは早めにアクセルが開けられますね」

 なおカラーリングについては、OV-40が1980年代前半のKR1000や1980年代後半のZXR-7に通じる配色を選択したのに対して、OV-41は往年のGS1000Rの定番だった、黄×青のHBカラーや赤×黒のヨシムラカラー、白×青のスズキワークスカラーではなく、OVERのコーポレートカラーである白×赤×黒を選択しています。

寺嶋「OV-40では私自身のこだわりを具現化する形で、ライムグリーンを採用しましたが、OV-41は海外のレースで目立つことを念頭に置いて、OVERさんのコーポレートカラーを選択しました。ただしパターンは、1980年代前半のTT-F1レーサー風を意識しています」

「OV-40」のモチーフは、1980年代前半の世界耐久選手権で活躍したカワサキKR1000。フレームは1981/1982年型、外装は1983年型を意識した構成
「OV-40」のモチーフは、1980年代前半の世界耐久選手権で活躍したカワサキKR1000。フレームは1981/1982年型、外装は1983年型を意識した構成

 2021年11月にレースデビューを飾ったOV-41は、以後は細部の熟成を重ね、現在は5月14日、15日に開催されるテイスト・オブ・ツクバに向けて、最終調整の真っ最中です。この記事を読んで3人の男の夢に興味を抱いた方は、ぜひとも当日の筑波サーキットに足を運んで、OV-41の雄姿を確認してみてください。

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Writer: 中村友彦

二輪専門誌『バイカーズステーション』(1996年から2003年)に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。年式や国籍、排気量を問わず、ありとあらゆるバイクが興味の対象で、メカいじりやレースも大好き。バイク関連で最も好きなことはツーリングで、どんなに仕事が忙しくても月に1度以上は必ず、愛車を駆ってロングランに出かけている。

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