内径を広げて排気量アップ!? カスタムでよく耳にするエンジンの「ボアアップ」ってナニ? 簡単にできる?
バイクのカスタムでよく耳にする「ボアアップ」という言葉は、いったい何を意味するのでしょうか。自分の愛車にも簡単にできるのでしょうか……?
「内径」を広げるからボアアップ
バイクのエンジンをパワーアップ(チューニング)するにはいろいろな手法がありますが、昔から「排気量アップに勝るチューニングなし」と言われるくらい、排気量アップは効果が大きいと言えます。
そしてエンジンの排気量を増やすには、2種類(正しくは3種類)の方法があります。
バイクのスペック表にはエンジンの「内径×行程」の欄がありますが、英語だと内径がボア(bore)で行程がストローク(stroke)になります。このどちらか、もしくは両方を大きくすれば、排気量を大きくすることができます。
その際に、ボア(シリンダーの内径=ピストンの直径)を大きくして排気量上げる方法を「ボアアップ」と呼びます。

また、ストローク(ピストンの上下する距離)を伸ばして排気量を上げる手法は「ストロークアップ」になります。
さらにボアとストロークの両方を大きくする方法もあります。
なぜボアアップがメジャーなのか?
カスタムやエンジンチューニングのハナシでは、ストロークアップよりもボアアップの方が頻繁に登場しますが、これには理由があります。
ものすごくザックリ言えば、ボアアップはノーマルより直径が大きいピストンを用意して、そのピストンが入るサイズにシリンダーを削って広げればOKです。
対するストロークアップは、クランクシャフトやコンロッドを交換する必要がありますが、新たにクランクシャフトを作るのには相当に高額な費用が掛かります。もちろんピストンを新造するのも高い技術は必要ですが、コスト的にはクランクシャフトよりは安価に作れます。

そのため、世界にはエンジンチューニング用のピストンを製造するアフターパーツメーカーが数多く存在し、カスタム人気の高い車種用に、ノーマルより直径(ボア径)が大きな様々なピストンが販売されています。
反対に「ストロークの長いアフターパーツのクランクシャフト」はかなり少ないと言えます。これが排気量アップでボアアップの方がメジャーな主たる理由です。
ちなみにカスタムでも人気の高いヤマハ「SR400」は、2000年まで販売していた兄弟車の「SR500」と、内径(ボア)は共通で行程(ストローク)が異なりました。
そのため、「SR400」を排気量アップするには、「SR500」のクランクシャフトに入れ替えるストロークアップの手法がメジャーでしたが、これは少々珍しい例かもしれません。
ボアアップには「ボーリング加工」が必須
それではメジャーと言われるボアアップは、簡単に行えるのでしょうか? これはチューニングするバイクの種類によって変わってきます。
直径(ボア径)の大きなピストンを入れるには、それに合わせてシリンダーの内径を広げる必要がありますが、一般のライダーが入手できる工具ではそんな加工は絶対にできません。
しかし、かつて(20世紀?)はエンジン修理のために「内燃機屋さん」や「ボーリング屋さん」と呼ばれる工場が、大きな町には一軒くらいあり、そこに依頼すればシリンダーの内径を広げてもらうことができました。
けっこう専門的で個人で依頼するのは少々難易度が高いのですが、チューニングを行うバイクショップも内燃機屋さんに加工を依頼するのが一般的でした。
このシリンダーの拡大加工をクリアできれば、分解や組み立てのスキルがあれば、自分でもボアアップすることは可能です。

ちなみにエンジンチューニングで人気のある、ホンダの「スーパーカブ」や「モンキー」など(主にかつての50ccモデル)の、ホンダの横型エンジンには大径ピストンと加工済みのシリンダーがセットになった「ボアアップキット」も販売されているので、それらを使えばボアアップは簡単(分解組み立てのスキルがある人にとっては)と言えるかもしれません。
メッキシリンダーはボアアップ不可……ではないけれど難易度アップ!
ところが2000年前後から、シリンダーの内径の拡大(ボーリングと呼ぶ)が難しくなってきました。それは画期的な「メッキシリンダー」が登場したからです。
バイクのエンジンのシリンダーは、1960年代頃からは軽量で放熱性に優れるアルミ製が主流になりました。しかしアルミは柔らかい素材なので、ピストン(ピストンもアルミだが、シリンダーと接触しているのは硬い鉄製のピストンリング)の上下動によってすぐに擦り減ってしまいます。
そのため、シリンダーにはピストンと接触する部分に鉄製の筒状のスリーブ(ライナーと呼ぶ場合もあり)が嵌められていました。
そしてボアアップするには、その鉄製のスリーブの部分をボーリングして内径を広げるワケです。
なかには大排気量化でかなり大径のピストンを使う際に、スリーブが薄くなりすぎて強度が落ちるため、シリンダーのアルミ部分をボーリングして広げ、外径の大きい(肉厚の有る)スリーブに入れ替える手法を取る場合もありました。

ところが、2ストロークエンジンでは1980年代中頃から、4ストロークエンジンでは1990年代後半頃から、鉄製のスリーブを使わず、アルミ製のシリンダーの内壁に直接特殊なメッキ(ニッケル系の素地にシリコンカーバイド系の粒子をコーティングするなど)処理を施した「メッキシリンダー」が登場しました。これはGPワークスマシンから生まれた技術です。
メッキシリンダーは鉄製スリーブと比べると耐摩耗性や冷却性に優れ、軽量化も可能な上に性能的にも安定するため、スポーツバイクはもちろん、スクーターなどにも徐々に広まり、さほど時間をかけずに主流になりました。
これは良いことずくめですが、従来のようにボアアップのためにボーリング加工を施すと、メッキの層まで削ってしまうためそのままでは使用できません。
それでは削った後に再びメッキをかければ良いのでは? と思いますが、このメッキはかなり特殊なため、施工できる工場がかなり限られます。
そのため、絶対に不可能というワケではありませんが、以前のように比較的容易にボアアップすることができなくなりました。
大径ピストンとメッキ済みのシリンダーをセットにしたボアアップキットも存在しますが、けっこう高額な上に対応車種はあまり多くないと思われます。
また、シリンダー側のメッキ加工の難易度が高くなって需要が減ったからか、鉄スリーブのバイクと比べると、アフターパーツのボアアップ用のピストンもかなり種類が減ったようです。
というワケで、ボアアップが簡単に行えるか否かは、バイクの種類や作業者のスキルで変わるので、一概に何とも言えません。
そもそもですが、カスタムで排気量をアップすると車両の登録区分や運転できる免許区分が変わる場合も多く、その際は改造申請や登録変更する必要もあります(無免許運転になるケースも)。
ボアアップの難易度はもちろん、そちらも十分に注意しましょう。
Writer: 伊藤康司
二輪専門誌『ライダースクラブ』に在籍した後(~2005年)、フリーランスの二輪ライターとして活動中。メカニズムに長け、旧車から最新テクノロジー、国内外を問わず広い守備範囲でバイクを探求。機械好きが高じてメンテナンスやカスタム、レストアにいそしみ、イベントレース等のメカニックも担当する。










