臆せず脇道へ! NEWトランザルプ開発者がこだわったのは小回りが効くこと!!
アドベンチャースタイルの大型二輪スポーツモデル、ホンダ『XL750 TRANSALP』が5月25日に新発売。山梨県北杜市・八ヶ岳南麓にてメディア向け試乗会がおこなわれ、バイクジャーナリストの青木タカオさんが参加しました。プロジェクトリーダーら開発陣とハナシが盛り上がったのはUターン……!? いったい、どういうことでしょう?
脇道のダートにも臆せず入っていける
ホンダ『XL750 TRANSALP』のプロジェクトリーダーら開発陣に筆者(青木タカオ)が、開発コンセプトや疑問について聞いてみた。

「その先がどうなっているのか分からないダートでも、小回りの効くオフロードモデルなら躊躇わずにどんどん入って行けるんですよね。道がなくなって、進むことを断念せざる得ないときも簡単に引き返せますからね」
「大型のアドベンチャーモデルだと、なかなかそうはいかない。Uターンに苦労しますから。その点、今回乗った新型トランザルプはハンドル切れ角が大きくて足つき性も良く、このクラスにしては車体も軽い。引き返すのが億劫ではないから、ダートの脇道にもどんどん入っていけました!」

『XL750 TRANSALP』をたっぷり試乗後、そう言う筆者(青木タカオ)にあいづちを打ってくれるのは『XL750 TRANSALP』で開発責任者を務めた佐藤方哉(まさとし)さんと開発責任者代行の細川冬樹さん。ふたりとも、これまでは『CBR1000RR ファイヤーブレード』など、オンロードモデルをメインに開発してきた凄腕コンビです。今回はまったく毛色の異なるアドベンチャーの新機種を任されました。
「市街地からワインディング、オフロード、そして高速道路まで様々なシーンを快適に走れることを目指したモデルですから、想定するユーザー層がスーパースポーツより幅広く、誰にでも扱いやすく実用的にという部分では難しくもあり、面白味もありました」
そう言うのは佐藤さん。ファイヤーブレードで培われた最先端技術は『XL750 TRANSALP』にも注ぎ込まれているとのことで、アルミシリンダー内壁のNi-SiC(ニッケル-炭化ケイ素)メッキや高燃圧(450kPa)燃料ポンプなどはその一例に過ぎません。
小回りが効くからオフも市街地も得意
「臆せずダートに入っていけるというのは、こだわったポイントのひとつです」と教えてくれたのは細川さん。筆者も所有する『CRF250L』のオーナーで、休日は熊本製作所から日帰りのできる阿蘇のダートを満喫しています。同じバイクを持つ者どうし、一気に距離が縮まるのはライダーならおわかりでしょう。ハナシがますます弾みます。

『XL750 TRANSALP』はハンドル切れ角を左右それぞれ42度と広く設定し、最小回転半径を2.6メートルと小回りが効くから「引き返そう」という時も面倒になりません。
「オフ車って、街乗りでも最強なんですよね」と筆者が言うと、細川さんも「毎日の通勤も楽しいです」と答えてくれます。フットワークの良さが親しみやすさとなり、目線の高さなどを含め市街地走行においての大きな武器となるのです。
「グラベルモードはトラコンが介入し、着実に未舗装路をこなせますね」と、筆者が電子制御の設定にも踏み込むなどオフロード談義に花が咲き、試乗後のインタビューはランチをしながらとなって、話はもうとまりません。
親近感のわく軽さと足つき性の良さ
論点にするべきところは、そこだけではいけません。プロジェクトリーダーの佐藤さんによると、開発コンセプトは「日常から世界一周までを叶える」ですから、普段の街乗りから雄大なスケールのロングツーリングまでこなすオールラウンダーとして『XL750 TRANSALP』は生まれたのです。

まず、シート高は850mmで、絞り込まれたシート形状によって足つき性に優れます。車体重量はアドベンチャーモデルとしては軽く208kg。『400X』が199kg、『CRF1100L Africa Twin』のスタンダードが229kg、DCTモデルが240kgですから、スペックを見ても軽量であることがわかります。軽くて、足つき性が良い。乗り手を選ばず、取り回し性に優れていることが安心感を生み出すのです。
機能的でシンプルなデザインを初代から踏襲
初代『XL600Vトランザルプ』(国内名=トランザルプ600V)はパリ・ダカールラリーへの参戦から得られた、長時間にわたり過酷な環境を走破するためのノウハウを取り入れ、当時のホンダの代表的なデュアルパーパス「XL」シリーズの進化版として国内では1987年に登場しました。

『XL750 TRANSALP』は初代モデルが実現した多用途を満たす機能的でシンプルなデザインを継承し、最近のアドベンチャーモデルのアグレッシブなデザイントレンドとは一線を画すスタイリングを採用しています。
これについて佐藤さんは「乗り手との親和性:フレンドリーであることと、頼れる印象:タフネスをキーに、都会の環境とも調和するモダンで一体感のあるシンプルなスタイリングで、クリーンな面構成としながら力強い造形としました」と教えてくれます。
なぜない!? DCTモデル
八ヶ岳の食材をワンプレートに凝縮されたランチは、目の前に広がる畑で採れる新鮮な野菜が特に美味しい。お食事をいただきながら、ふとギモンに思ったのは「なぜ、DCTモデルを設定しなかった?」ということです。

聞いてみると、「(車体が)重くなってしまうのを避けたかったのです」と、プロジェクトリーダーの佐藤さんが教えてくれます。
アシスト&スリッパークラッチの採用によって、レバー操作は負担に感じませんし、試乗車には純正オプションの「クイックシフター」も備わっていましたから、なるほど納得。たとえば『CRF1100L Africa Twin』ではDCTモデルは11kgの重量増となります。軽快性を持ち味にしている『XL750 TRANSALP』では、設定がないのも頷けます。
そして、南アルプスの美しい山々を眺めていると、TRANSALPの車名の由来になったアルプス越えを想像せずにはいられません。「ヨーロッパのライダーはいいなぁー」と羨ましく思っていると、佐藤さんの技術説明会での言葉を思い出します。
「私たちはアルプス越えに、行くかもしれないではなく、今日から行ける現実として捉えて開発してきました」

車体本体価格は126万5000円。『XL750 TRANSALP』が身近にあれば、毎日がワクワクしてくるに違いありません。
Writer: 青木タカオ(モーターサイクルジャーナリスト)
バイク専門誌編集部員を経て、二輪ジャーナリストに転身。自らのモトクロスレース活動や、多くの専門誌への試乗インプレッション寄稿で得た経験をもとにした独自の視点とともに、ビギナーの目線に絶えず立ち返ってわかりやすく解説。休日にバイクを楽しむ等身大のライダーそのものの感覚が幅広く支持され、現在多数のバイク専門誌、一般総合誌、WEBメディアで執筆中。バイク技術関連著書もある。