バイクの旧車カスタムで海外クラシックレース進出!? ~CLASSIC TT-F1を目指して(1)~

鈴鹿のパーツメーカー『OVERレーシングプロジェクツ』創始者である佐藤健正さんは、仲間と共にオリジナルバイクを製作し、海外のクラシックレース進出を目指します。

オリジナルマシン「OV-40」と「OV-41」の意外な素性

 2021年11月、『Taste of Tsukuba(テイスト・オブ・ツクバ)』の取材で茨城県の筑波サーキットを訪れた私(筆者:中村友彦)は、コントロールタワーの前で『OVERレーシングプロジェクツ』(以下、OVER)のテントを見つけて、おやっ……? という気持ちになりました。

海外のクラシックレース参戦を念頭に置きつつ、細部を熟成中の「OV-41」
海外のクラシックレース参戦を念頭に置きつつ、細部を熟成中の「OV-41」

 OVERは1982年の創業以来、多種多様なレースに参戦してきたコンストラクターです。したがって違和感を抱いたわけではありません。とはいえ、同社にしてはスタッフの数が少なく、創始者であり会長の佐藤健正さんが工具を握って整備していること、そしてテント内に並ぶ2台のレーサーが、テイスト・オブ・ツクバでは珍しい「TT-F1」(スーパーバイクが普及する以前に世界各国で開催されていた、改造範囲が相当に広いプロダクションレース)スタイルだったことが、私には不思議に思えたのです。

 そこで、今回はどういう態勢での参戦かを佐藤さんに聞いてみると、意外な答えが返ってきました。

「この2台は、オーナーの寺嶋さんと私の趣味で作ったレーサーです。フレームは私が設計と製作を担当したので、カワサキZエンジン車はOV-40、スズキ油冷エンジン車はOV-41という名前を付けていますが、会社を挙げての仕事ではないんですよ。ただし寺嶋さんと私は、将来的には海外で開催されている、TT-F1が主役のクラシックレースに参戦しよう、という夢を抱いています」

「OV-41」の後ろに並ぶ3人は、左から、車両製作を担当したOVERレーシングの佐藤健正さん、ライダーを務めるD;REXの豊田浩史さん、発起人の寺嶋浩司さん
「OV-41」の後ろに並ぶ3人は、左から、車両製作を担当したOVERレーシングの佐藤健正さん、ライダーを務めるD;REXの豊田浩史さん、発起人の寺嶋浩司さん

 佐藤さんの言葉を聞いた瞬間、私の頭に浮かんだのは、1990年代の欧米で開催されたシングル/ツインレースで、ドゥカティやビモータ、MuZ、ハリス、ガリーナといった強豪を打ち負かし、数々の栄冠を獲得した「OV」シリーズでした。

 それにしてもなぜ今、佐藤さんとオーナーの寺嶋さんは、海外のクラシックレースに目を向けたのでしょうか。そのきっかけを教えてくれたのは、テント内で佐藤さんの作業を手伝っていた寺嶋浩司さんです。

「数年前から佐藤さんと仲良くさせていただいている私は、あるとき、若い頃から憧れを抱いていた、1980年代前半のTT-F1レーサーのレプリカ製作を依頼したんです。そしたら佐藤さんは快諾してくれて、2人で相談した結果、カワサキのKR1000をモチーフとするOV-40を作ることになりました。でも実際に完成してみると、日本では走れるレースがほとんどなかったんです……」

1980年代前半のTT-F1レーサーを再現

 そう言われてみると、確かに寺嶋さんが言う通り、日本で開催される日本車がメインのクラシックレースは、ノーマルフレームが前提で、オリジナルフレームがOKというケースはごくわずかしかありません。

1980年代前半のTT-F1や世界耐久で活躍した、カワサキ「KR1000」をモチーフとする「OV-40」。ホイールはフロント17インチ、リア18インチで、リアサスペンションは上部にベルクランクを備えるリンク式
1980年代前半のTT-F1や世界耐久で活躍した、カワサキ「KR1000」をモチーフとする「OV-40」。ホイールはフロント17インチ、リア18インチで、リアサスペンションは上部にベルクランクを備えるリンク式

 当初の佐藤さんと寺嶋さんが意識していた、テイスト・オブ・ツクバのモンスタークラス、モンスターEVOクラスも、やはりオリジナルフレームはNGで、参戦できるのは最速にして改造無制限の「ハーキュリーズ」クラスだけでした。

「それで、海外に目が向いたわけです。ヨーロッパやオーストラリア、ニュージーランドなどでは、オリジナルフレームでTT-F1スタイルのレーサーがたくさん走っていて、クラシック耐久のシリーズ戦も開催されていますからね。ただし、いきなり海外のレースに参戦するのはいくら何でも無謀なので、まずは国内で熟成をしようと。もっともその第一段階として、筑波サーキットでテストランを行ったところ、残念ながら、OV-40ではちょっと厳しいんじゃないか……という結論に達しました」

 テストランを担当したのは、レース経験が30年以上で、かつてはOVERから鈴鹿8耐にも参戦したことがある、『D;REX(ディーレックス)』の豊田浩史さんです。ちなみに豊田さんは、オリジナルフレーム+YZF-R1エンジンのレーサーを駆って、ハーキュリーズクラスで2012年秋/2013年春に連覇を飾った実績があり、58秒209というコースレコードは、以後数年に渡って破られませんでした。そんなエキスパートライダーの視線で見て、OV-40はどんな乗り味だったのでしょうか。

「1台のレーサーとしては、よく出来ていて、面白いと思いました。ただし、海外のクラシックレースに参戦するために、ハーキュリーズで熟成を行うのは、正直言って厳しいんじゃないかと。具体的な話をするなら、絶対的なパワーが足りないし、往年のTT-F1レーサーを意識した足まわりは、いろいろな意味で気遣いが必要です。もちろん現状も参戦はできますが、上位進出は難しいですし、上位進出しないと戦闘力は上がらないでしょう」

「OV-41」でハーキュリーズに参戦

 豊田さんの率直な意見を聞いた佐藤さんと寺嶋さんは、OV-40の進化ではなく、OV-41の新規製作という手法を選択したわけです。その背景には、カワサキ「Z」のエンジンで極端なハイパワー化を図ると耐久性の確保がどんどん難しくなる、海外のクラシックTT-F1レースではスズキ油冷「GSX-R」系や、ヤマハ「FJ」系のエンジンを使うレーサーが多い、寺嶋さんが現状のOV-40のスタイルがかなり気に入っている、という理由があったようです。

「OV-41」のモチーフはスズキ「GS1000R」だが、足まわりは現代的。ホイールは前後17インチで、リアサスペンションはボトムリンク式、フロントフォークは倒立式を採用する
「OV-41」のモチーフはスズキ「GS1000R」だが、足まわりは現代的。ホイールは前後17インチで、リアサスペンションはボトムリンク式、フロントフォークは倒立式を採用する

 なお豊田さんは、OV-41の完成後はメインライダーに就任し、2021年11月のハーキュリーズクラスにおける戦績は、予選7位、決勝8位で、ベストラップは59秒076でした。初レースとしては十分な結果ですが、佐藤さん、寺嶋さん、豊田さんの当面の目標は、58秒台でコンスタントに周回することで、それが実現できたら海外のクラシックTT-F1に……という夢を抱いています。

 さて、肝心なことの説明が最後になってしまいましたが、2021年11月に初対面したOV-40とOV-41、そして3人の男の夢に興味を抱いた私は、多くの人にこのプロジェクトを知って欲しいと考えるようになりました。というわけで、今回から数回に渡って、OV-40とOV-41にまつわるさまざまな話を紹介したいと思います。

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Writer: 中村友彦

二輪専門誌『バイカーズステーション』(1996年から2003年)に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。年式や国籍、排気量を問わず、ありとあらゆるバイクが興味の対象で、メカいじりやレースも大好き。バイク関連で最も好きなことはツーリングで、どんなに仕事が忙しくても月に1度以上は必ず、愛車を駆ってロングランに出かけている。

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