奈良県「助人トンネル」ケーブル垂れ下がりバイク転倒死亡事故 過失はダンプ運転者にあり 公衆災害の責任は問えず

2022年5月2日に国道168号「助人トンネル」(奈良県十津川村)で発生したバイク転倒死傷事故について、奈良県警は、工事期間中の移設電源ケーブルに接触したダンプカーの運転手と、後続の乗用車の運転手2人を書類送検しました。垂れ下がったケーブルには、ツーリング中のバイク2台が相次いで転倒。中型バイク(普通自二)のライダーが死亡し、大型バイク(大型自二)のライダーが頸椎捻挫などの軽傷を負いました。

架設状況を確認しないまま運転した、ダンプカーの過失を問う

 2022年5月2日に国道168号「助人トンネル」(奈良県十津川村)で発生したバイク転倒死傷事故について、事故発生から11カ月、奈良県県警は、事故の直接原因とされるダンプカーのアルバイト運転手の男(56)を過失運転致死傷の容疑で奈良県地方検察庁に書類送致しました。

助人トンネルは道幅は狭いが、もともと重要な役割を担っている。周辺では今も国土強靭化のための土木工事で大型車の往来が激しい(撮影=中島みなみ)
助人トンネルは道幅は狭いが、もともと重要な役割を担っている。周辺では今も国土強靭化のための土木工事で大型車の往来が激しい(撮影=中島みなみ)

 奈良県警五條署の捜査によると、56歳の男は事故当日12時45分頃、10トントラックを運転して「助人トンネル」を北西方向(奈良市側)に通過。対向車とのすれ違いで、荷台の左側上部をトンネル内壁直前まで接近させ、トンネル内工事のために移設した電源ケーブルに接触。この時、垂れ下がったケーブルが、その2分後に現場を通過したバイク事故を招き、「電気ケーブルなどの架設状況を確認しないまま、自車をトンネル左側内壁直前まで接近させた過失」容疑です。

 また、垂れ下がったケーブルに最初に接触した乗用車を運転した和歌山県新宮市の無職の男(65)を、物損事故を申告しなかった当て逃げの容疑で、同じく書類送致しました。

 乗用車はトラックが通過した2分後の同日12時47分頃、「助人トンネル」を通過しました。男は垂れ下がったケーブルに気が付かず進行し、衝突の衝撃で跳ね上がったケーブルが、乗用車のすぐ後ろを走っていたバイクに当たった、とされます。

2022年6月ごろまで残されていた工事看板。工事でトンネルがより狭くなっていることが、はっきり記載されていない(撮影=中島みなみ)
2022年6月ごろまで残されていた工事看板。工事でトンネルがより狭くなっていることが、はっきり記載されていない(撮影=中島みなみ)

 五條署は垂れ下がった暗いトンネル内で衝突を回避することはできなかったものの、男が「何かが当たった認識はあった」と話しており、それでも自車の物損事故を届け出なかった不申告を違法としました。バイク転倒との因果関係は問われていません。乗用車は、被害にあった2台のバイクの直前を走っていました。

 業務上過失致死容疑で奈良県にも捜査が及びましたが、県警は送致に至る過失は認定できなかったと、結論付けました。

 事故が起きた国道168号沿線では、国土強靭化のための道路、土木工事が続き、工事関係の大型車の往来がひんぱんにありました。

 また、「助人トンネル」は道幅の狭い現在の基準に合わない「既存不適格」の構造物で、通常は道路トンネルにある側壁と車道を分ける歩道や管理道などの路側部分がありません。

 事故当時は、トンネル内壁の補強工事期間中で、大型連休のために作業は休止されていました。

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Writer: 中島みなみ

1963年生まれ。愛知県出身。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者を経て独立。行政からみた規制や交通問題を中心に執筆。著書に『実録 衝撃DVD!交通事故の瞬間―生死をわける“一瞬”』など。

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