バイクのスペック表を読み解く! なんだか難しそうな「点火方式」とは?

バイクのカタログや、メーカーHPに掲載されている「スペック」や「仕様」、「諸元」の表には、購入時の参考やライバル車との性能比較など、役立つ情報が含まれています。「点火方式」の言葉の意味はイメージできるけど、構造とかはサッパリわからない……。

混合ガスを爆発させるのに必要な「点火」

 バイクが搭載するエンジンは「吸気→圧縮→爆発→排気」の行程を繰り返して回転し、エネルギーを生み出しています。この中で、ガソリンと空気を混ぜた混合ガスを爆発させるには、何らかの方法で火を点ける必要があります。そこでエンジンの燃焼室に設けた「点火プラグ」に電気を流して火花を飛ばすことで混合ガスに点火します。その火花を飛ばすための仕組みが「点火方式」です。

混合ガスを燃焼・爆発させるために電気で火花を飛ばす「点火プラグ」
混合ガスを燃焼・爆発させるために電気で火花を飛ばす「点火プラグ」

 点火する際に大切な要素として「火花の強さ」と「火花を飛ばすタイミング」があります。

 まず「火花の強さ」ですが、確実に点火して強い爆発力を生むには、やはり「強い火花」が必要になります。しかしバイクが装備する発電機やバッテリーは12ボルト(昔の小排気量車は6ボルト)なので、そのままでは強い火花を作れません。

 そこで点火コイルを用いて、瞬間的に高い電圧を発生させます(この仕組みは電気物理に詳しくないと少々難解なので割愛します)。

 次に「火花を飛ばすタイミング」は、吸気した混合ガスをピストンが上昇して圧縮した時ですが(エンジンの回転数などで、最適な点火タイミングは変化する)、昔は機械式のスイッチで制御していました。エンジンのクランク軸に設けたカムで、ピストンの位置に応じて接点を繋げたり離したりする「ポイント式」とか「接点点火式」と呼び、1970年代頃までのバイクに使われていました。

メンテ不用な「無接点式」が登場

 ポイント式の点火方式のメリットは構造がシンプルなところですが、点火タイミングを緻密に制御できなかったり、高回転になると点火プラグに伝える電圧が低くなるなどの欠点もありました。なにより電気を断続する接点(ポイント)が摩耗や劣化で定期的なポイントの隙間の調整や交換といったメンテナンスが必要でした。

ポイント式(接点点火式)のイメージ図(実際の構造から省略部分アリ)
ポイント式(接点点火式)のイメージ図(実際の構造から省略部分アリ)

 そこでクランク軸の位置(=ピストンの位置)を、磁石などを用いた無接点式のセンサーによって、電気的に点火タイミングの信号を得るようにしました。その点火信号を元に、半導体のトランジスタで点火コイルに送る電気の流れをコントロールするのが「トランジスタ点火方式」です。

 メーカーによって「フルトランジスタ式バッテリー点火」(=ホンダ)、「TCI」(=ヤマハ)、「フルトランジスタ式」(=スズキ)、「バッテリ&コイル(トランジスタ点火)」(=カワサキ)と、表記は異なりますが、基本的に同じ構成の点火方式です。

 また無接点で点火信号を得るのは同様ですが、コンデンサに溜めた高い電圧を点火コイルに送り、強い火花を発生させる「CDI点火方式」も登場しました(電気の流れは電子回路部品のひとつであるサイリスタで制御)。

 そして1980年代以降の国産バイクはポイント式はほぼ無くなり、トランジスタ点火方式かCDI点火方式になりました。

トランジスタ点火とCDI点火の違いは?

 じつは現在の国産バイクは、公道を走る市販車のほとんどがトランジスタ点火になっています。これはCDI点火になにか問題があったり性能が低いから……というワケではありません。

トランジスタ点火方式のイメージ図(実際の構造から省略部分アリ)
トランジスタ点火方式のイメージ図(実際の構造から省略部分アリ)

 前述したようにCDI点火は強い火花を飛ばすことができ、点火ユニットとしても軽量コンパクトに作れるメリットがあります。ただし放電時間が短いため、高回転を多用するエンジンや使用状況に向いており、実質的に2ストロークエンジンのバイクや小排気量車に使われていました。

 対するトランジスタ点火は、主に4ストロークエンジンの中~大型バイクに装備され、そのため2000年代初頭頃まではCDI点火とトランジスタ点火で、それぞれのメリットやエンジンとの相性で住み分け(使い分け)されていました。

 ところが、厳しさを増す排出ガス規制によって2ストロークエンジンの公道向け量産市販車は2000年代初頭でほぼ姿を消し、小排気量のスクーターなども4ストローク化。さらにキャブレターからFI(電子制御式燃料噴射装置)に移行したことで、ECU(コンピュータ内臓のエンジンコントロールユニット)を装備するようになり、緻密な点火制御もECUが担うことになりました。

CDI点火方式のイメージ図(実際の構造から省略部分アリ)
CDI点火方式のイメージ図(実際の構造から省略部分アリ)

 これらの影響でCDI点火は激減し、現在は一部のモトクロッサーやエンデューロ用の競技車両が採用するのみとなり、公道用の市販車はトランジスタ点火が主流になりました。

 というワケで、たとえば1980~90年代のバイクを中古車で購入する際に、トランジスタ点火とCDI点火で優劣があるワケではないので、とくに気にする必要はないでしょう。ただし、それ以前の「ポイント式点火」の車両は、相応にメンテナンスが必要になることをお忘れなく!

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Writer: 伊藤康司

二輪専門誌『ライダースクラブ』に在籍した後(~2005年)、フリーランスの二輪ライターとして活動中。メカニズムに長け、旧車から最新テクノロジー、国内外を問わず広い守備範囲でバイクを探求。機械好きが高じてメンテナンスやカスタム、レストアにいそしみ、イベントレース等のメカニックも担当する。

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