シフト操作不要で気軽に乗れるモビリティ! オートマチックトランスミッションの仕組みを徹底解説
スロットルをひねるだけで、自動で変速してくれるスクーター。この自動変速はAT(オートマチックトランスミッション)によるものです。この、自動で変速するAT機構の仕組みをご紹介します。
自動車よりも早く誕生したベルト式無断変速
シフト操作はバイクの魅力のひとつではありますが、一方でスロットルをひねるだけで、自動で変速してくれるスクーターも、気軽に移動できるモビリティとして人気があります。
このスクーターなどに採用されている自動変速機は、オートマチックトランスミッション(AT)という機構。今回は、このATの仕組みをご紹介します。

ATモデルと聞いて最初に思い浮かぶのは、スクーターだと思います。
スロットルを開けるだけで停車状態から高速域まで、滑らかに自動でギアを変速してくれて、運転技術的にも高いレベルを必要としない、万人向けのミッションです。
構造的にはシンプルで、エンジンからの出力側と後輪側に付いているふたつのプーリー、そしてそれらをつなぐゴムベルトで構成されています。自転車をイメージすると分かりやすいかもしれません。
変速については、プーリーの大きさを変えることで行っています。自転車の場合は半径が異なるギアを手動で選択しますが、スクーターの場合はエンジンの回転数が上がると遠心力によってクラッチが繋がって、後輪へと駆動を伝えます。

さらにどうやって変速をするのかというと、ウエイトローラーと呼ばれる筒状の重りが遠心力で動くことでプーリーの幅が変わり、そこにかかっているベルトの位置が自動で動くようになっています。
プーリーの溝はV字になっているので、広がればベルトは軸の方向に近づいていきます。そして、半径の小さなギア(スプロケ)と同じになり、スロットルをゆるめると遠心力が小さくなってプーリーの幅も狭くなるので、ベルトが掛かっている部分は外側になります。つまり半径の大きなギアと同じです。
仕組み的には自動車のCVTと同じですが、スクーターはゴム製ベルトを使用しているのに対し、CVTは金属製のベルトやチェーンが使われているのが大きな違いです。
なお、スクーターは出力が小さく耐久性もそれほど高いレベルを求められないことから、20世紀前半には実用化されていました。一方の自動車用のCVTは1987年にスバルが実用化したものが、量産車では初となります。
ちなみにスクーターの場合は、ゴムベルトやクラッチ、ローラーウエイトなどの部品が消耗するため、定期的な点検と交換が必須。運転がイージーなためメンテナンスフリーだと勘違いしがちですが、危険なので覚えておきましょう。
天才的とも言える自動遠心クラッチ
イージードライブで忘れてはならないのが、ホンダ「スーパーカブ」などに搭載されてきた自動遠心クラッチ。ホンダ「モンキー」などにも、マニュアルミッション(MT)と自動遠心クラッチの両方が設定された時代もありました。
操作は完全なオートマチックではないものの、クラッチ操作は不要でアクセルを戻すだけでシフトチェンジができる点が最大の特徴です。
免許区分はクラッチの有無で決まるので、シフトチェンジが必要ですが、自動遠心クラッチ車にはAT免許で乗ることができます。

仕組みは非常に複雑なのですが、簡単に解説すると、クラッチの動きで押さえたいのは3つのポイント。
まずエンジンをかけるときはクラッチがつながっている必要がありますが、キックやスターターの力によって自動で瞬間的につながるようになっています。そしてシフトを入れてスロットルを開けると滑らかにつながって加速することができますが、この際はスクーターのようにウエイトがエンジンの回転による遠心力によって動き、クラッチをつなぎます。
最大のポイントとなるのが変速時。運転したことがある人ならわかると思いますが、スロットルを戻しただけでスムーズにシフトダウンすることができます。ドグミッションなのでクラッチ操作をしなくてもギアチェンジができると思っている人もいるかもしれませんが、実際にはクラッチを切ってシフトチェンジを行っています。
なお、自動遠心クラッチという名称から、スロットルの動きですべてが制御されていると思われがちですが、シフトチェンジの際はシフトペダルに繋がっている部品が瞬間的にクラッチを切っています。
これらの3つの機構がクラッチまわりにすべて入れ込まれているのが、自動遠心クラッチの凄いところです。
ただし、最近の自動遠心クラッチは進化していて、発進用と変速用のふたつのクラッチを備えたよりシンプルなものになっているものも存在します。
ホンダが世界初で搭載したマニュアルベースの自動変速
ホンダが2010年、世界で初めてバイクに採用したのがDCTと呼ばれるミッションです。DCTはデュアル・クラッチ・トランスミッションの略で、その名のとおりふたつのクラッチを備えているのが特徴。
クルマではスーパーカーやスポーツカーを中心に採用されている形式で、ホンダのラインナップでは一時、コンパクトカーのフィットにも搭載されていました。この特殊なミッションを、世界で初めてバイクに搭載したのがホンダです。

仕組みを簡単に説明すると、1・3・5速プラス発進と、2・4・6速をそれぞれ担当するクラッチが搭載されていて、イメージ的にはふたつのミッションが並列に置かれ、交互に変速していく流れ。
クラッチが備えられていることからもわかるように、ベースとなるのはマニュアルトランスミッションで、ダイレクトな走行フィーリングを手軽に味わうことができます。また、次につながるギアは休止状態にあるため変速に備えてギアを入れておくことができるので、素早い変速が可能なのも持ち味です。
ホンダのDCTは完全自動のATモードと、シフト操作のみグリップ脇に付いているスイッチで行うことで積極的な走りが楽しめるMTモードを選ぶことが可能。搭載され始めた当初は変速ショックがけっこうありましたが、現在は滑らかさがかなり増すなど、進化を続けています。