スズキの8耐ファクトリーチーム「チームスズキ CN チャレンジ」 チームディレクターに直撃インタビュー どのようにしてライダー・スタッフは選ばれたのか(中編)
2024年7月19日から 21日にかけて三重県鈴鹿サーキットで開催される 「2024 FIM 世界耐久選手権"コカ·コーラ" 鈴鹿 8 時間耐久ロードレース第45回大会」にスズキのファクトリーチームとして参戦する「チームスズキ CN チャレンジ」のチームディレクター佐原伸一さんに、モーターサイクルジャーナリストの伊丹孝裕さんが直撃インタビューを行いました(前編/中編/後編の全3回に分けて掲載)。
ライダーやチームの人選はいかにして行われた?
2024年のFIM 世界耐久選手権第3戦「鈴鹿8時間耐久ロードレース」に、スズキが「チームスズキCNチャレンジ」として参戦します。マシンの仕様やチーム体制のあれこれをプロジェクトリーダーの佐原伸一さんにお聞きしたインタビューの第2弾(全3回)です。

―――今回はゼロから編成されたチームだと思いますが、規模はどれくらいですか?
サーキットでユニフォームを着て仕事する、という意味では、ライダーを含めて30名ほどです。ヨシムラSERTと、ほぼ同じくらいだと思います。
―――どうやって人選したのでしょう?
スズキは、2022年までMotoGPで活動していたわけですが、その撤退に伴い、いわゆるレースグループのメンバーは、それぞれ所属が変わりました。そこでその経験者を主要なポストに置きたいという私個人の意志がありました。マップに長けている人だったり、車体を手掛ける人だったり様々ですが、まずはメカニック。なぜなら、ライダーの命を直接預かる立場だからです。
―――なるほど。それが何名くらいですか?
約10名です。もちろん、本人にその気があることが大前提で、あったとしても所属部署の上司の許可が必要ですから、協力をお願いして回りました。他のポジションは、社内公募という形で希望者を募りました。
―――それはいつぐらいのことですか?
東京モーターサイクルショーで、今回のプロジェクトを発表したのが3月21日。それまでは社内とはいえ、プロジェクトについてあまり公にできなかったものですから、公募はその後です。
―――つい最近と言ってもいいですね。反響は大きかったのではないですか?
各自で上司の了承を得てから、という条件付きの公募でしたが、ありがたいことに100名くらい集まったんです。やる気と能力があっても部署の都合で断念せざるを得ない人もたくさんいて、レース活動に興味を持ってもらえているんだな、と本当に嬉しかったです。
―――そこから絞っていくのは大変でしたね。
必要に応じて面接もして、最終的な決定は4月後半までかかりました。残念ながら今回採用に至らなかった人も次の機会には、ぜひチャレンジしてもらいたいですね。

―――当初、「浜松チームタイタン」(スズキの社員で構成されたチーム)が母体になるのかと思いましたが、それともまた異なるんですね。
タイタンは今年の鈴鹿8耐には出場しないため、幾人かのタイタンのメンバーをCNチャレンジのチーム員として採用しています。彼らは自分の余暇とお金を使ってレースをしているのですから、そもそもレースに対し高いモチベーションを持っている人たちです。とはいえ、タイタンはクラブ活動でもあるため、できることや装備には一定の足枷もある。そういう意味で、決して上から目線ではないのですが、ファクトリー体制を経験してもらうことで、タイタンとしての底上げにも繋がればと。そんな思いでいます。

―――決定に至った背景や期待する役割など、3名のライダーについても聞かせてください。
最初に声を掛けたのは、エティエンヌ・マッソン選手(35歳/フランス)です。SERTで何度も世界耐久チャンピオンになっており、今年のル・マン24時間でも優勝するなど、実力は申し分ありません。タイムや順位ありきのプロジェクトではないとはいえ、速さも評価基準として重要な要素のひとつですから、外せないライダーでした。もちろん、本来の所属チームであるヨシムラSERTモチュールにも了承してもらい、チームの軸となるライダーがこれで決まりました。

―――速さという意味では、濱原颯道選手(29歳)も期待されていますね。
マッソン選手のセッティングに合わせていく時、あまり小柄だとポジション合わせが難しくなるので濱原選手を候補として考えていたのですが、ちょっと大き過ぎたかもしれません(笑)。 でも彼はバイクを選ばない器用さがあり、一発のタイム、アベレージスピード、セッティング能力が高次元でバランスしているライダー。このところ全日本のレースには出ていなかったので、“今年の夏、空いてる?”みたいな(笑)。

―――そして、ベテランの生形秀之選手(47歳)。
生形選手は、ライダーとしての豊富な経験と、それに裏打ちされた的確な評価が強みです。また、彼自身がオーナーになってチームを切り盛りしてきたという実績もポイントでした。我々のスタッフはまだ不慣れな部分もあるため、広い視野で全体を見渡し、チーム作りに貢献してもらおうと考えています。
―――ライダー構成が2名なのか、3名なのかでは、いろいろな要素が変わってくるかと思います。レース前にこんなことを言うのはなんですが、もしも誰かがケガなどで離脱した場合、第4のライダーが招集される可能性はありますか?
こうしたスポーツの特性上、常に様々なリスクを頭の片隅に置いておかなければいけません。2名でも走れる人選ではありますが、タイミングによっては別の選択肢も想定しておく必要があるでしょう。もっとも、代替のライダーなんて、簡単に見つけられるものではありませんけど。

―――ところで、テストで実走していたマシンにはウイングレットが備わっていましたね。あれは本番も同様でしょうか?
その予定です。竜洋のテスト段階からすでに試していて、ネガがないことは確認できているので、レース本番も装着して走らせる予定です。本番用のウィングレットは前後フェンダーと同様、天然素材のBcompとなる予定です。

―――エクスペリメンタルクラスって、外観の制約はそれほどないのですか?
市販車に無いモノも装着できますが、安全性の観点から、事前にFIM(国際モーターサイクリズム連盟)へ図面を提出して許可をもらうなど、一定のルールに則っています。
―――FIMの話が出ましたが、そもそも今回の参戦は、2023年の鈴鹿8耐時にFIMとスズキとの間で設けられたミーティングが発端だと聞いています。ということは、その時点である程度は、「チームスズキCNチャレンジ」の構想が出来上がっていたということでしょうか?
いや、会社として8耐に関してはまったくの素の状態というか、ニュートラルな立場だったはずです。ただ、EWC(世界耐久選手権)として環境負荷低減の方向に向かわなくては、という思いがあり、スズキも会社としてサステナビリティへの取り組みを重要視している。そこで双方の思惑が合致し、“だったら”ということで具体的な検討が始まりました。

―――耐久レースという舞台は、技術開発の場にふさわしい反面、過酷でもありますね。
その通りです。特に鈴鹿8耐は、アベレージスピード的にも気象条件的にもマシンへの負担が大きく、そこで得られた耐久性や燃費のノウハウはフィードバックとして貴重です。あえて厳しい条件に身を置いてトライしていくことが、今回のプロジェクトの意義のひとつです。
―――具体的にプロジェクトが動き出したのは、いつ頃だったのですか?
FIMとのミーティングの後、様々な要件を洗い出し、果たして現実的かどうかを判断したのが、10月か11月のことでした。普通ならそのタイミングで“やれ”と言われても“無理”となるのですが、幸い我々はヨシムラさんとの関係があるため、ベースマシンのデータはある。そこでヨシムラに協力を打診したところ快諾をもらい、だったらやれるね、と。結果、こうしてテスト走行までこぎつけることができました。
―――なるほど。サラッとおっしゃっていますが、そのあたりのマネージメントは、レース最前線で人とモノを動かしてきた佐原さんならではのものだと思います。次回は少し未来の話もお聞かせください。
※このインタビューは、6月4~5日にかけて行われた鈴鹿8耐合同テスト後のものですが、6月19~20日には、2回目のテストを実施。エティエンヌ・マッソン選手も合流し、20日のグループ別セッションでは、濱原選手が2番手のタイム(2分7秒557)をマークするなど、さらに好調です。
Writer: 伊丹孝裕
二輪専門誌「クラブマン」編集長を務めた後にフリーランスとなり、二輪誌を中心に編集・ライター、マシンやパーツのインプレッションを伝えるライダーとして活躍。鈴鹿8耐、マン島TT、パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライムといった国内外のレースにも参戦するなど、精力的に活動を続けている。

















