スズキ独自の「油冷エンジン」ってナニ? どこがスゴイの?

バイクのエンジンの冷却方式は「水冷」と「空冷」の2種類が主流ですが、スズキはかつて、大排気量のスーパースポーツやネイキッドに独自の「油冷エンジン」を搭載していました。文字通りオイルでエンジンを冷やしますが、なぜこのような冷却方式を選んだのでしょうか?

スズキが生んだ、第3のエンジン冷却方式

 バイクのエンジンの冷却方式は、1960年代まではほとんどすべてが空冷で、1970年代の初頭にごく一部の車両が「水冷」を採用し、そして1980年代になって本格的に水冷エンジンの時代が到来しました。これはエンジンの高出力化に伴って増加した発熱量に対応し、より冷却効果を高めることが目的でした。

「GSX-R750」(1985年)が搭載した、スズキ独自の油冷エンジン
「GSX-R750」(1985年)が搭載した、スズキ独自の油冷エンジン

 しかし当時のスズキは、「第3の冷却方式」と呼ばれる独自の「油冷エンジン」を開発し、大排気量スーパースポーツの祖と言える「GSX-R750」(1985年)に搭載しました。

 バイク人気やレース人気が高まった1980年代、以前からの空冷エンジンは排気量を拡大したりパワーを追求すると発熱量が増加し、さらにレース用にチューンナップすると熱的に厳しい状況になってきました。

 そこで多くのバイクメーカーは、安定してエンジンを冷却できる水冷方式に着手しました。

 しかし空冷に対して水冷は、エンジンのシリンダーやシリンダーヘッドに「ウォータージャケット」(冷却水を流すスペース)を設け、冷却水を循環させるウォーターポンプや、熱せられた冷却水を冷やすためのラジエターが必要になります。

 そして1980年代初頭の技術では、これらを装備するとエンジンが大きく、重くなるデメリットがありました。水冷化でパワーを稼いでも、結果的に車体が重くなったり大型化するのは、とくにスーパースポーツ車では避けたい事実です。

 そこでスズキが考案したのが、「SACS(スズキ・アドバンスド・クーリング・システム)」と呼ぶ、冷却性能と軽くコンパクトなエンジンを両立する油冷エンジンです。

エンジンの燃焼室に1気筒当たり2本のノズルからエンジンオイルを勢い良く吹き付け、温度境界層を破壊することで効率的にエンジンを冷却
エンジンの燃焼室に1気筒当たり2本のノズルからエンジンオイルを勢い良く吹き付け、温度境界層を破壊することで効率的にエンジンを冷却

 大容量のオイルポンプやオイルクーラーは必要になりますが、ウォータージャケットのような構造は不要なため、徹底したエンジンパーツの軽量化と合わせて、従来の空冷エンジン(1983年の「GSX750E」)に対してエンジン単体で7.7kgもの軽量化とサイズのコンパクト化を実現し、最高出力は72→77馬力に向上しました。しかしこれは国内仕様の数値で、輸出モデルは100馬力を発揮しました。

 そもそもエンジンオイルには冷却の役目もあるため、この油冷エンジンを「大量のエンジンオイルを循環させて大型オイルクーラーで冷やす空冷エンジン」というイメージを持つ人も多いようですが、じつは違います。

 エンジンオイルは水と比べると比熱が1/10しかないため、そこそこ大量に循環させたくらいでは水冷のようにエンジンを冷やせません。

 そこでエンジンの燃焼室をシリンダーヘッド側から、1気筒当たり2本のノズルからオイルをジェット噴射で吹き付けることで温度境界層を吹き飛ばして冷却しています。またクランクケース側では、やはりノズルからのジェット噴射でピストンの内側にオイルを吹き付けています。

 とはいえ「熱いエンジンオイルを吹き付けても、さほど冷えないのでは?」とも感じますが、これは簡単な実験で理解できます。手の平にハァ~とユックリ息を吹きかけると暖かく感じますが、口をすぼめてフーッと勢い良く吹き付けると冷たく感じます。息の温度は同じなのに冷たくなるのは、手の平の表面の暖かい空気の層を吹き飛ばしているからです。この原理によって、油冷エンジンは効果的にエンジンを冷却できるのです。

ビッグネイキッドも、油冷エンジンで独自路線

 スズキはスーパースポーツ「GSX-R750」を皮切りに、1986年以降は輸出モデルの「GSX-R1100」にも油冷エンジンを搭載します。そして1995年にはネイキッドの「GSF1200」、1996年には兄弟車の「GSF750」を発売し、1997年には「GSF750」のエンジンをベースに排気量400ccクラスで唯一の油冷エンジンを開発してネイキッドの「Inazuma(イナズマ)」に搭載しました(翌1998年に兄弟車の「Inazuma1200」を発売)。

油冷エンジン最大排気量を誇る「GSX1400」(2001年)
油冷エンジン最大排気量を誇る「GSX1400」(2001年)

 2000年には「GSF1200」の後継モデルとなる「バンディット1200」を、さらに2001年にはかつての「GSX-R750」や1980年代の耐久レーサーをモチーフとした「GS1200SS」をリリースします。さらに同年、スズキの4気筒エンジンで最大排気量となる1401ccの油冷エンジンで、初のFI(フューエルインジェクション)装備のビッグネイキッド「GSX1400」を発売します。

 ところが大元となったスーパースポーツの「GSX-R750」は1991年型が最後の油冷エンジン車となり、1992年からは新設計の水冷エンジンに切り替わりました。これは技術の進歩やレースで積み重ねたノウハウによって、水冷でも軽量・コンパクトなエンジンを作れるようになったからです。それと同時に、さらなる高出力化に対応するには冷却効率に優れた水冷方式を採用せざるを得なかった、という面もあるでしょう。

 また油冷エンジン搭載のネイキッドも、最後発かつ最大排気量の「GSX1400」が2008年のファイナルエディションをもって生産終了。これにより、一時代を築いたスズキの油冷エンジンは姿を消しました。

久々に復活した、高効率な油冷エンジン

 ところが2020年、スズキの油冷エンジンが復活! 新開発の油冷エンジンを搭載したカウリング装備のロードスポーツ車「ジクサーSF250」と、ネイキッドの「ジクサー250」が発売されました。

「SOCS(スズキ・オイル・クーリング・システム)」を採用する新型油冷エンジン
「SOCS(スズキ・オイル・クーリング・システム)」を採用する新型油冷エンジン

 この油冷エンジンは「SOCS(スズキ・オイル・クーリング・システム)」と呼ばれ、エンジンの燃焼室の周囲に、らせん状の冷却回路(オイルジャケット)を持っています。電動ファン装備のオイルクーラーで冷却したエンジンオイルを、直接オイルジャケットに速い速度で流すことで効率的にエンジンを冷却しています。

 排気量250ccクラスの単気筒エンジンのため、発熱量もそれほど大きくはなく、油冷方式で十分に冷却可能で、軽量・コンパクトに仕上げることも可能。そのため2023年にはジクサーと同系の油冷エンジンを搭載したオフロードモデルの「Vストローム250SX」も登場しました。

 大排気量&高出力や多気筒エンジンで性能を追求すると、冷却効率に優れた水冷方式がマストかもしれませんが、250ccクラスで重量やサイズ、パワーや使い勝手のバランスの良さを考えると、スズキの新型油冷エンジンは、かなり効率の良いエンジンと言えるでしょう。

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Writer: 伊藤康司

二輪専門誌『ライダースクラブ』に在籍した後(~2005年)、フリーランスの二輪ライターとして活動中。メカニズムに長け、旧車から最新テクノロジー、国内外を問わず広い守備範囲でバイクを探求。機械好きが高じてメンテナンスやカスタム、レストアにいそしみ、イベントレース等のメカニックも担当する。

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