クラッチ操作がいらないMT車 ホンダのバイクが装備する「DCT」と「Eクラッチ」の違いとは?
最近はクラッチレバーの操作ナシでライディングを楽しめる技術が目白押しです。なかでもホンダは「DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)」と「E-Clutch(イー・クラッチ)」の2種類の機構を用意しています。何が違うのでしょうか?
どちらもクラッチ操作不要だが……
ホンダは1958年発売の「スーパーカブC100」の自動遠心クラッチを皮切りに、クラッチ操作が不要なマニュアルトランスミッション(MT)や、変速操作もいらないオートマチック(AT)の技術を多数開発してきました。そして近年はスポーツバイクにおいて、「DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)」に加えて「E-Clutch(イー・クラッチ)」が登場しました。いったい何が違うのでしょうか?

フルオートマチックもMTモードも楽しめる「DCT」
DCTが登場したのは、2010年の新開発V型4気筒エンジンを搭載するスポーツツアラー「VFR1200F(MT仕様)」が3月に発売され、次いで6月末にDCT仕様車が発売されました。
DCTの変速機の基本的な構造は、既存の常時噛合式(じょうじこうごうしき)のマニュアルトランスミッションをベースとしていますが、大きな違いはその名称の通り、クラッチを2つ装備しているところです。
一方のクラッチが1、3、5速の奇数段、もう一方のクラッチが2、4、6速の偶数段のギアを受け持っています。そして2つのクラッチはECU(エンジンコントロールユニット)の信号により、油圧で作動します。
たとえば1速から2速にシフトアップする時は、1速を受け持つクラッチが徐々に切れ、同時に2速を受け持つクラッチが徐々に繋がることで、駆動力が途切れずにショックのない変速を行います。
またギアの選択はスピードやライダーのスロットル操作などからECUが最適なギアを判断して、電動モーターがシフトドラムを回し、シフトフォークがギアを切り替えます。ちなみにシフトドラムやシフトフォークの仕組みも、基本的に既存の常時噛合式マニュアルトランスミッションと同じです。

そのためDCT仕様車にはクラッチレバーやシフトペダルが存在せず、オートマチック=「ATモード」で走行することが可能です。また走行モードを「MTモード」に切り替えると、左ハンドルに備えられたシフトダウンスイッチとシフトアップスイッチを使って、ライダーが任意のギアを選んで走ることができます。
このDCT機構はさらに進化して、2012年に登場したグローバルモデルの「NC700」シリーズ(現在の「NC750X」や「X-ADV」のベース)に採用され、2016年にはダート走行を想定したDCTを「CRF1000Lアフリカツイン」に装備。そして2018年にはフラッグシップの「ゴールドウイング」で、手元スイッチでバックもできるDCTが登場します。
そして2020年には「CRF1100Lアフリカツイン」に、6軸IMU(慣性センサー)の情報を用いて、よりライダーの感性に近づけたDCTを装備。また2025年3月発売の「レブル1100」シリーズでDCTの制御をアップデートし、いっそう繊細なクラッチの断続や低中速での扱いやすさを実現しています。
クラッチ操作不要で操作技術向上にもオススメの「Eクラッチ」
続いてEクラッチですが、こちらは2023年のEICMA(ミラノショー)で発表され、国内では2024年6月に「CB650R」と「CBR650R」にEクラッチ仕様車が登場しました

じつはEクラッチの変速機は、既存の常時噛合式のマニュアルミッション「そのまま」と言って過言ではありません。そのためクラッチレバーもシフトペダルも存在し、ギアチェンジは従来通りライダーがシフトペダルで操作します。
しかしEクラッチの特徴はその名前の通り、発進からシフトアップ、シフトダウンのギアチェンジ、そして停止するまでのクラッチレバーの操作のすべてを、ライダーの代りに電子制御によるモーター駆動でこなしてくれるところです。
Eクラッチは前後輪のスピードやエンジン回転数、選択されたギア等と、クイックシフターの技術を用いたシフトペダル荷重(ライダーのシフトペダル操作)を検知したECUの情報を元に、MCU(モーターコントロールユニット)によって電動モーターでクラッチを最適なタイミングと極めて絶妙な半クラッチで繋げたり切ったりします。
そしてEクラッチは、ライダーの意思でクラッチレバーを操作できることも大きな特徴です。ここからもわかるように、Eクラッチはマニュアル(MT)の上位互換と言える機構です。
構造的に従来のMT車に比較的簡単に追加装備できるため、ホンダはEクラッチ仕様車の拡充を目指しており、2025年3月には大人気の「レブル250」にEクラッチ仕様車が加わりました。そして今後は、Eクラッチ仕様車のラインナップがいっそう増えると思われます。
コンセプトもプライスも異なる
前述したように、DCTもEクラッチも変速機は従来からの常時噛合式のマニュアルミッションがベースとなりますが、DCTはフルオートマチック、Eクラッチはあくまでクラッチレスです。

そのため、運転免許はDCTならAT限定(大型)で運転できますが、Eクラッチ車はMT免許が必要です。
ちなみに、Eクラッチ車もクラッチ操作ナシで運転できますが、現在の国内法規だと「クラッチレバーを装備しているバイクはAT限定免許では運転不可」となっています。
またDCTは機構が複雑なため、MT仕様車から11万円アップとなり、EクラッチはMT仕様の5万5000円アップと価格差は半分です。
このように、DCTとEクラッチではコンセプトもプライスも異なるので単純比較できません。しかし、バイクを操る楽しさを満喫しながらライダーの負担を減らすこれらの機構は、ホンダならでは技術と理念と言えるのではないでしょうか。
Writer: 伊藤康司
二輪専門誌『ライダースクラブ』に在籍した後(~2005年)、フリーランスの二輪ライターとして活動中。メカニズムに長け、旧車から最新テクノロジー、国内外を問わず広い守備範囲でバイクを探求。機械好きが高じてメンテナンスやカスタム、レストアにいそしみ、イベントレース等のメカニックも担当する。



















