レトロ or ローテク? 「ドラムブレーキ」は消えゆく運命なのか? レーサーも装備していたメカニズムとは
現行バイクのブレーキは、ほとんどが油圧式ディスクブレーキですが、小排気量車のリアブレーキは「ドラムブレーキ」の場合もあります。それどころか以前は大排気量車やレーシングマシンもドラムブレーキでしたが、キチンと止まれたのでしょうか?
バイクの「ドラムブレーキ」は機械式
バイクのブレーキは、ホンダが1969年に「ドリームCB750FOUR」の前輪に量産市販バイクで初めて油圧式ディスクブレーキを採用するまで、基本的にすべてが「ドラムブレーキ」でした。その後の中~大型ロードスポーツ車では一気に油圧式ディスクブレーキが広まりますが、そもそもドラムブレーキは、そんなに“低性能”だったのでしょうか?

油圧式ディスクブレーキは機構が露出しているので、外観的にも「ディスクローターをブレーキパッドが挟み込んでブレーキが効く」という仕組みがなんとなく理解できると思います。
対するドラムブレーキは、ホイールのハブの中にメカニズムが収まっていて外からはあまり見えません。そこでドラムブレーキの構造を簡単に解説します。
「ドラム」=「Drum」は、洋楽器の太鼓や「円筒状の機械部品」を意味しますが、ホイールのハブの内側に設けた円筒状のドラムに、摩擦材を貼ったブレーキシューを押し付けることで制動力が発生します。
ブレーキレバーを握ると金属のワイヤーケーブルがブレーキアームを引っ張り、アームと同軸のカムが回ってブレーキシューを開く仕組みです。
ちなみに、バイクのドラムブレーキは基本的に機械式のみですが、クルマ(4輪車)のドラムブレーキは機械式のカムではなく、油圧式のシリンダーでブレーキシューを広げる構造が主流なので、「油圧式ドラムブレーキ」になります。
制動力より、メンテ性の悪さが問題かも?
近年の油圧式ディスクブレーキは、猛烈に高性能なので比較の対象になりませんが、じつは1960~70年代当初はドラムブレーキと制動力にそれほど大きな差はなく、当時はドラムブレーキの方が軽量で低コストというメリットがありました。
しかしホイールのハブの中に収められるため熱がこもりやすく、レースのようなハードなブレーキだと「熱ダレ」を起こして制動力が徐々に低下することがありました。
また、土砂降りの雨だとハブ(ドラム)内に水が入って一気に制動力が落ちました。
さらに、摩耗したブレーキシューを交換するにはホイールをフロントフォークやスイングアームから取り外す必要があり、ブレーキシューの交換後はドラムとの「アタリ」をしっかり調整しないとブレーキの効きが悪かったり、突然強く効く「カックンブレーキ」になってしまうことも多く、油圧式ディスクブレーキと比べるとメンテナンスの難易度が高いとも言えます。
そして油圧式ディスクブレーキの方は、ブレーキキャリパーの構造やブレーキパッド、ディスクローターの材質などもドンドン進化し、制動力もコントロール性も、ドラムブレーキを大きく上回るようになったのです。
制動力の高い「ツーリーディング」
前述したように、1960年代はレーシングマシンや当時の大排気量スポーツ車もドラムブレーキでしたが、前輪には強力な「機械式ツーリーディング」のドラムブレーキを装備していました。

ツーリーディング式はカムと支点が2つあり、それぞれのブレーキシューがホイールの回転方向(図ではホイールが左回転する場合)に対して、ドラムに噛み込むような力(自己倍力作用)が働くため、強い制動力を発揮します。ただしホイールが逆回転(車両がバックする時の回転方向。図ではホイールが右回転する場合)すると効きが弱くなります。
ちなみにリーディング・トレーリング式はホイールの回転方向に対して片方のブレーキシューしか自己倍力作用が働かないため、ツーリーディング式よりも全体的な制動力は劣りますが、急な上り坂などで停車した際には後ろ回転方向でもブレーキが効くため、リアブレーキに用いられ、構造がシンプルで軽量なので小型車やオフロード車のフロントブレーキにも採用されています。
レーシングマシンは「ダブルパネル」
現行バイクの油圧式ディスクのフロントブレーキは、小~中型車や軽量なオフロード車はシングルディスクですが、スピードが出るハイパワーのバイクはダブルディスクを装備しています。
じつはドラムブレーキでも、かつてのレーシングマシンは制動力の高い「ダブルパネル式ツーリーディング」を装備していました。

市販バイクのドラムブレーキは、片面のブレーキパネルにブレーキシューなどを備え、反対側は特に何もついていないのが一般的でした(油圧式ディスクブレーキならシングルディスクに相当)。
対するダブルパネル式ツーリーディングは、その名の通りホイールのハブの両面にブレーキパネルを設け、それぞれにツーリーディングのブレーキシューを装備しました(油圧式ディスクブレーキならダブルディスクに相当)。
数は少ないですが、国産市販車でもスズキ「GT750」(1971年)や、後の1997年には「テンプター」がダブルパネル式ツーリーディングを装備しています。
ドラムブレーキが消える日は、近いかも……
レースやサーキット走行のような走りでは油圧式ディスクブレーキの性能は圧倒的ですが、一般道を走る上ではドラムブレーキの制動力でも問題なく止まれます。
そのため、中~大型のロードスポーツ車でも2000年代の初頭頃までは、フロントはディスクブレーキで、リアはドラムブレーキを装備する車両も少なくありませんでした。

しかし制動力とは別の部分で、ドラムブレーキが姿を消していく状況が訪れました。道路運送車両の保安基準が改正され、2018年10月以降に新規発売する排気量125cc以上のバイクにABS(アンチロックブレーキシステム)の装備が義務付けられたからです。
ABSは、構造的に油圧式のブレーキでないと装備するのが困難です。この時点で、バイクの機械式ドラムブレーキの未来は断たれたと言えるかもしれません。
ちなみに、125ccクラスの原付2種はABSまたはCBS(前後連動ブレーキ)の装備が義務付けられるため、フロントの油圧式ディスクのみにABS機構を装備するモデルも少なくありません。
また、50ccクラスの原付1種は適用外なので、現時点では前後ともに機械式のドラムブレーキが主流です……が、こちらは2025年11月より施行される新排出ガス規制に伴い「新基準原付」へ移行する動きがあり、現行50ccモデルは順次生産を終了します。
すると必然的にフロントの機械式ドラムブレーキは消滅し、残すは原付2種のリアブレーキのみになります。
こうなると、ドラムブレーキが完全に「過去のメカニズム」になる日は近いかも……と言えそうです。
Writer: 伊藤康司
二輪専門誌『ライダースクラブ』に在籍した後(~2005年)、フリーランスの二輪ライターとして活動中。メカニズムに長け、旧車から最新テクノロジー、国内外を問わず広い守備範囲でバイクを探求。機械好きが高じてメンテナンスやカスタム、レストアにいそしみ、イベントレース等のメカニックも担当する。









