1970~1990年代中盤に開催された「TT-F1」 一体どんなレースだったのか? ~CLASSIC TT-F1を目指して(3)~

鈴鹿のパーツメーカー『OVERレーシングプロジェクツ』創始者である佐藤健正さんは、仲間と共にオリジナルマシン「OV-41」を製作し、海外のクラシックレース「TT-F1」進出を目指します。そもそもどんなレースなのでしょうか?

量産車ベースの、最高峰レース

 当記事では、オリジナルマシンの「OV-41」で、海外のクラシックTT-F1レース参戦を夢見る3人の男、車両製作を担当した『OVERレーシング』の佐藤健正さん、ライダーを務める『D;REX(ディーレックス)』の豊田浩史さん、そして発起人の寺嶋浩司さんの活動を数回にわたって紹介しています。

「OV-41」はクロモリ製のオリジナルフレームにスズキ油冷GSX-R系エンジンを搭載。海外で開催されるクラシックTT-F1レース進出を目指して製作
「OV-41」はクロモリ製のオリジナルフレームにスズキ油冷GSX-R系エンジンを搭載。海外で開催されるクラシックTT-F1レース進出を目指して製作

 と言っても、『TT-F1(ツーリスト・トロフィー・フォーミュラ・ワン)』規定のレースが世界中で開催されていたのは、今から四半世紀以上前ですから、読者の中には「そもそもTT-F1って何?」と感じる人が少なくないかもしれません。そこで今回は、スーパーバイクが普及する以前に、プロダクションレースの最高峰として大人気を誇った、TT-F1の概要を説明したいと思います。

 なお、当記事で使用する写真は、2014年にベルギーのスパ・フランコルシャンで開催されたバイカーズクラシックの参加車で、いずれもOV-40やOV-41と同様に、日本製4気筒エンジンをオリジナルフレームに搭載しています。一部の車両はゼッケンを装備していませんが、1983年以前のTT-F1、そして現代のクラシックTT-F1の参加資格を備えていることは、すべての車両に共通です。

基本的には、何でもアリ

 TT-F1の原点は、1977年にマン島TTで行われたフォーミュラTTで、このレースは後に各国を転戦する世界選手権に成長したのですが、1988年に始まったワールドスーパーバイクに地位を奪われる形で、残念ながら1990年には終焉を迎えました。なおヨーロッパ/世界耐久選手権は1979年からTT-F1レギュレーションを導入し、日本では1984年から1993年の全日本選手権でTT-F1のシリーズ戦が行なわれています。

イエローが眩しい「CB750フォア」レーサーは、1970年代の欧州耐久選手権で活躍したベルギーのDHOLDA製。トラスフレームはイギリスのP&M
イエローが眩しい「CB750フォア」レーサーは、1970年代の欧州耐久選手権で活躍したベルギーのDHOLDA製。トラスフレームはイギリスのP&M

 また、1978年に始まった鈴鹿8耐は、当初は市販レーサーやプロトタイプの参戦が認められていましたが、1980年からはTT-F1規定、1994年以降はスーパーバイク規定で開催されています。

 そんなTT-F1の最大の特徴は、改造範囲がとてつもなく広かったことでしょう。TT-F1と入れ替わる形で、プロダクションレースの主役となったスーパーバイクが、改造範囲が厳しく制限され、キットパーツの装着以外はやることがない……と、一部で言われているのに対して、TT-F1は公道を走れる量産車のエンジンの“ガワ”さえ使っていれば、基本的に何でもアリだったのですから。

普段は公道を走っていると思われる、保安部品付きのエグリホンダ「CB-F」。エグリはスイスのフレームビルダーで、1970年代中盤にはヨシムラが同社のローリングシャシーを輸入し、カワサキ「Z」のエンジンを搭載してテストを行なっていた
普段は公道を走っていると思われる、保安部品付きのエグリホンダ「CB-F」。エグリはスイスのフレームビルダーで、1970年代中盤にはヨシムラが同社のローリングシャシーを輸入し、カワサキ「Z」のエンジンを搭載してテストを行なっていた

 もちろん、排気量の規制は存在しましたし(4ストロークは600ccから1000ccで、2ストロークは350ccから500cc。ただし1984年以降の4ストロークの上限は750ccに変更)、シリンダーヘッド/シリンダー/クランクケースの材質とキャスティング変更は不可、ミッションは6速まで、などというルールはありました。

 とはいえ車体に関する規制はほとんど皆無だったため、TT-F1にはフレームビルダー/コンストラクターの主義主張を存分に感じる、独創性に富んだレーサーが数多く参戦していたのです。

TEAM TAURUSのレーサーは、イギリスのハリス製ダブルクレードルフレーム+スズキGSX用エンジンという構成。モチーフはOV-41と同じく、1980年代前半のスズキ「GS1000R」だろう
TEAM TAURUSのレーサーは、イギリスのハリス製ダブルクレードルフレーム+スズキGSX用エンジンという構成。モチーフはOV-41と同じく、1980年代前半のスズキ「GS1000R」だろう

 ただし、TT-F1でフレームビルダー/コンストラクターが製作したレーサーが上位進出できたのは1980年代中盤までで、以後は車両メーカーのワークスマシンとそのレプリカが主役になりました。

 となると、TT-F1が最も面白かったのは1980年代前半……という気がしますが、日本人の多くにとっては、4メーカーのワークスマシンが全日本選手権や鈴鹿8耐で熾烈なバトルを繰り広げた、1985年から1993年がTT-F1の全盛期かもしれません。

海外とは異なる、日本のレース事情

 近年のヨーロッパやオーストラリア、ニュージーランドなどでは、TT-F1スタイルが主役のクラシックレースが数多く開催されています。その一方で、日本で行なわれる1970年代から1980年代車がメインのクラシックレースは、ノーマルフレームが前提で、往年のTT-F1レーサーを再現したオリジナルフレーム車が参戦できるクラスはわずかしかありません。なおアメリカのクラシックレースも、TT-F1クラスは存在しないのですが、改造範囲がTT-F1と同様でオリジナルフレームがOKとなる、フォーミュラ750が行なわれています。

ハリスフレームにホンダ「CB-F」用エンジンを搭載。リアホイールは懐かしのアストラライト。ナイトロンのユニットを使用するリアサスペンションはリンク式モノショック
ハリスフレームにホンダ「CB-F」用エンジンを搭載。リアホイールは懐かしのアストラライト。ナイトロンのユニットを使用するリアサスペンションはリンク式モノショック

 ではどうして、日本ではTT-F1スタイルが主役のクラシックレースが開催されず、オリジナルフレームが参戦できるレースが盛んではないのでしょうか。その理由は、フレームビルダーの数が少なく、フレーム交換が一般的な手法として認知されていないからだと思います。

 ちなみにヨーロッパでは、リックマン、シーリー、ロブノース、ハリス、ビモータ、セーガレ、マーニ、エグリ、モトマーチン、ニコバッカーなど、オリジナルフレームを製作するコンストラクターが古くから活躍していました。そしてそれらのフレームの中には、現在でもレプリカの入手可能な製品が存在し、だからこそ、海外ではクラシックTT-F1レースが活況を呈しているのです。

 言ってみれば、日本と海外では土壌が異なるわけで、おそらく日本では今後も、1980年代前半のTT-F1が主役のクラシックレースが開催されることはないでしょう。

本物かレプリカかは何とも言えないところだが、2台の#119の構成は、1979年から1981年のTT-F1と世界耐久選手権で活躍したホンダ「RS1000」に準じている
本物かレプリカかは何とも言えないところだが、2台の#119の構成は、1979年から1981年のTT-F1と世界耐久選手権で活躍したホンダ「RS1000」に準じている

 とはいえ当連載の取材を通して、OVERレーシングが製作したOV-40とOV-41に感銘を受けた私(筆者:中村友彦)としては、参戦車のバラエティ感を高めるという意味で、日本のレースの主催者は、オリジナルフレーム車にもっと門戸を開いてもいいんじゃないだろうか……と感じています。

【画像】独創性が過ぎる!? 「TT-F1」に参戦可能なオリジナルのレーシングマシンを見る(13枚)

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Writer: 中村友彦

二輪専門誌『バイカーズステーション』(1996年から2003年)に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。年式や国籍、排気量を問わず、ありとあらゆるバイクが興味の対象で、メカいじりやレースも大好き。バイク関連で最も好きなことはツーリングで、どんなに仕事が忙しくても月に1度以上は必ず、愛車を駆ってロングランに出かけている。

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