バイクはナゼ「転ぶ」!? 愛車と身体と心に深い傷が……「立ちごけ」や「スリップダウン」 その仕組みとは

バイクはタイヤが2個しかないから、スタンドを払ったら自立できずに転ぶ……のは確かだけれど、じつは意外と転びにくい乗りものでもあります。「転ぶ仕組み」を知ることで、少しは不安が解消されるかもしれません。

バイクの転倒は、2種類に大別できる!?

 相手がいる事故や、曲がり切れないようなスピードで走る無謀運転をしなくても、バイクは転倒することがあります。痛い思いをしたり、愛車が壊れるのはイヤなので、だれもが転ばないように気を付けて乗っています。しかし、それでも転ぶことはあります。

絶対に転倒したくないけれど、つねに転ぶ可能性があるのもバイクという乗りものなので、ナゼ転ぶのかを知ることが大切
絶対に転倒したくないけれど、つねに転ぶ可能性があるのもバイクという乗りものなので、ナゼ転ぶのかを知ることが大切

 バイクの転倒は、大別すると「立ちゴケ」か「スリップダウン」の2種類です。

 まず「立ちゴケ」ですが、こちらは基本的に停車中、もしくは止まる寸前や動き出しといった、バイクがほとんど動いていないときに起こります。

 バイクはタイヤが2個しかないので、スタンドを払ったら自立できません。そのためライダーが片足、もしくは両足を着くことで、3点または4点で接地して立っており、何らかの理由で足が地面に届かなかったり滑ったりして支えを失うことで(タイヤ2個のみ接地した状態)立ちゴケが起こります。

 これはライダーなら誰もが理解(経験?)しているので「そんなの当然だろ!」と怒られそうですが、走行中は、やはりタイヤ2個しか接地していないのに転びません。それはナゼでしょう?

「ライダーがバランスをとっているから」と思うかもしれませんが、極低速の小回りやUターン時はともかく、普通に走っている時はことさらバランスを取ろうと気にしてはいないハズです。

 それでもバイクが転ばないのは、バイク自身が「転ばずに走る機能」を持っているからです。

タイヤが滑っても、スグには転ばない!?

 続いて走行中の転倒「スリップダウン」はどうでしょうか。スリップダウンとは文字通り、タイヤが滑って(スリップ)倒れる(ダウン)ことです。これも濡れた路面やマンホールの上などを通過するときに、タイヤがズルっと滑って「転ぶかも!!」と焦った経験があるライダーが多いのではないでしょうか。

タイヤが滑ってもバイクは転ばない。転ぶのはタイヤが地面から浮いてしまった時
タイヤが滑ってもバイクは転ばない。転ぶのはタイヤが地面から浮いてしまった時

 ですが……じつは「タイヤが滑ってもすぐには転ばない」のです。前述のように、タイヤが滑って焦った経験は多くのライダーにあると思いますが、実際にそのまま転倒した、という人は意外と少ないかもしれません。

「タイヤが滑る」という状態ですが、どんなハイグリップタイヤでも、走行中に路面と100%グリップしているワケではなく、例えば直線で直立した状態でも、常に少しずつ滑っています。

 そして車体を傾けたコーナリング中も一定量で滑っていますが(滑る量は速度やバンク角、路面の摩擦係数など様々な条件で変わる)、何らかのバランスが変わって滑る量が大きくなったときに、ライダーは「ズルっと滑った」と感じます。

 しかしズルっと滑っても、タイヤが地面に接地している状態なら、コーナリンの軌跡は大きくなりますが、まだ転びません。ただし、滑っているうちに車体のバンク角が大幅に増したりしてタイヤが路面から浮いてしまうと、今度は本当に転倒してしまいます。「だからナニ?」と思われるかもしれませんが、じつはこの違いが重要です。

 よくライテク(ライディングテクニック)の記事などで「ハンドルを押さえない」とか「身体の力を抜く」という記述があります。これはバイクが本来持っている「曲がる力」や「転ばずに走る機能」をライダーが邪魔しないための注意点です。

 たとえば意図的にハンドルを押さえていなくても、緊張で身体がガチガチに硬くなっていると、結果としてハンドルを押さえている状態になり、バイクが曲がる機能を妨げてしまいます。

 またサスペンションの動きも阻害するので、やはり結果としてタイヤの路面追従性が低下するため、スリップからタイヤが浮く危険性も増加します。

 もちろん「タイヤが滑っても緊張するな!」というのはあまりに根性論になってしまいますが「滑ってもすぐには転ばない」ことを知っているだけでも、不安と緊張を(少しは)ほぐす材料になるのではないでしょうか。

前輪から転ぶ? 後輪から転ぶ?

 少々専門的になりますが、バイクは前輪から転ぶのか、後輪から転ぶのか、どちらでしょう? 車体を深く傾け過ぎたり、カーブの立ち上がりでアクセルを開け過ぎてエンジンを高回転まで回してしまった時などは後輪が滑って転ぶような気がします。

バイクは「キャスター」と「トレール」によって、走行中の車体の傾き(=後輪の傾き)に追従して、前輪に自然に舵角が付く(セルフステアする)
バイクは「キャスター」と「トレール」によって、走行中の車体の傾き(=後輪の傾き)に追従して、前輪に自然に舵角が付く(セルフステアする)

 とはいえ路面の砂やオイルなどで前輪が滑って転ぶこともあります。……が、じつは前輪が滑っても、後輪が地面から浮いてしまうほど車体の姿勢が乱れなければ、転ばずに持ち直せるパターンも少なくありません。

 その理由は、バイクの前輪はステア中心軸を中心に、自由に首を振れる構造になっており、車体(=後輪)の傾きに追従して自然に舵を切る「セルフステア」の機能があるからです。

 前輪は安定して曲がったり直進するために常に自由に首を振っていて、路面をしっかりグリップするのは基本的に車体が直立したブレーキング時だけです。なので安定性を損なうほど首を振って滑ったりしなければ、車体姿勢が極端に乱れて後輪が浮くこともありません。

 というワケで、前輪の挙動が転倒のキッカケを作ることはありますが、実際に転倒するのは後輪からで、前輪から転ぶことはかなり少ないと言えます。

「できるだけ」転ばないための対策は?

 それでは、転倒しないためにはどうすれば良いのでしょうか? まず「立ちゴケ」に関しては、足の着き方の工夫(停止前にシートの前方に座り直す、足を着く側に腰をズラすなど)や、シートのローダウン、厚底シューズなどで足着き性を高めることが有効です。

タイヤは適正な空気圧でないと、本来のグリップ力を発揮できない
タイヤは適正な空気圧でないと、本来のグリップ力を発揮できない

 そして走行中の「スリップダウン」は、当然かもしれませんが「スリップしやすい状況を避ける」ことです。

 日常的な状況としては「雨天時」ですが、雨が降ったら乗らないというワケにもいかない(通勤やツーリングの帰路など)ので、例えば滑りやすいマンホールや路面のペイントはなるべく避けましょう。

 とは言え、これらは瞬時に通過して滑ってもスグに収まるので、ブレーキをかけたり加減速しなければ大丈夫です。ただし、道路工事等で敷かれた大きな鉄板の上は猛烈に滑る上に通過距離が長いので、とにかく慎重に。

 またツーリングで訪れる峠道は、路肩に堆積した落ち葉や砂の上を走らないように注意が必要です。さすがに積雪時はバイクに乗らないと思いますが、冬場の峠道は晴れていても日陰だと路面凍結している危険があります。これはツーリングに行く前に情報収集して、凍結の可能性があるなら通らないのが正解です。

 そしてタイヤの適正な空気圧やキチンと溝があるかはもちろん、「賞味期限」(製造から3年ほどが目安)などもの管理も、「グリップの良さ=スリップしにくさ」に大きく影響します。

 愛車にライディングモードが備わっている場合は、パワーやトラクションコントロール、ABS等の設定も走りやすさだけでなくスリップダウンを防ぐ手立てになると思います。

 そしてなによりスリップダウンしないためには、スピードやバンク角も含めて、無理な走りをしないことが肝心なのは言うまでもありません。

 路面状況やバイクの管理、そしてライダーの乗り方で、転倒する危険はかなり防げるでしょう。

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Writer: 伊藤康司

二輪専門誌『ライダースクラブ』に在籍した後(~2005年)、フリーランスの二輪ライターとして活動中。メカニズムに長け、旧車から最新テクノロジー、国内外を問わず広い守備範囲でバイクを探求。機械好きが高じてメンテナンスやカスタム、レストアにいそしみ、イベントレース等のメカニックも担当する。

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