空冷単気筒エンジンに癒される!? ~木下隆之の、またがっちゃいましたVol.163~
レーシングドライバーの木下隆之さん(筆者)は、ホンダ「GB350」に乗っていると空冷単気筒エンジンに癒されると言います。どういうことなのでしょうか?
最高に快感じゃないか!! ホンダの現行空冷単気筒
根本的に、僕(木下隆之)は4気筒、マルチシリンダー派です。古くはカワサキの4気筒車「Z2」への強い憧れからバイクに目覚め、ホンダ「CB750」で青春を謳歌する「ナナハンライダー」を読んで育った。となれば「4気筒教」の盲目的信者になるのも当然の筋道だ。

だが一方で、好奇心旺盛でもある。いわばネイキッド4気筒の対局である空冷単気筒車にも興味がある。
時に、名車の誉れ高いヤマハ「SR400」が惜しまれつつ生産を終え、その終焉に涙した人の多さを知るにつけ、空冷単気筒エンジンには特別な快感が潜むのであろう……と想像する。そうでなければ、あれほど多くのライダーに愛されるはずがない。
そんな「SR400」に触れてみたいと思ったものの、絶版への道に向かった。だが、ホンダはそれを回避した。「GB350」をリリースしてくれているのだ。
というわけで、ホンダ「GB350」で空冷単気筒の生活を始めたのだが、これが最高に快感なのだ。
4気筒派でありながら、よくもいけしゃあしゃあと朝令暮改できるものだと己の軽薄さに呆れもするが、低回転域でトトトト……と耕耘機を走らせるようにすると心が落ち着く。
上下動するピストンが奏でるサウンドの一粒一粒を丁寧に路面に置いていくかのような、そんなゆったりしたリズムが心地良いのだ。

排気量は350ccクラスの348ccで最大トルクは29Nmと、数字にすると頼りないが、発生回転数は3000rpmという低さ。そのエンジンを、さらにアイドリングプラスアルファあたりで転がしていると、エンジンの鼓動がいっそう色濃くなる。
信号待ちで4気筒のビッグバイクに並ばれても、スタートは急がない。むしろ後塵を浴びることが楽しくなってきている。先を急ぐ気にならないのだ。
「GB350」にまたがっていると心が落ちつくと共に、社会生活で貯めたストレスが消えていく。そんな空冷単気筒エンジンには、気持ちを穏やかにする何かが備わっているのかもしれない。
Writer: 木下隆之
1960年5月5日生まれ。明治学院大学卒業後、出版社編集部勤務し独立。プロレーシングドライバーとして全日本選手権レースで優勝するなど国内外のトップカテゴリーで活躍。スーパー耐久レースでは5度のチャンピオン獲得。最多勝記録更新中。ニュルブルクリンク24時間レースでも優勝。自動車評論家としても活動。日本カーオブザイヤー選考委員。日本ボートオブザイヤー選考委員。