百聞は“一試乗”にしかず? ベネリ製6気筒の意外な資質 ~2輪系ライター中村トモヒコの、旧車好き目線で~ Vol.10

イタリアの名門バイクブランド「ベネリ」は、1973年から量産市販バイクでは世界初の並列6気筒エンジン搭載車を発売しました。1979年に登場した「900セイ」に試乗したところ、以降に登場した別ブランドの6気筒エンジン車とは違った魅力がありました。

アレッサンドロ・デ・トマソの意向

 量産市販2輪車では世界初の並列6気筒エンジン搭載車でありながら、名車とは言い難い存在……イタリアの老舗バイクブランド「Benelli(ベネリ)」が1973年から発売を開始した「750 Sei(セイ)」と、後継として1979年にデビューした「900 Sei」に対して、昔から私(筆者:中村友彦)はそんな印象を抱いていました。その理由は、エンジンの構成が同時代のホンダ「CB500フォア」と非常によく似ていたからです。

並列6気筒らしさを強調する3×2=6本マフラーだった「750 Sei」に対して、「900 Sei」はシンプルにして軽量化に貢献する左右出しマフラーを採用。タイヤサイズはフロント100/90-18、リア120/90-18

 具体的な話をするなら、「750セイ」のボア×ストロークは「CB500フォア」とまったく同じ56×50.6mmで(900セイは60×53.4mm)、OHC2バルブの動弁系、プレーンメタル支持のコンロッドとクランクシャフト、1次減速にチェーンを用いる4軸配置、オイルフィルターの位置なども酷似していました。さらに言うなら、バックボーンパイプが1本のスチール製ダブルクレードルフレームも、「CB500フォア」を彷彿とさせるレイアウトだったのです。

 ではどうして、1921年の創業以来、イタリアを代表するメーカーとして活躍してきた名門ベネリは、そういったバイクを作ったのでしょうか。

 そもそもの発端は、1971年にデ・トマソグループに買収されたこと……だと私は考えています。と言うのも、同社のボスだったアレッサンドロ・デ・トマソは、日本車の模倣にまったく抵抗がなかったようで、傘下に収めたベネリに、まずはホンダ「CB350フォア」と「CB500フォア」を規範とする並列4気筒車、「350クアトロ」と「500クアトロ」の製作を命じました。

 そしてデ・トマソ傘下となったベネリ第2弾として生まれたのが、「500クアトロ」のエンジン左右に1気筒ずつを追加した「750セイ」だったのです。このあたりの経緯をどう捉えるかは人それぞれですが、デ・トマソの意向に対して、当時のベネリの技術者はあまり乗り気ではなかったんじゃないだろうか、と私は感じていました。

エンジンの構成はホンダ「CB500フォア」とよく似ているものの、幅を抑えるため、シリンダー後方に設置された背面ジェネレーターは、当初はベネリならではの機構だった。最高出力は80hp/8400rpm

 ただし、ベネリは決して多気筒車に後ろ向きなメーカーだったわけではありません。1939年にはスーパーチャージャーを備える水冷DOHC並列4気筒の250ccレーサーを開発していますし、1959年にデビューした空冷DOHC並列4気筒250ccレーサーは、イタリア国内選手権で何度も王座を獲得し、1969年には世界GP250ccクラスでライダー/メーカータイトルを獲得しています。

初試乗で、勝手な推察を反省

 さて、ここまではベネリ製並列6気筒車と並列4気筒車の歴史を記してきましたが、じつはこれまでの私は、1度も「クアトロ」と「セイ」を体験(試乗)したことがありません。だから本やネットの記事を見て、1970年代のベネリの状況を把握したつもりになっていたのですが……。

 少し前に開催されたイタリアンクラシックのイベント、ラウンドミーティングに参加した私は、わずかな時間でしたが、メンバーの1人がレストアを行った「900セイ」に試乗することができました。そしてその体験を通して、本やネットの記事を鵜呑みにし、勝手な推察をした自らの浅はかさを、しみじみ反省することになったのです。

エンジン幅が気にならない

 単刀直入に言うと、「900セイ」の乗り味は目からウロコでした。まず過去に体験した他の並列6気筒車、1979年に登場したホンダ「CBX(1000)」やカワサキ「Z1300」、2011年以降のBMW Motorrad「K1600GT」が、良い意味でも悪い意味でも、見ても乗ってもエンジンの主張が強烈だったのに対して、「セイ」のパワーユニットは並列4気筒よりちょっと幅広いかなという印象で、存在感があまり大きくありません。だから前述した3台と比較すると、気軽に取り回し、気軽に走り出せるのです。

自らの手でレストアを手がけた、「900 Sei」を走らせるオーナーの阿部さん。この車両を入手する前は、180度クランクと270度クランク、2台のラベルダ製3気筒を愛用していた

 なお、「900セイ」の254kgという装備重量に対して、これまでの私はイタリアの古い2輪と4輪にありがちな、楽観的&希望的な数値という印象を抱いていました(CBXは272kg、Z1300は314kg、K1600GTは344kg)。でも同時代の日本製大排気量マルチと大差ない車格感を知った今は、その数値は信頼に足るものだと感じています。

 では肝心のエンジンはどうかと言うと、「CBX」のような高回転域における爽快感、「Z1300」のようなシルキーさ、「K1600GT」のようなパワフルさは味わえません。ただし、1970年代に販売された750cc以上の並列4気筒と比較するなら、明らかに軽やかにして滑らかで、並列6気筒ならではの美点は十分に感じられる特性だと思います。

乗り味は、しっかりイタリアン

 もっとも、車格の小ささやエンジン特性以上に私が「セイ900」で感心したのは、イタリア車ならではのスポーティなハンドリング、ワインディングロードでの楽しさがきっちり作り込まれていることでした。なかでも印象的だったのは、乗り手の操作に対する忠実な反応です。ブレーキの信頼感、コーナー出口のトラクションのかかり方、スロットルを大きく開けたときの野性的なエグゾーストノートなども、私にとっては新鮮な発見でした。

 逆に言うなら、前述した3台でワイディングロードを走っていると、並列6気筒の魅力が堪能できる一方で、車格の大きさと幅広さ、「CBX」の前期型の場合は足まわりの貧弱さがマイナス要素になる場面が少なくないのですが、「900セイ」にそういった気配は皆無……ではないにしても、ごくわずかだったのです。

特徴的なビキニカルやスイッチボックスなどは、同時代にデ・トマソグループに所属していた、モトグッツィの「850ルマン」と共通

“百聞は一試乗にしかず”……とでも言うのでしょうか、この日の経験でベネリ製並列6気筒車に対する私の見方は一変しました。もちろん「セイ」と「クアトロ」が、アレッサンドロ・デ・トマソの意向で生まれたのは事実ですが、だからと言って当時のベネリの技術者に、安易にホンダ車をコピーしようなどという意識はなく、「日本車とはまったく異なる、ウチならではのスポーツバイクを作ってやろう」という信念があったのだと思います。

【了】

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Writer: 中村友彦

二輪専門誌『バイカーズステーション』(1996年から2003年)に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。年式や国籍、排気量を問わず、ありとあらゆるバイクが興味の対象で、メカいじりやレースも大好き。バイク関連で最も好きなことはツーリングで、どんなに仕事が忙しくても月に1度以上は必ず、愛車を駆ってロングランに出かけている。

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