全日本モトクロス全勝で快進撃! ヤマハのジェイ・ウィルソン選手とは?

今シーズンの全日本モトクロス選手権のIA1クラスでは第5戦を終えて1人の選手が全てのレースで優勝しています。そのライダーの名はYAMAHA FACTORY INNOVATION TEAMのジェイ・ウィルソン選手。

ヤマハのモトクロス車両の先行開発と若手ライダーの育成のために家族で日本に移住し、レースでも大活躍

 全日本モトクロス選手権のトップカテゴリーIA1クラスで全勝してるヤマハのジェイ・ウィルソン選手をご存知ですか? これを読んでる人はほとんど知らないと思います。無理やりプロ野球のオールスター風に言うと「パリーグの知らない外国人選手が4打席4本ホームラン打った」という風に例えることができるでしょうか。モトクロスに興味ない人にも知って欲しい2023年の注目ライダー。それがジェイ・ウィルソン選手です。

2022年のチャンピオン、ヤマハの富田俊樹選手(#1)とジェイ選手(#27)
2022年のチャンピオン、ヤマハの富田俊樹選手(#1)とジェイ選手(#27)

  IA1クラスは450ccのバイクで争う国内最高峰のモトクロスレースです。その頂点で今シーズンの開幕戦から5戦13ヒートを全て優勝しています。速さも実力もぶっちぎっていることは予想できますがいったい何者なんでしょうか?

 ウイルソン選手はオーストラリア出身の29歳でオーストラリアとニュージランドでチャンピオンになっています。モトクロスの本場アメリカのAMAや世界MXGPにもチャレンジした経験もあり。ざっくり言うと世界一ではありませんがワールドレベルモトクロスライダーのひとりと言えるでしょう。

日本在住ウィルソン一家。奥さんはミスティさん、愛娘のポピーちゃんは小学生
日本在住ウィルソン一家。奥さんはミスティさん、愛娘のポピーちゃんは小学生

 昨年は、日本のヤマハと契約しシーズン前にオーストラリアから家族3人で日本に移住し、IA2(250cc)クラスでチャンピオンを獲得しています。しかも開幕から15レース連続優勝。最終戦では惜しくも2位になったものの「ほぼ全勝」です

 モトクロスはバイクレースの中でも不確定要素が多く、天候によってはコースの路面はドロドロになりバイク共々立ち往生になることもあります。全日本モトクロスは1戦につき2レース制、あるいは3レース制のラウンドもあります。

 そんな勝ち続ける事が難しいモトクロス競技ですがジェイ選手ならば「若手中心のIA2クラスなら15勝できるのか!」と驚きつつも納得するしかありません。

 しかし今年は国内最高峰のIA1(450cc)クラスです。IA1クラスには世界選手権や本場アメリカでのレースに参戦していた日本人トップライダーもたくさん走っているのに、第5戦までの13レースで全て優勝。去年から数えて今年の第5戦までの29レースで数えると勝率96%です。

 いったい何が起きているんでしょうか?

 全日本モトクロス選手権前半戦の折り返しである夏休み中の7月30日に北海道新千歳モーターランドで行われた第5戦にジェイ選手の姿を追いました。

クマとシャケの北海道バージョン特製缶バッジ。ジェイ選手がファンに直接配っている
クマとシャケの北海道バージョン特製缶バッジ。ジェイ選手がファンに直接配っている

 パドックで見かけるジェイ選手は気さくな外国人さんで、時折日本語も交えながらニコニコと話してくれます。毎回その開催地にちなんだ缶バッチを作って来てファンに配るなど手厚いファンサービスも評判です。

スタートで見事なホールショットを決めるジェイ選手(#27)
スタートで見事なホールショットを決めるジェイ選手(#27)

 北海道大会は決勝レースが2回ある2ヒート制で行われます。モトクロスは横一線のスターティングゲートに並んでスタートします。ジェイ選手はゼッケン27番ヤマハYZ450FMで出場です。一番イン側からスタートしたジェイ選手はキレイに回り込み、1コーナー立ち上がりでいきなりトップに立ちました。

ジェイ選手(#27)のインに滑り込む能塚選手(#2)
ジェイ選手(#27)のインに滑り込む能塚選手(#2)

 1周目に能塚智寛選手(#2 カワサキKX450)が果敢にジェイ選手のインを狙います。半周ほど走ったコース幅のある左コーナーで能塚選手はブロックパス風にジェイ選手の前にKX450を滑り込ませます。

転倒後5位から追い上げ中のジェイ選手(#27)
転倒後5位から追い上げ中のジェイ選手(#27)

 ジェイ選手は能塚選手のアタックを予想していたようにかわすと、3つ先のコーナーでトップを奪い返します。そのままリードを広げるのかと思いましたが、ジェイ選手は2周目に転倒。しかしタイムロスは短く5位付近でレースに復帰。5周目には再びトップ走行の能塚選手に追いついてパス。その後は2位以下を引き離し優勝しました。

北海道大会のヒート1では富田選手とヤマハ1-2フィニッシュを決めた
北海道大会のヒート1では富田選手とヤマハ1-2フィニッシュを決めた

 今年のレースでは「好スタートから序盤でトップに出て独走し優勝」という完璧なレースが多いジェイ選手。この北海道のように序盤にアクシデントがあってもすぐに挽回しています。ひとことで言うとジェイ選手は「安定して速い」走りでした。

 ヒート1を終えたタイミングでジェイ選手に速さの秘密、連勝の秘密を聞いてみました。

ジェイ選手(#27)と能塚選手(#2)のトップ争い
ジェイ選手(#27)と能塚選手(#2)のトップ争い

「1周目の攻防ですが能塚選手のライディングスタイルを理解しリスペクトしています。競り合って二人とも転倒してしまう事は避けたかったので、無理をせずに先に行かせて様子を見て、その後抜き返すことができました。ここ北海道のサンド路面は火山灰で、特徴は見ためよりも滑りやすい事です。ヒート1では砂に隠れた岩に乗り上げフロントタイヤを滑らせました。自分のミスです。エキサイトしてプッシュしすぎました」

 ジェイ選手自身はヒート1をこう分析していました。クールな心と熱いハートが同居するコメントが興味深い。このあたりに秘密があるんでしょうか。

千歳のコースの深いギャップを跳ぶように走るジェイ選手(#27)
千歳のコースの深いギャップを跳ぶように走るジェイ選手(#27)

「自分でもスマートに走ろうと心がけています。それ故に少し慎重になりすぎる傾向もありました。クールに考えながら走る。自分が持っているレーススキルの中のストロングポイントでもあります。レースプロセスの中で次に何が起きるか考えコースを走ります」 

 一方、本人は好調の要因をこう分析していました。

ジェイ選手のYZ450FM。市販のYZをベースにチューニングを施してある
ジェイ選手のYZ450FM。市販のYZをベースにチューニングを施してある

「まず今年の好調はシーズンオフが充実していたから。今シーズンは日本国内最高峰のIA1クラスだし、実は自分にとって450ccのフルシーズンは初めてで、しかもYZ450Fは2023年型でモデルチェンジをしている(全日本選手権用のレースバイクをチューニングする作業が必要)。プレッシャーも感じていたので1ヶ月間ほど以前レースをしていたニュージーランドで走り込み、全日本のシーズンに向けて準備をしました」

 こうやって話を聞いてもコースでの走りを見ても、レベルが高い上に「一番頑張っているヤツが一番速い」というのが連勝の理由だったようです。

北海道大会は欠場の町田選手の展示用YZ450Fに装着されたEPS
北海道大会は欠場の町田選手の展示用YZ450Fに装着されたEPS

 ジェイ選手はヤマハのモトクロス用専用バイクYZシリーズで注目のEPS(エレクトリック・パワー・ステアリング)などの開発を担当しています。より高いレベルのライダーで開発することは大事だと思いますし、レース現場で鍛え連勝を続けていけていると言うわけです。

 ジェイ選手にはYZ開発とは別にもう一つ大事な仕事があります。ヤマハの若手ライダーの育成のコーチ役です。ジェイ選手は走りだけでなくトレーニングに関しても現代的な理論派で、日本にありがちな「根性ライテク」とは真反対のタイプでした。

お昼にはヤマハのブースでサイン会のヤマハライダー
お昼にはヤマハのブースでサイン会のヤマハライダー

 ヤマハはYZユーザーなどを対象にbLUcRU(ブルー・クルー)と呼ばれるアマチュアライダーサポートプログラムを実施しています。ジェイ選手のコーチングについて詳しく知りたい方はIA2のライダーとヤマハのeBIKE YPJ-MT Proを使用した「2023 bRUcLU MX SUMMER CAMP」の動画がYOUTUBEに上がっていますのでご覧になってみて下さい。

 北海道でのレースを見るとヤマハのライダーのみならず、他のメーカーのライダーでもジェイ選手の走りから学べることは多いでしょう。

 ヒート2のレース後にこんな話をしてくれました。

ヒート2も好スタートからトップを快走するジェイ選手(#27)
ヒート2も好スタートからトップを快走するジェイ選手(#27)

「メディアが何連勝するかに興味があるのは知っていますが、同じライダーが勝ち続け過ぎるとファンは興味を失うかもしれません。一方、自分の仕事の一つは日本のモトクロス界を底上げすることで、ライダーのライディング技術向上です。ヒート2では振り返ったら大倉由輝選手(#6ホンダCRF450R)が付いてきていました。多くの若手IA1ライダーが進化してシーズン終盤にはもっと速くなっているのを見るのは良い事です。今は自分の方がスキルが上ですが、ヤマハライダーに限らず日本人ライダーの技術が上がる事がファンが全日本モトクロスをより楽しく見れる事でしょうし、最も重要なのは日本のモトクロスが進化し続ける事です」

 自分で走りながら開発やコーチとして活躍するジェイ選手ですが、今回再びモトクロスの本場アメリカのAMAモトクロスシリーズにチャレンジするチャンスが巡ってきました。

 全日本選手権が夏休み中の3戦、AMAのヤマハ系トップチームであるヤマハスターレーシングから緊急参戦しました。1戦目の会場はニューヨーク州のユナディラ。成績はヒート2で12位。チームメイトは2位と3位だったので、残り2戦でジェイ選手のさらなる好成績を期待し日本からエールを送ります。

【画像】全日本モトクロス全勝で快進撃を続けるヤマハのジェイ・ウィルソン選手の画像を見る

画像ギャラリー

Writer: 柴田直行

カメラマン。80年代のブームに乗じてバイク雑誌業界へ。前半の20年はモトクロス専門誌「ダートクール」を立ち上げアメリカでレースを撮影。後半の20年は多数のバイクメディアでインプレからツーリング、カスタムまでバイクライフ全般を撮影。休日は愛車のホンダ「GB350」でのんびりライディングを楽しむ。日本レース写真家協会会員

最新記事