電動バイクレース『MotoE』第2戦フランス 一時トップ走行の大久保光選手、接触により転倒リタイア

電動バイクによるチャンピオンシップ『FIMエネルMotoEワールドカップ』の第2戦フランスの決勝レースが2021年5月16日、ル・マン-ブガッティ・サーキットで行なわれました。日本人として唯一MotoEに参戦する大久保光選手は他者との接触により、転倒リタイアでレースを終えています。

MotoEに参戦する唯一の日本人ライダー、大久保光選手は転倒リタイア

 電動バイクの世界選手権『MotoE(モト・イー)』第2戦は、MotoGP第5戦フランスGPに併催されました。舞台はル・マン-ブガッティ・サーキットです。今大会は週末を通して雨が降ったり止んだりを繰り返し、気温も低め。ル・マンらしい天候と言えばそうですが、難しいコンディションとなりました。

決勝レースでは一時トップに立った大久保選手(Avant Ajo MotoE)

 MotoEの予選“Eポール”では雨天のため、2019年にチャンピオンシップが始まって以来、初めてウエット方式で行なわれました。通常、Eポールはライダーが1人ずつコースを走り、1周のみのタイム計測で予選順位を決定します。一方、ウエット方式のEポールの場合は、全18名のライダーが一斉にコースイン。12分間のタイム計測を行い、それぞれのライダーのベストラップによって予選順位を争うわけです。ただし、可能な周回数は最大6周と定められており、もしこれを超過すれば、該当するラップタイムは抹消されます。

 ウエット方式で始まったEポールでしたが、強まる雨脚にスタートしてすぐ赤旗が提示され、セッション中断。約15分後に再開されました。再開されたものの路面コンディションはウエットで、転倒が続出しました。

 こうした難しいコンディション、そして初めてのウエット方式のEポールが影響し、多くのライダーのラップタイムが抹消されることになります。大久保光選手もその1人で、当初は3番手としてパルクフェルメ(※予選、決勝レース後にトップ3がマシンを止めるエリア)に呼ばれ、インタビューを受けました。しかし、3番手のラップタイムがイエローフラッグ区間での走行にあたるとして、その後、このタイムが抹消。大久保選手は10番グリッドとなりました。

 このイエローフラッグ区間での走行について、少し補足しましょう。MotoGPと同様で、転倒などによりイエローフラッグが振られている区間を通過した場合は減速しなければならず、さらに該当するラップタイムは抹消されます。当初、大久保選手の3番手とされたタイムがこれにあたった、というわけです。

 また、イエローフラッグだけではなく、6周を超えてタイム計測を行なったライダーがタイムを抹消されるなど、予選後にはその順位が変動することになります。パルクフェルメに呼ばれた3人がすべてポジションダウンとなり、予選後の会見にはまったく違う顔ぶれが並ぶという状況となりました。

MotoEはワンメイクマシン、エネルジカ『Ego Corsa(エゴ・コルサ)』で争われる

 さて、予選から荒れたMotoE第2戦は決勝レースでも波乱の展開となりました。直前に行なわれたMotoGPの決勝レースでは、レース中に雨が降り、さらに終盤には雨が上がってドラマを呼びました。MotoEの決勝レースでは、天候が崩れることなくドライコンディションで7周の決勝レースが始まりました。

 ここで、大久保選手が絶好のスタートを切ります。10番グリッドから3コーナーに入るまでには4番手から5番手付近にまでポジションアップ。さらに大久保選手は8コーナーで3番手に浮上。前を走るのはドミニケ・エガーター選手、アレッサンドロ・ザッコーネ選手です。大久保選手は2周目にこの2人を交わしてトップに立ちます。エガーター選手、ザッコーネ選手ともに、MotoE参戦2年目のライダー。大久保選手は電動バイクレースMotoE参戦2戦目にして、こうしたライダーを抑えてレースをリードしていました。

 3周目、3コーナーでザッコーネ選手とエガーター選手が大久保選手のインに入って前に出ます。少しアウト側にポジションをとった大久保選手。そのとき、イン側にいたフェルミン・アルデグエル選手が止まり切れずワイドになり、アウトからインに向かっていた大久保選手と接触。大久保選手は押し出されるように転倒し、ここでリタイアとなりました。

大久保選手は日本人として唯一、MotoEに参戦するライダー

 4周目、ザッコーネ選手がトップに立ちます。こうした中、エリック・グラナド選手が後方から迫っていました。グラナド選手はポールポジションからスタートし、序盤に7番手付近にまでポジションダウン。しかし、この短い周回数の中で猛烈な勢いでトップに迫ります。

 グラナド選手は5周目にはファステストラップを叩き出すと、最終ラップを2番手で迎えます。トップは依然としてザッコーネ選手。最終ラップは、ザッコーネ選手とグラナド選手による激しいトップ争いが展開されました。

 ブレーキング音を響かせながらオーバーテイクを繰り返す2人、勝負を決したのは右コーナーが連続する13コーナーと最終コーナーでした。最終コーナーのにとつ手前、13コーナーでグラナド選手がザッコーネ選手のインに飛び込みます。クロスラインでザッコーネ選手がグラナド選手をパスしますが、ラインはややワイド。グラナド選手はそのインに飛び込み、最終コーナーを立ち上がりました。

 グラナド選手はそのままトップでチェッカーを受け、2021年シーズン初優勝を飾りました。次いでチェッカーを受けたのは、最後まで優勝争いを繰り広げたザッコーネ選手。そしてマッティア・カサデイ選手が3番手でフィニッシュしました。しかし、ザッコーネ選手は最終コーナーでのトラックリミット超過(※コースからフロントまたはリアタイヤが出ること)により、1ポジション降格のペナルティを受け、最終的にはザッコーネ選手が3位、カサデイ選手が2位という結果となっています。

最終コーナーでトップに立ち、優勝を手にしたグラナド選手

 決勝レース後の会見の中でグラナド選手は「ヘレスでのひどいレースの後、ひどく自分に腹を立てていた」と語りました。開幕戦スペインでは、優勝候補筆頭の速さを持ちながらも、レース中に転倒していたのです。

「今週はレースでミスをしないようにして、とても落ち着いて、冷静にオーバーテイクをしたよ。そして、自分のライディングにとても集中していた」(グラナド選手)

 MotoEの決勝レースは周回数が少なく、あっという間にレースが終わってしまいます。後方から追い上げながらトップ争いの戦略を考えるのはきっと難しいでしょう、と質問すると、グラナド選手はこう答えました。

「難しいよ。バイクは重いし、ラインを外せば転倒をしてしまうかもしれない。そうしたら、大きくタイムを失うことになる。1周目には、リアタイヤのフィーリングがあまりよくなくて、後ろにいたんだ。それで“落ち着いて、冷静にオーバーテイクするんだ”と言い聞かせた。

 じつは、オーバーテイクのときにはそのポイントをわかっていたんだ。最終コーナーでは、2周前くらいと同じようなチャンスがあるのがわかった。それで僕は最終コーナーに向けて準備をして、もし彼(ザッコーネ選手)が挑んできても、オーバーテイクしかえせるようにと思っていたよ」

 一方、グラナド選手と激しいバトルを展開したザッコーネ選手も「最後のふたつのコーナーでは、彼(グラナド選手)が来るのはわかっていた」とレースを振り返ります。

「彼が僕を交わして、最後の右コーナーふたつでオーバーテイクしかえそうと思った。でも、リアタイヤが流れて、トラックリミットを超えてしまったんだ。優勝も2位も、これで失ってしまった。でも、これがレースだ」

 ザッコーネ選手はこの結果により、チャンピオンシップのトップに立っています。

 MotoEの第3戦は、MotoGP第7戦カタルニアGPの併催です。決勝レースは2021年6月6日に行なわれます。MotoEの予選、決勝レースは『motogp.com』の有料ビデオパスを購入することで視聴可能です。無料のレースハイライト動画などもありますので、エキゾーストノートの無い激しいバトルをチェックしてみてはいかがでしょうか。

■MotoEとは……

 MotoEは、2019年にスタートした電動バイクによるチャンピオンシップです。MotoGPのヨーロッパ開催グランプリのうち数戦に併催されており、2021年シーズンは開幕戦スペインを含む6戦7レース(最終戦は2レース開催)が予定されています。すべてのMotoEライダーが走らせるマシンはイタリアの電動バイクメーカー『Energica Motor Company(エネルジカ・モーターカンパニー)』の電動レーサー『Ego Corsa(エゴ・コルサ)』。タイヤはミシュランです。2021年のMotoEには11チーム18名のライダーが参戦しており、16歳の若手ライダーから元MotoGPライダーまで、様々な経歴を持つライダーが参戦。日本人初のMotoEライダーとなる大久保光選手がエントリーしていることでも注目を集めています。

【了】

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Writer: 伊藤英里

モータースポーツジャーナリスト、ライター。主に二輪関連記事やレース記事を雑誌やウエブ媒体に寄稿している。小柄・ビギナーライダーに寄り添った二輪インプレッション記事を手掛けるほか、MotoGP、電動バイクレースMotoE取材に足を運ぶ。

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