奈良県「助人トンネル」ケーブル垂れ下がりバイク転倒死亡事故 年内解決は難しい 捜査関係者語る

2022年5月2日、奈良県内の国道168号「助人トンネル」(すけっとトンネル)で起きたバイクの転倒死亡事故で、年内の決着が難しいことが関係者の話でわかりました。トンネルを管理する奈良県は、警察の捜査が終わらない限り、道路管理者としての調査を行わない方針です。捜査はなぜ進展しなかったのでしょうか。

目撃者やカメラのない地方道で、関係車両の特定が難航

 奈良県十津川村川津の「助人トンネル」で、2022年5月2日に発生したバイク転倒死亡事故。救急への第一報は「トンネル内にケーブルが垂れ下がっていた模様。バイクが接触して転倒した。男性ライダー1人の意識がない」という後続バイクからの通報でした。

【助人隧道】トンネル南坑口(新宮側)から電源ケーブルの敷設を見る。トンネル天井にあったケーブルが、通行車両と接触する高さに移設され、それを通過車両がひっかけたと見られるが──
【助人隧道】トンネル南坑口(新宮側)から電源ケーブルの敷設を見る。トンネル天井にあったケーブルが、通行車両と接触する高さに移設され、それを通過車両がひっかけたと見られるが──

 片側1車線、対面通行のトンネル内には3台のバイクが走行し、1台目の普通自動二輪を運転していた53歳男性が死亡。3台目の大型自動二輪を運転していた31歳会社員が頸部打撲の軽傷でした。

 中央線寄りを走行していた2台目は無事で、車線左寄りを走っていた1台目と3台目が事故に遭いました。3台は一群で走っていたわけではなく、事故原因は確定していませんが、当時の様子からトンネル内に敷設されていた電源ケーブルが運転に影響を与えたと考えられました。

 なぜ電源ケーブルは垂れ下がったのか。バイクとケーブルはどんなふうに接触したのか。原因究明は当初から難航が予想されていました。

 紀伊半島を縦断する国道168号は、山間を縫うようなカーブと狭路が連続する生活道路です。大型連休中は観光客で交通量も若干増えますが、基本的に通過車両は少なく、現場となった助人トンネル付近に住居はほとんどありません。

 加えて、死亡した男性はソロツーリングで、事故直後の目撃者が限られていたことなどから、解明に結びつく目撃情報が得られにくかったことが、捜査を長引かせました。

最も過失が大きかった当事者の見極めに難航

 事故で最も過失の大きい当事者が不明確なことも課題でした。

国道168号に掲げられた「この先二輪車の事故多し」の注意看板。安全を考えるべきは運転者だけではないはずだ
国道168号に掲げられた「この先二輪車の事故多し」の注意看板。安全を考えるべきは運転者だけではないはずだ

 当時トンネルは補強工事中で、実際の工事は連休期間中のため休止されていましたが、電源ケーブルは工事のために敷設がやり直されていました。

 トンネルは昼なお暗く、すれ違いも緊張するような狭路です。そんな中で国道168号は高規格化が進められ、工事車両が頻繁に往来しています。

 トンネル内が通常より狭まる補強工事で、ひとつは、この工事が適切に行なわれていたか否かです。奈良県はこのことについて「捜査中」を理由に明らかにしていません。

 もうひとつは、敷設された電源ケーブルが、大型車の通行によって垂れ下がったのではないか、という可能性です。奈良県警五條警察署は、大型車を特定していますが、車両の通行が電源ケーブルの固定に影響を与えたのか、そのことを運転者が認識していたのか、ということについては、遺留品の鑑定と証言が必要というわけです。

 捜査関係者は、今後の見通しをこう話します。

「現在、現場で採取した証拠品などの鑑定中だが、結果を見極め、年内に判断するのは難しい」

 事故発生から7カ月。11月30日には当時から続いていた助人トンネルの補修工事が終了するはずでしたが、事故によって中断したままです。

 トンネルはほぼ直線。バイクはなぜ相次いで転倒しなければならなかったのでしょうか。なおその真相は明らかになりません。

【画像】事故発生現場、奈良県「助人トンネル」の様子を見る(5枚)

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Writer: 中島みなみ

1963年生まれ。愛知県出身。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者を経て独立。行政からみた規制や交通問題を中心に執筆。著書に『実録 衝撃DVD!交通事故の瞬間―生死をわける“一瞬”』など。

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