なぜバイクのレーシングマシンのクラッチは「剥き出し」なの? 市販車と違う?

MotoGPマシンやスーパーバイクレースに参戦するレーシングマシンの中には、クラッチが剥き出しでグルグル回っているのが見えるバイクがありますが、市販のスポーツバイクとナニが違うのでしょう?

レーシングマシンは「乾式クラッチ」を装備

 バイクのクラッチは、エンジンのクランクシャフトと、トランスミッション(変速機)の間で回転力を繋げたり切ったりするのが役目です。そのクラッチが、市販のスポーツバイクはカバーで隠れているのに、MotoGPマシンなどは剥き出しになっています。

MotoGPマシンの剥き出しのクラッチ。画像はホンダ「RC213V」(2022年シーズン)のクラッチ
MotoGPマシンの剥き出しのクラッチ。画像はホンダ「RC213V」(2022年シーズン)のクラッチ

 現在の市販バイクの多くは「湿式多板クラッチ」を装備しています。これは金属製の「クラッチプレート」と、摩擦材を貼った「フリククションプレート」を互い違いに複数枚(多板)重ね、スプリングの力で押し付けることでクラッチが繋がり、クラッチレーバーを握るとスプリングで押し付けた力を緩めてクラッチが切れる構造です。

 そのクラッチのユニットがエンジンオイル(昔の2ストロークエンジンの場合はギアオイル)に浸っているため「湿式」と呼ばれ、当然ですがオイルが飛び散らないようにカバーの中に入っています。

 そしてMotoGPマシンなどが装備するクラッチは、基本的な構造は市販バイクと大きく変わりませんが、クラッチユニットはオイルに浸っておらず、剥き出しで乾いているため「乾式クラッチ(乾式多板クラッチ)」と呼ばれています。

湿式と乾式で、ナニが違う?

 それではなぜ市販車は「湿式クラッチ」で、レーシングマシンは「乾式クラッチ」を装備するのでしょうか?

 まず湿式クラッチを浸しているオイルは、潤滑のためではなく(潤滑したら滑ってクラッチが繋がらない!)、オイルでクラッチを冷却しています。

 またクラッチプレートとフリクションプレートの摩擦で発生する鉄粉などを吸着し、オイルフィルターまで運んで清浄する役目もあります。そのため湿式クラッチは耐久性が高いのもメリットです。ただしオイルを介しているため、わずかながらパワーロスがあります。

 対する乾式クラッチは空気で冷却しており、オイルより冷却性に優れています。また、オイルを挟まないため湿式クラッチよりパワーロスが少ないのもメリットで、これはレーシングマシンでは非常に大切な要素です。

 他にも、剥き出しなのでメンテナンス性に優れる、湿式クラッチよりもエンジンオイルの量が少なくて済むなど、わずかな差ですが軽量化にも貢献します。

ヤマハのMotoGPマシン「YZR-M1」は乾式クラッチを装備
ヤマハのMotoGPマシン「YZR-M1」は乾式クラッチを装備

 そして乾式クラッチのデメリットは、湿式クラッチよりも耐久性が低く、剥き出しなので音がうるさいところですが、これはレーシングマシンなら問題になりません。

 操作性に関しては、湿式クラッチはオイルを介するためクラッチの断続が曖昧になりますが、それゆえに半クラッチ操作が簡単になるとも言えます。

 反対に乾式クラッチは、半クラッチ操作がシビアで難しいですが、クラッチの断続が明確なのでスキルの高いプロライダーにはメリットとも言えます。

 とはいえ、市販バイクにおいては湿式クラッチのパワーロスはほとんど無視できるレベルなので、それぞれのメリット・デメリットを考えると、市販車の多くが湿式クラッチを採用するのは当然かもしれません。

乾式クラッチを装備する市販バイクもある!?

 現行バイクでは数少ない存在ですが、ドゥカティの「パニガーレV4 R」は乾式クラッチを装備しています。これはスーパーバイクレースのベースマシンとして高い戦闘力を狙ったためでしょう。

 とはいえドゥカティは1980年代後半頃から2000年代前半頃までは、すべての市販モデルが乾式クラッチを採用していました。それほどスポーツ性能に拘っていたメーカーというわけです。

 日本メーカーでも、スズキが1986年に乾式クラッチ装備の限定車「GSX-R750R」を発売しました。またホンダは250ccレーサーレプリカの「NSR250R」に、1989年モデルから乾式クラッチ装備の「SP」を追加しました。

乾式クラッチを装備したスズキ「GSX-R750R」(1986年)
乾式クラッチを装備したスズキ「GSX-R750R」(1986年)

 レプリカブームの当時は、レーシングマシンと同じ装備は大きなセールスポイントでした。

 乾式クラッチは構造的に、信号や一時停止などでギアを1速に入れた状態でクラッチを切ると、クラッチプレートとフリクションプレートが擦れ合って「シャラシャラ……」と独特な音を発します。このシャラシャラ音も、かつては大きな魅力のひとつでしたが、裏を返せば騒音の発生源でもありました。

 耐久性の低さや半クラッチ操作の難易度もさることながら、市販バイクが乾式クラッチを装備しなくなったのは、厳しさを増した騒音規制への対策です。

 レーシングライクなルックスやサウンドを楽しめないのは、少々寂しい気がしなくもありません……。

【画像】もはや知る人も少なく……「乾式クラッチ」の今と昔(12枚)

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Writer: 伊藤康司

二輪専門誌『ライダースクラブ』に在籍した後(~2005年)、フリーランスの二輪ライターとして活動中。メカニズムに長け、旧車から最新テクノロジー、国内外を問わず広い守備範囲でバイクを探求。機械好きが高じてメンテナンスやカスタム、レストアにいそしみ、イベントレース等のメカニックも担当する。

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