不動車のホンダ「ベンリイC92」をエンジンのプロがレストア!ニュートラルで固定できないシフトドラムストッパーの改善策を解説【vol.4】

老舗内燃機屋「井上ボーリング」で、年間700台ものヘッド再生を行うベテランヘッド技師が、不動車となったホンダ「ベンリイC92」の再生とモディファイを行う連載。第4回目は、ニュートラルで固定できないシフトドラムストッパーの改善策を解説します!

5速対応シフトドラムストッパーの検討

5速ミッション組込みのケース加工までは順調に進めてきましたが、シフトドラムストッパーに問題が発覚します。

 ホンダ「ベンリイC92」のクランクケースに付いているシフトドラムストッパーマウントは1箇所しかありませんが、幸い位置関係はホンダ「CB125」と同じで、1速から5速までシフトチェンジする分には問題ありません。

 しかしながらストッパーアーム先端のローラーが無駄に大きく、これに組み合わせられるストッパープレートの谷が大径で且つ浅い為に、バネを固くして強く押し付ける構造になっています。

 これが原因でローラー中心の軸はかなり摩耗し、ガタガタになっているのも問題です。

バネが強すぎて摩耗したCB125シフトドラムストッパーアーム先端のローラー軸
バネが強すぎて摩耗したCB125シフトドラムストッパーアーム先端のローラー軸

 そもそもこのローラーは4速ロータリーミッションで、ピンとピンの間を抑える為に使われていた物をそのまま使っています。これをもっと径の小さなローラーにしていればストッパープレートの凹凸が深く幅の狭い谷になり、ニュートラル部分の谷が出来たはず。

C92シフトドラムはピンを直接ストッパーアームが抑える構造
C92シフトドラムはピンを直接ストッパーアームが抑える構造

 そのため、元からその構造になっている車種の部品を使えないかと思い、1970年前後のホンダ製5速ミッション採用車のシフトドラムストッパープレートについてネット検索してみると、ホンダ「CB50」の物が正にその形になっているようでした。

 そこで、CB50といえば、同形式のエンジンが数年前までホンダ「APE50」として販売されており、まだまだ新品部品が出ているので、ストッパープレートとアームを取り寄せ。ストッパープレートはAPE用の方が、外形が大きくニュートラル位置にしっかりと谷がある為、これなら一本のストッパーアームでしっかりと固定できます。

 また、CB125では3速、4速間のピンが回り止めになっていますが、APEでは違っているので、この穴を同位置に開ければ組み付けられそうです。

 ストッパーアームのローラーに関しては、APE純正も意外と径が大きく、これではアームの角度がCB125と同じになってしまう為、バネの押さえつけでローラー軸の負荷が強すぎるのは変えられません。そこでニュートラル専用アームの小径ローラーに付け替える事で、幾分かはバネのプリロードを抜いて軸の負荷を減らそうと考えました。

APE50用ストッパープレートと小径ローラーに付け替えたストッパーアーム
APE50用ストッパープレートと小径ローラーに付け替えたストッパーアーム

 そうして加工が終わったストッパープレートとアームを組み付けたところ、ニュートラル位置の谷も深く一本のアームでもしっかりと固定する事が出来ました。

 しかしシフトチェンジをしてみると、シフトアップは問題ないのですがシフトダウン時にはローラーがうまく回らず、シフトアームがつっかえ棒となってチェンジ出来ません。

シフトドラムストッパープレートを切削加工

 そこでプレートの山をシフトダウン方向側だけ削って、ローラーの転がり始めから角度が緩やかになる様リューター加工しました。ローラーが谷で止まる部分は変わらないように、注意しつつなだらかにしています。

小径ローラーに合わせてプレートの山を小さく加工
小径ローラーに合わせてプレートの山を小さく加工

 これでようやくニュートラルから全てのギアに正確な位置でシフトドラムを固定でき、シフトチェンジが出来る様になりました。

 元々のCB125よりもばねの負荷が少なく耐久性の向上も期待され、余計なアームを増設する事もなくスッキリとしたレイアウトに収まったのはうれしい誤算です。

 これでミッション組換えの障害がすべて解消し、本来ならば腰下の組立に入る段階ですが、手持ちのCD125ベースエンジンはセルモーターを外した状態で長期保存されていた個体なので、クランクウェブに赤錆が発生している状況。次回はこのベースエンジンの再生からご紹介します。

【画像】不動車となったホンダ「C92」をレストアする様子を画像で見る

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Writer: 市川信行(井上ボーリング ヘッド技師)

川越で創業70年の老舗内燃機加工屋「(株)井上ボーリング」で多種多様な4ストロークエンジンのシリンダーヘッドに関するオーバーホール作業を担当する加工技師。プライベートでもバイクのレストアを趣味としており、趣味を仕事に生かしてるのか仕事を趣味に生かしているのかよく判らないこの状況を楽しみながら、年間700台前後のヘッド再生をこなしている。

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