オーバー1リッター車に匹敵する上質さ トライアンフ「タイガー900」シリーズの凄さとは?

トライアンフのアドベンチャーモデル「タイガー900ラリープロ」は、仕様違いで複数ラインナップする「タイガー900」シリーズで最もオフロード向けの性能を追求したモデルです。中村友彦さんが解説します。

クラストップの座を目指す気概

 アドベンチャーツアラーのアンダー1000ccクラスで、何としてもトップを獲る! 2020年春に全面新設計の「タイガー900」シリーズが登場したとき、私(筆者:中村友彦)はトライアンフにそんな気概を感じました。

トライアンフ「Tiger 900 Rally Pro」に試乗する筆者(中村友彦)

 その1番の理由は、5機種を同時に発表したことです。ただし、「タイガー900」の販売形態は仕向け地によって異なり、当初の日本市場ではベーシック仕様の導入が見送られたのですが、2021年からはベーシック仕様に相当するモデルとして、機能の簡素化でコストを抑えた「タイガー850スポーツ」が販売されています。

 もっとも、先代の「タイガー800」にも数多くの仕様は存在したのです。とはいえ、2010年の登場時は2機種のみでしたし、ラインアップを拡大した2015年以降は独創的な車名のせいで、各車の差異が把握しづらくなっていました。

 その反省を踏まえたのでしょうか、新世代の「タイガー900」シリーズは、舗装路重視のキャストホイール+フロント19インチ車が「GT」、悪路走破性を意識したスポークホイール+フロント21インチ車が「ラリー」と命名され、それぞれに上級仕様の「プロ」を設定する、わかりやすい構成になっています(850スポーツの基本構成は900GTと共通)。

既存の並列3気筒とは異なる爆発間隔

 幅広くてわかりやすい車種構成に加えて、並列3気筒エンジンに量産車初となる90度位相のTプレーンクランク、不等間隔爆発を導入したことも、「タイガー900」発売時のトライアンフに私が気概を感じた一因です。

シート高850mm(870mmに変更可能)の車体に身長182cmの筆者(中村友彦)がまたがった状態

 そもそもの話をするなら、並列3気筒エンジンは120度位相の等間隔爆発が王道で、同社のトリプルモデルもこれまではその構成を採用していました。

 ではどうして新世代の「タイガー900」シリーズがTプレーンクランクを導入したのかと言うと、ヤマハとMVアグスタが手がける並列3気筒との差別化を図りつつ、独自の魅力で多くのライダーの注目を集めよう、という意図があったのではないか、と個人的には思います。何と言っても近年の並列3気筒ブームの火付け役は、1990年の復活以来、このエンジン形式を主軸に据えて来たトライアンフなのですから。

 前述したように、「GT」と「ラリー」の最も大きな相違点はホイールですが、サスペンションのストローク量を示すホイールトラベルは、ラリーのほうが前後とも60mm長く(フロント240mm/リア230mm)、その結果としてシート高もラリーのほうが40mm高くなっています(850/870mmの可変式)。

 この数値をどう捉えるかは人それぞれですが、一般的な体格と技量の日本人ライダーが馴染みやすいのは、車格が小さく思える「GT」の方でしょう。ちなみに、価格は「GT」の方がやや安いですが(GTプロはシリーズ唯一のセミアクティブサスペンションを採用するにも関わらず、ラリープロより3万円から5万円安い186万円)、その傾向は日本市場だけではなく、全世界共通のようです。

Tプレーンクランクの効能は?

 新世代の「タイガー900」シリーズを初めて体験するにあたって、私が最も楽しみにしていたのはTプレーンクランクです。だから試乗前日は、バランス的には120度クランクよりも振動が出ているのではないか、ヤマハのクロスプレーンクランクと何らかの共通点を感じるのだろうか、などと考えていたのですが、実際のフィーリングは至って普通でした。

トライアンフ「Tiger 900 Rally Pro」排気量888ccの水冷並列3気筒DOHC4バルブエンジンを搭載

 もっとも、あえて言うならオーソドックスな120度と比較すると、トルク変動がやや大きく、エンジンの抑揚が強いような気はしますが、事前の知識なしで試乗していたら、残念ながら私の技量では、クランク位相角の差異には気づけなかったでしょう。

 とはいえ、それでは試乗記として読者の皆様の役に立たない気がするので、後に同業者数名に新世代「タイガー900」の印象を聞いてみたところ、多くのライダーがオフロードにおけるトラクションの濃厚さを高く評価。ただし舗装路のみの短時間の試乗では、美点は把握しづらいかも……とのことでした。

 逆に言うなら、革新的な構造を採用しているにも関わらず、既存の並列3気筒車と同様の感覚で普通に乗れてしまうことが、新世代の「タイガー900」の特筆すべき要素と言えるのもかもしれません。

 さて、そんなわけで今回の試乗はアテが外れた感があったのですが、一方で私はアンダー1000ccとは思えない上質さ、エンジンの扱いやすさや乗り心地のよさ、スポーツライディングとツーリングの両方が存分に楽しめそうなキャラクター、外装類の仕上げなどに、大いに感心しました。

SHOWA製の前後サスペンションはフロント240mm、リア230mmのトラベル量を確保。ノークラッチでシフトチェンジ可能なクイックシフター(アップ&ダウン)標準装備。スポークホイールはチューブレスタイヤに対応

 と言うのも、ライバル勢の場合は、フラッグシップへのステップを促進するためなのでしょうか、オーバー1000cc車に劣る雰囲気を感じることが少なくないのですが、「タイガー900」に接して得られる充実感は、兄貴分の「タイガー1200」を食ってしまうほどだったのです。その事実を認識した私は、もしかしたらトライアンフは「タイガー900」を開発するにあたって、アンダー1000ccなどという概念は抜きにして、ただひたすらにアドベンチャーツアラーの理想を追求したのではないか、と感じました。

※ ※ ※

 今回試乗したトライアンフ「Tiger 900 Rally Pro」の価格(消費税10%込み)は190万5000円です。

【了】

【画像】トライアンフ「タイガー900ラリープロ」の詳細を見る(10枚)

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Writer: 中村友彦

二輪専門誌『バイカーズステーション』(1996年から2003年)に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。年式や国籍、排気量を問わず、ありとあらゆるバイクが興味の対象で、メカいじりやレースも大好き。バイク関連で最も好きなことはツーリングで、どんなに仕事が忙しくても月に1度以上は必ず、愛車を駆ってロングランに出かけている。

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