キックスタートはムズカシイ? ヤマハ「SR400」に代表される走り出す前に必要な「儀式」のカラクリとは

いわゆるバイクの「旧車」では、エンジンの始動がキックスタートのみという車両も少なくありません。マニアックな感じでカッコいいし、興味があるから乗ってみたいけれど、実際のところ難しくないのでしょうか?

いまや希少な「キックスタート」

 現行の市販バイク(公道仕様)は、すべてボタンを押すだけでエンジンを始動できるセルフスターターを装備しています。しかし旧いバイクや、いまだ人気の高いヤマハ「SR400」(生産終了)のようなクラシカルなバイクには、キックスターターしか装備していない車両があります。

すでに生産終了しているヤマハ「SR400」は、キックスターターでエンジンを始動
すでに生産終了しているヤマハ「SR400」は、キックスターターでエンジンを始動

 そこで気になるのが、キックスタートでエンジンを始動するのは「簡単なのか、難しいのか」ではないでしょうか?

 実際問題としてエンジンがかけにくい(もしくはかからない)と走り出せないし、もし信号待ちなどでエンストしたらけっこう困ります。

 というワケで、キックスタートの仕組みや、車両のタイプごとにキックスタートのエンジン始動の難易度を考えてみましょう。

エンジンの種類で、難易度が変わる?

 4ストロークエンジンは「吸気→圧縮→爆発(燃焼)→排気」の4工程を繰り返すことで回転し、クランクシャフト2回転で1回爆発(燃焼)します。

 対する2ストロークエンジンは、「吸気&圧縮→爆発&排気」をクランクシャフト1回転毎に行います。いずれにしてもエンジンを始動するには、クランクシャフトを「何らかの力(セルフスタート式なら電動モーター、キックスタート式ならライダーの脚力)」で回すことで、上記の状態に持っていくワケです。

 その際に、1シリンダー当たりの排気量が少ないほうが、キックアームを踏む力が少なくて済みます。そのため、たとえば単気筒の400ccクラスよりも、4気筒の1000ccクラスの方が、1気筒当たり250cc程度なのでキックは軽くなります。

 そしてエンジンの圧縮比が低い方が、やはりキックを踏む力が軽くなります。ちなみに2ストロークはエンジンの構造的に4ストロークより圧縮比が低いので、同排気量で同気筒数なら2ストロークの方が軽いです。

 また、キックスターターは1回キックを踏み下ろした際に、クランクシャフトは2~3回転くらいしか回りません。その意味ではクランク1回転で1回爆発する2ストロークや、4ストロークの場合は気筒数が多いほうが点火(爆発)するチャンスが多いので始動しやすい、と言えます。

4スト旧車でも、多気筒なら比較的容易

 構造がシンプルでキックが軽い2ストローク車は、昔からキックスターターのみが主流でしたが、4ストローク車は1960年代頃から徐々にセルフスタートとキックスタート併用のモデルが増え始め、とくに1970年代頃の4ストロークの中~大型車では、セルフ/キック併用がメジャーになりました。当時はまだバッテリーやセルモーターの信頼度が低かったため、完全にセルフスタート式のみには移行しませんでした。

 それらの4ストローク車のキックスタートは、セルボタンを押して「キュルキュル、ブワ~ン」と快調に始動できるような状態なら、バッテリーが少し弱っていても数回のキックでエンジンがかかりました(エンジンが完全に冷え切っているときは始動性が落ちる)。この辺りのバイクは大抵が2~4気筒なので、キックは比較的容易です。

 反対にセルフスタートでも「キュルキュル、キュルキュル……」と、なかなかエンジンがかからないような状態だと、バッテリーが元気でもキックで始動するのは難しいでしょう。これは整備状態の不良といえますが……。

2ストレプリカも、じつは簡単

 1980年代中盤~1990年代に人気を博した2ストロークエンジンのレーサーレプリカは、軽量化を狙ったためキックスターターのみの車両が主流です。中心となった250クラスは大抵が2気筒で、キックも軽いのでエンジン始動は比較的容易です。

 ただしエアフィルターの汚れや点火プラグの劣化、エンジンの圧縮が落ちているなど、整備上に問題があると始動しにくく、何度もキックを繰り返しているうちに点火プラグがカブる(ガソリンで湿って火花が飛ばなくなる)ことも少なくありません。

 ちなみにこの傾向は、同時期に多かった2ストローク単気筒エンジンのオフロード車も同様です。

コツがいる「SR400」は、FI化で始動性が飛躍的に向上!

 1970~1980年代は、ホンダの「XL」シリーズやヤマハの「XT」シリーズなど、4ストローク単気筒のオフロードモデルも人気でした。これらは総じてキックスタートのみです。中でも400~500ccクラスは1気筒当たりの排気量も大きいため、エンジン始動の難易度は比較的高く、いわゆるコツが必要でした。

ヤマハ「SR400」は2010年モデルで電子制御式燃料噴射装置(FI)を装備し、キックスタートの始動性が容易になった
ヤマハ「SR400」は2010年モデルで電子制御式燃料噴射装置(FI)を装備し、キックスタートの始動性が容易になった

 そしてヤマハは1978年に、オフロードモデルの「XT500」をベースに「SR400/500」を発売し、2021年まで続く人気のロングセラーモデルになりました。

 とはいえライダーの中には、乗りたいけれどキックスタートなので購入を躊躇した、ということも少なからずあったのではないでしょうか。じつは年式などによってキックスタートの難易度が結構変わります。

 まず1978年~1987年までは、強制開閉式のVM型キャブレターを装備しており、キック始動の難易度は相応に高いと言えます。またキャブレターに加速ポンプを装備する「SR500」は、とくにエンジンがヒートしている状態(走行直後など)だと、キック始動の難しさに拍車がかかりました。とはいえこの年式は立派な「旧車」であることをお忘れなく。

 1988年からは負圧式のキャブレターに変更され(2000年までBST、2001年からBSR)、以前のモデルより始動が容易になったと言えます……が、まだコツは必要でした。

 そして2010年、ついに「SR400」に電子制御式燃料噴射装置(FI)が採用され、始動性は飛躍的に向上しました。併せてキックスタート機構も見直され、キックを踏む力もかなり軽くなりました。そのためメーカーが推奨する正しい手順(ハンドブックに記載アリ)でキックすれば、かなり容易にエンジン始動できるようになりました。

 もちろんボタンひとつで始動できるセルフスタート式よりは手間がかかりますが、キック始動だから……と臆する必要はなくなったのではないでしょうか。

 とはいえこれらキック始動の難易度は、やはり整備状態で大きく左右されます。2021年に生産終了した個体を手に入れるには中古車になりますが、とくに2009年より以前のキャブレター時代は生産から時間が経過しているだけでなく、カスタムされている車両がほとんどです。

 なかにはキャブレターやマフラーを交換していたり、エンジン内部にも手が入ったヘビーなカスタム車両も少なくありません。

 そんな車両でキャブレターのセッティングが合っておらず、かつ整備状態が悪かったりすると本当にキックスタートでエンジンをかけるのが大変……と言うか、何十回もキックしたら偶然かかる……といったケースも少なくありません。

マニアック(?)なヤマハ「SRX」はオートデコンプを装備!

 少し話が前後しますが、ヤマハは1985年にモダンなデザインのシングルスポーツモデル「SRX400/600」を発売し、現在もマニアックなライダーに人気があります。

 このバイクはキック始動を容易にするため「オートデコンプ機構」を備えていました。「SR400/500」はハンドルに備わるデコンプレバーを手動で操作したり、キックインジケーターを覗いてキックアームを踏み始める位置を合わせたりする必要がありましたが、「SRX」はその手間が省かれました。

 ……ところが、新車時はともかく年数を経た個体の中にはキックが重くて始動な困難な車両も少なくありませんでした。その原因のひとつが、オートデコンプ機構を作動させるデコンプケーブルの調整不良(経年劣化等でケーブルの張り具合や遊びが不適切、もしくは潤滑切れによる動作不良)で、適切な調整や新品に交換すると改善できました。

 ……と、何度も繰り返しになって恐縮ですが、キックスタートの難易度は排気量や気筒数、4ストロークと2ストロークの違いなどもありますが、大きく影響するのは「整備状態」といっても過言ではないでしょう。

 旧車やキックスタートのみのバイクを手に入れる際は、そのチェックをお忘れなく!

【画像】やったことある? キックスタートでエンジン始動するバイクを見る(14枚)

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Writer: 伊藤康司

二輪専門誌『ライダースクラブ』に在籍した後(~2005年)、フリーランスの二輪ライターとして活動中。メカニズムに長け、旧車から最新テクノロジー、国内外を問わず広い守備範囲でバイクを探求。機械好きが高じてメンテナンスやカスタム、レストアにいそしみ、イベントレース等のメカニックも担当する。

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