小椋藍選手の起用の理由、そして評価。トラックハウス・レーシングのチーム代表、ダビデ・ブリビオは何を語ったのか
2025年シーズン、小椋藍選手がトラックハウス・レーシングからMotoGPクラスに参戦することが発表されました。発表があった8月15日に、来季より小椋選手が所属するトラックハウス・レーシングのチーム代表、ダビデ・ブリビオが起用の理由を語りました。
目利きのブリビオが見た小椋藍選手
2024年8月15日、「Trackhouse Racing(トラックハウス・レーシング)」は、2025年、2026年シーズンのMotoGPクラスに小椋藍選手が参戦することで合意した、と発表しました。つまり、2025年、小椋選手は世界最高峰の舞台であるMotoGPクラスに昇格し、アプリリアのサテライトチームから参戦することになったのです。日本のMotoGPファンにとって大ニュースであり、また、ついに誕生する「MotoGPライダー・小椋藍」に、期待を込めた熱い視線が集まりました。

小椋選手は現在(2024年シーズン)、Moto2クラスに参戦する23歳のライダーです。2019年にロードレース世界選手権Moto3クラスにフル参戦を果たしました。Moto2クラス参戦4シーズン目の今季はチームを移籍して、オーストリアGP終了時点で、チャンピオンシップのランキングトップから20ポイント差のランキング2番手につけています。目下、Moto2のタイトル争いを展開中です。
今回の発表は、MotoGP第11戦オーストリアGPの木曜日のことでした。小椋選手が出席した木曜日のプレスカンファレンスのあと、来季、小椋選手が所属することになるトラックハウス・レーシングのチーム代表、ダビデ・ブリビオの囲み取材が設けられ、今回の起用について説明しました。
まず、ブリビオは選択肢の中に、ミゲール・オリベイラ選手がいたことを明かしました。オリベイラ選手は今季、トラックハウス・レーシングから参戦している、MotoGPクラス参戦6シーズン目のライダーです。
「最初の困難は、ミゲールを選ぶか、違うライダーを選ぶかということでした。とても難しいところでしたよ。ミゲールには何の不満もありませんでしたからね。素晴らしいライダーであり、才能があり、そして全力で取り組むライダーですから。わたしは、彼には今の結果以上のポテンシャルがあると考えています」
「しかし、変化を起こすと決めて、私たちは違う方向性、つまり若い才能という新しいプロジェクトに進むことにしたのです。MotoGPでの有望なライダーを選ぼうと考え、それが藍だったのです」
すでにアプリリアのファクトリーライダーであるアレイシ・エスパルガロ選手は今季をもって引退することを発表しており、同じくマーベリック・ビニャーレス選手もKTMのサテライトチームであるテック3へと移籍することが決まっています。
ラウル・フェルナンデス選手が引き続きトラックハウス・レーシングから参戦することが決定しているとはいえ、アプリリアのMotoGPマシン「RS-GP」の経験を持つもう1人のライダーであるオリベイラ選手が残留候補に上がるのは当然でしょう。実際のところ、アプリリア・レーシングのCEOであるマッシモ・リボラは、オリベイラ選手の残留を望んでいたというのです。
「正直なところ、藍の場合はアプリリアの選択というよりもわたしたち(トラックハウス・レーシング)の選択です。これは別に内緒ではないですけど、マッシモはミゲールがそのままこのチームに残ることを望んでいました。これはジレンマのようなもので、ファクトリーチームはライダーが2人とも変わりますからね。ラウルしかバイク(RS-GP)を知らないという状況になります。それは話し合われた事項のひとつでした」

さらに付け加えれば、候補者は少なくとももう1人いました。アメリカ人のMoto2ライダー、ジョー・ロバーツ選手です。アメリカのチームであるトラックハウス・レーシングが、現在、Moto2クラスのチャンピオンシップで小椋選手に次ぐランキング3番手につけるロバーツ選手を候補に挙げるだろうと考えることもまた、自然なことでしょう。逆に言えば、そうした状況でなお、ブリビオは小椋選手を選んだということになります。
「このアメリカン・チームにアメリカ人ライダーがいたら良いよね、とはいつも言っていますよ。そして、もちろん、ジョー・ロバーツもわたしたちの短い候補者リストに入っていましたし、検討しました。ポテンシャル、パフォーマンスなどの観点から、いくつかの評価を下しました」
ブリビオは、小椋選手を選んだ理由について、「評価と分析を行ない、パスポートに関わらず、わたしたちのプロジェクトには藍が良いという選択だったのです」と説明しています。
「私たちは、藍がこのチャンピオンシップで示しているものを評価しています。優勝していますし、彼には困難を乗り越える力、と呼べるものがあります。いいスタートではなくても、後方からポジションを上げて、決してあきらめないんです。ある意味で、彼のスタイルはMotoGPマシンに合うよう進化するだろうとわたしたちは考えています」
この選択の背景には、「若いプロジェクトという観点」がありました。RNFチームが出場取り消しを受け、引き継ぐ形でトラックハウス・レーシングがMotoGPに参戦したのが、2024年シーズン。ブリビオもまた、今季からチーム代表に就任した人物です。
「わたしたちは今年始まったばかりで、トラックハウスにとっては学びの年なのです。MotoGPを理解しなければならないし、どこに行きたいのか、それが何になり得るのか、野心、将来の目標を全て確認する必要があるのです」
「ラウルは24歳で、すでにMotoGPでは3年の経験があります。私たちはルーキーである藍とともにプロジェクトをスタートしますが、同時に、チームも若いのです。ですから、この選択は完全なプロジェクトの観点で行われています」
ブリビオについて補足すると、彼はMotoGPに参戦していたチーム・スズキ・エクスターのチームマネージャーを務めていた人物です。ライダーの才能を見抜く目がある、と言われています。
2020年にスズキでチャンピオンを獲得したジョアン・ミル選手も、ブリビオがミルのMoto3時代から注目していたライダーでした。当時のチーム・スズキ・エクスターの理念は「若いライダーを育ててチャンピオンにする」というもので、ブリビオに見出されたミル選手はスズキでMotoGPクラスデビューを果たし、そして、実際に2020年にチャンピオンに輝いています。
ブリビオが説明したトラックハウス・レーシングの「若いプロジェクト」は──もちろんそのゴールは語られておらず、「将来の目標を全て確認する必要がある」状況です──、スズキが若いライダーとともに果たした成功を想起させるものがあります。
このような今のトラックハウス・レーシングにとって、目利きのブリビオは小椋選手が必要だと考えた、ということなのでしょう。このトラックハウス・レーシングという場所で、小椋選手がどう進化し戦うのか、2025年シーズンへの期待は膨らむばかりです。
Writer: 伊藤英里
モータースポーツジャーナリスト、ライター。主に二輪関連記事やレース記事を雑誌やウエブ媒体に寄稿している。小柄・ビギナーライダーに寄り添った二輪インプレッション記事を手掛けるほか、MotoGP、電動バイクレースMotoE取材に足を運ぶ。




