Moto2チャンピオンに輝いた小椋藍選手。2024年シーズンのキーポイントと、2年前からの向上とは

2024年シーズンのMotoGP第18戦タイGPで、Moto2クラスのチャンピオンに輝いた小椋藍選手(MTヘルメット - MSI)は、週末を通して落ち着いた様子でした。その背景には第13戦サンマリノGPの優勝がありました。また、Moto2クラスでタイトル争いを展開した2022年シーズンと今季では、どのように違っていたのでしょうか。

2024年シーズンのポイントとなった、サンマリノGPの勝利

 Moto2クラスに参戦する小椋藍選手(MTヘルメット – MSI)は、MotoGP第18戦タイGPの週末を落ち着いて迎えていました。少なくとも、傍目にはそう見えました。ランキング2番手に65ポイントもの差を築いているとはいえ、チャンピオン獲得がかかる大一番。それにもかかわらず、金曜日午前中のフリープラクティスから、小椋選手はピットでメカニックと言葉を交わして笑顔さえ見せていたのです。

小椋藍選手(MTヘルメット - MSI)は、MotoGP第18戦タイGPで2024年シーズンのMoto2クラスのチャンピオンに輝いた
小椋藍選手(MTヘルメット – MSI)は、MotoGP第18戦タイGPで2024年シーズンのMoto2クラスのチャンピオンに輝いた

 じつは、小椋選手のそんな落ち着いた様子は第13戦サンマリノGPで優勝を飾って以降に見られました。第16戦日本GPでも、第17戦オーストラリアGPでも、そして、ついに迎えたタイGPでも、小椋選手はずっと、悠々とさえしていました。

「今季はうまくシーズンをスタートできなかった」と、小椋選手はタイGPのMoto2クラス決勝レース後に行なわれたチャンピオン会見でシーズンを振り返ります。

 今季は小椋選手にとって、いくつかの変化をもって迎えたシーズンでした。タイヤサプライヤーがダンロップからピレリに変わり、イデミツ・ホンダ・チームアジアからMTヘルメット – MSIに移籍したことで、シャシーがカレックスからボスコスクーロになりました。レースでの情報を集め、状況を確認しながらだったこともあるのですが、確かにシーズン序盤、ボスコスクーロ勢の他3名のライダーが優勝や表彰台を獲得する一方、小椋選手はやや出遅れていました。

 第5戦フランスGPからチャンピオンシップのランキングトップに立っていたのは、チームメイトのセルジオ・ガルシア選手(MTヘルメット – MSI)でした。しかし、小椋選手には「優勝できる、表彰台を獲得できるポテンシャルがある」という確信がありました。第6戦カタルーニャGPでの今季初優勝は、ひとつのポイントとなった勝利でした。

 その後、サマーブレイクを終えてシーズン後半戦に入った第11戦オーストリアGPでは右手を骨折。「ああ、またか、と思った」と言う小椋選手ですが、オーストリアGPだけを欠場し、翌戦アラゴンGPから復帰します。

第13戦サンマリノGPは、オーストリアGPで負った右手の骨折が完治していなかったが、痛み止めを使わずに臨み、優勝を飾った
第13戦サンマリノGPは、オーストリアGPで負った右手の骨折が完治していなかったが、痛み止めを使わずに臨み、優勝を飾った

 そして、サンマリノGPで重要な優勝を果たすのです。小椋選手が以前にも増して悠然と週末を迎えるようになったのは、このサンマリノGP以降です。

「ミサノ(サンマリノGP)での優勝は、とても大きかったと思います。まだ(右手に)痛みがありましたが、レースで優勝し、チームのモチベーションをさらに引き上げることができました。シーズン終盤、何度も表彰台に立っていますし、コントロールできています。完璧なシーズンではなかったですが、すごく良いシーズンでした」

 この優勝について、小椋選手のクルーチーフであるノーマン・ランクさんはこう語っています。

「右手が万全ではないにもかかわらず優勝したことは、彼にとって自信の向上につながった。優勝できる、と彼が感じたんだ」

「ミサノは、まだ右手が完治していなかったけれど、彼は勝った。それはつまり、100パーセントの状態ならばもっと強いということだ。それに、ミサノは、以前は遅いというわけではないけれど、とても強かったサーキットというわけでもなかった。だから私たちは彼のために良いバイクを作ったし、彼のライディングスキルも以前よりずっとよくなっている。これがミサノのキーポイントだったんだ」

 まさにこのサンマリノGPで、小椋選手はランキングトップに浮上しました。サンマリノGPは、今季の小椋選手にとって、ある意味でチャンピオンを決定づけたレースだったのかもしれません。

2年前から、そして2017年から、小椋藍はいかに自分を向上させてきたのか

 小椋選手は、2022年シーズンにもアウグスト・フェルナンデス選手(現MotoGPライダー。レッドブルGASGASテック3)と、Moto2クラスでチャンピオン争いを展開しています。そのときは最終戦までもつれましたが、ランキング2位に終わりました。

MotoGP第6戦カタルーニャGPでの2024年シーズン初優勝、そして2022年の日本GP以来となる優勝もまた、ひとつのポイントだった。このときはチームメイトのセルジオ・ガルシア選手(MTヘルメット - MSI)が2位で、チームとしてワンツーを果たしている
MotoGP第6戦カタルーニャGPでの2024年シーズン初優勝、そして2022年の日本GP以来となる優勝もまた、ひとつのポイントだった。このときはチームメイトのセルジオ・ガルシア選手(MTヘルメット – MSI)が2位で、チームとしてワンツーを果たしている

 そのときから現在にかけて、どのように向上したのか。小椋選手は「2年前よりも明らかに速さが増しています」と語っています。

「2年前は、セッションで10番手でも、レースではなんとかして4位、5位でゴールして、チャンピオンシップのために毎戦ポイントを獲得していました。ただ、最終戦までタイトルを争いましたが、Moto2で最速のライダーではありませんでした」

 しかし、「今年は全く違っています」と言います。

「全てのセッションをとてもうまくコントロールして、全てのレースをうまく走りました。2年前よりも、自分をよくわかっています。これが、2年前との大きな違いなんです」

 さらに、ランクさんに聞いた話を加えましょう。小椋選手の2017年からの成長、向上についてランクさんに尋ねました。

 2017年は、小椋選手のFIM CEVレプソルMoto3ジュニア世界選手権(現FIMジュニアGP世界選手権)参戦初年度で、ランクさんと組み始めた年です。なお、小椋選手は2025年にMotoGPクラスへの昇格が決まっており、2人は今季限りで袂を分かつことになります。

「最も大きなポイントは、アイがレースにおける自分の生活の全てを、結果を得るために、世界チャンピオンを獲得するために集中しているということだ」

「チャンピオンシップを学び、カテゴリーを学び、パドックのライフスタイルを学ぶためにね。というのも、日本のライフスタイルとは全く違っているからだ。この厳しい世界のパドックでは、役に立たないこともある」

「彼は、自分がフェアで正しくなければならないと理解している。けれど同時に、強くなければならず、自分の道を行かなくてはならないし、礼儀正し過ぎてもいけない。ここは驚きの連続のようなところだからね」

「ここでは誰もがチャンピオンになりたいと思っている。だから、最強でなければならず、完璧でなければならず、賢く、速く、利口でなければならないんだ。長年にわたってこのパッケージが形成され、世界チャンピオンになることができる。アイはこれを理解しているんだ」

MotoGP第18戦タイGPの週末は、ピットで笑顔を見せることもあった小椋選手。このときもノーマン・ランクさん(右)と話しながら笑みを浮かべていた
MotoGP第18戦タイGPの週末は、ピットで笑顔を見せることもあった小椋選手。このときもノーマン・ランクさん(右)と話しながら笑みを浮かべていた

 小椋選手は、コース上の強さや速さだけではなく、「チャンピオンを獲得するために必要な」様々な部分で自分を向上させ続けてきたのでしょう。

「アイがもっと若いころ、このスポーツへの決意は強く、このスポーツだけが全てだった。彼の人生の目標は“世界チャンピオンになりたい”というものだった。それならば全力を注ぐ必要があるし、ほかのことに割く時間はないんだ」

「だから、私は彼をしっかりとサポートする。そして、彼も私をサポートしてくれる。私も彼と共にたくさんのことを学んだよ。そしてタイトルを獲得したんだ。私たちは素晴らしいキャリアを歩んできた。そのことを、とても嬉しく思っているんだ」

 おそらくは、小椋選手の言葉もランクさんの話も、氷山の一角なのでしょう。彼らが「世界チャンピオン」に至るために積み重ねてきたものは、それほどまでに細かく、そして膨大だったに違いありません。

■Moto2クラスとは……

 Moto2クラスは、トライアンフ「ストリートトリプルRS」の排気量765ccの3気筒エンジンをベースに開発されたオフィシャルエンジンと、シャシーコンストラクターが製作したオリジナルシャシーを組み合わせたマシンによって争われる。タイヤは2024年よりピレリのワンメイクとなった。クラスとしてはMotoGPクラスとMoto3クラスの中間に位置する。

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Writer: 伊藤英里

モータースポーツジャーナリスト、ライター。主に二輪関連記事やレース記事を雑誌やウエブ媒体に寄稿している。小柄・ビギナーライダーに寄り添った二輪インプレッション記事を手掛けるほか、MotoGP、電動バイクレースMotoE取材に足を運ぶ。

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