S&Sサイクル「トランプ」 アメリカの老舗パーツメーカーの礎を築いたマシンに迫る

アメリカの老舗パーツメーカー「S&Sサイクル」は、開発の一環としてレースへ参戦してきました。中でも「TRAMP(トランプ)」と名付けられたレース用バイクは数々の記録を打ち立ててきました。どのようなバイクなのでしょうか。

創設者の技術を注ぎ込んだレース用バイク

 1958年にアメリカで創業された「S&Sサイクル」というパーツメーカーを語る上で、その礎を築いた一台……それがここに紹介する“TRAMP”(トランプ)と名付けられたハーレー・ダビッドソンのナックルヘッドをベースにしたレース用バイクです。

キャブが車体の左サイドに移設されているため、ナックルエンジンの美しさがより際立つ形となったTRAMPサイドビュー。スピードを追求した結果、自然なカタチでシンプルになった姿は今の時代に見てもクールです

 1952年、S&Sの創業者であるジョージ“J”スミスがプライベーターだった時代に、シカゴのHalf Day Speedwayで開催されたドラッグレース(1/4マイル≒402.33mの直線での加速を競うレース)では、当時1000ドルの賞金がかけられたそうですが、ここで勝利すべくジョージは1939年式ハーレー・ナックルヘッドに自らの技術を注ぎ込みます。

 現在に残る資料を紐解くと“TRAMP”は、ノーマル排気量1000ccのナックルヘッド・エンジンを “4-9/32サイズのUL用(ハーレーのサイドバルブモデル)クランクと3-7/16シリンダー”によって排気量1340ccまで拡大し、その上でシリンダーヘッドにそれぞれRiley 製キャブレターをウェルドオン(溶接)で取り付け、吸気をデュアルでセット。

 最終的には燃料をナイトロメタン仕様に変更し、ドラッグレースという短い距離の中で123.45 mph(約197.5km/h)という速度を叩きだし、見事、優勝を果たしたとのことです。

創立50周年を記念した精巧なレプリカ

 カラー写真の車両はS&S社が2008年に、その50周年を記念する意味で製作されたレプリカなのですが、ジョージ“J”スミスが手塩にかけたレーサーの姿が見事に再現されています。

S&Sの創業者であるジョージ“J”スミスのファミリーと当時のTRAMPの姿(写真提供:S&S Cycle)

 フレームはハーレーのナックルヘッドと同じくストレートレッグのリジッドフレーム。フロントフォークが取り付けられたネック周りからリアタイヤが取り付けられたアクスル部分までが一直線に結ばれたこの美しいフレームには、往年の“TRAMP”と同じくRiley 製キャブがデュアルでセットされたエンジンが搭載されているのですが、このマシンは従来の“TRAMP”とは異なり標準的なガソリン仕様とのことです。

 また、シリンダーヘッドは2008年当時、S&Sが商標の権利を取得したスウェーデンのパーツメーカー“フラットヘッドパワー”製のナックルスタイルのものを選択。排気量は80cu-in(約1310cc)とのことですが、シリンダーとクランクは現在のS&S製を使用しているものの、オイルポンプは同社製のソレではなくH-Dの純正タイプを装着し、点火はワイコ製マグネトーに換装されています。
 
 そのルックスに目を移せば余計な装飾を持たない典型的なボバーなのですが、これはやはりソリッドに“パフォーマンス”を追求してきたS&Sの理念が、1950年代から変わらないことを示しているからに他なりません。

 低く構えたハンドルバーや極端なバックステップ、タンクサイドに車名が刻まれた以外は飾り気のないペイントワークなどからは、創業者であるジョージ“J”スミスの走りを追求する姿勢が滲み出ている気がします。バイクの根本である“性能”をひたすらに追求してきたからこそ、S&Sというメーカーは創業から62年の時を経てもなお、残り続けていることはまず間違いないでしょう。
 
 ハーレーのカスタムといえば煌びやかな装飾が施されたチョッパーを思い描く人も多いでしょうし、それはそれで魅力的なのですが、その黎明期にはあくまでも“スピードとパフォーマンス”を追求する姿勢があったことを改めて思い起こさせる一台です。

【了】

【画像】S&Sサイクル「トランプ」の画像を見る(8枚)

画像ギャラリー

Writer: 渡辺まこと(チョッパージャーナル編集長)

ハーレーや国産バイクなど、様々な車両をベースにアメリカン・テイストのカスタムを施した「CHOPPER」(チョッパー)をメインに扱う雑誌「CHOPPER Journal」(チョッパージャーナル)編集長。カスタム車に限らず、幅広いバイクに対して深い知識を持つベテラン編集者。

最新記事