電子制御に依存するレーシングマシン 乗り手のテクニックに優劣が現れる!? ~木下隆之の、またがっちゃいましたVol.184~

レーシングドライバーの木下隆之さん(筆者)は、電子制御システムは乗り手のテクニックの優劣が現れると言います。どういうことなのでしょうか?

電子制御システムに依存しつつも、テクニックの優劣は現れる

「BMW S 1000 RR」のDTC(ダイナミック・トラクション・コントロール)は秀逸です。ハンドル角や速度やタイヤのスリップ状態など、さまざまな情報からマシンの走行状態を把握し、同時にアクセル開度やブレーキング圧力などからライダーの意志に忠実にコンピューターが演算、減速時にはブレーキングドリフトをコントールするというのです。タイヤのスリップを抑えて安定させるのではなく、絶妙なスライド状態をキープさせると言うのだから、これはもう競技の世界です。

BMW Motorradのスーパースポーツモデル「S 1000 RR」(2023年型)
BMW Motorradのスーパースポーツモデル「S 1000 RR」(2023年型)

 加速時も同様に、ドリフトしながらのコーナー脱出を可能にしてくれるというのだから素晴らしいですね。ただコケなければいいのではなく、motoGPライダーが演じるような、極限の走りをコンピューターが可能にしてくれるのです。そこまで攻めることのできるライダーがどれほどいるのかは別として……。

 じつは、僕(筆者:木下隆之)がニュルブルクリンク(ドイツ)で走らせているレーシングカーも同様に、電子制御に依存しています。2023年はスープラGT4で戦っていますが、ブレーキ制御のABSも加速制御のトラクションコントロールも装備しています。しかも、それぞれの制御の強弱やタイミングを約10パターンで好みに合わせて選択できるのです。

「えっ、レースなのにコンピューターまかせなの?」

「軟弱ですね」

「腕の差がつかないのでは?」

 驚かれる方も多いでしょう。そう感じられたのであれば、すべて正解です。

2023年TOYO TIREのグローバルフラッグシップブランド「PROXES(プロクセス)」アンバサダーに就任した筆者(木下隆之)は、2022年トーヨータイヤを装備したGRスープラGT4を駆り、ニュルブルクリンクで行われたNLS第8戦「4時間レース」に参戦した
2023年TOYO TIREのグローバルフラッグシップブランド「PROXES(プロクセス)」アンバサダーに就任した筆者(木下隆之)は、2022年トーヨータイヤを装備したGRスープラGT4を駆り、ニュルブルクリンクで行われたNLS第8戦「4時間レース」に参戦した

 最近のレーシンクカーは、ほとんどがコンピューター制御に依存しています。ですからスピンしづらい、タイヤが白煙を撒き散らすことも稀です。

 そしてもちろん、ドライバーがミスに対してきつく叱るような「お仕置きモード」ではなく、「BMW S 1000 RR」のように「速い電子制御」なのです。僕はレース中、サスペンションのセッティングやタイヤの状態などの変化に合わせて、電子制御の強弱をダイヤルでアジャストさせながら戦っています。

 ドライバーのミスを救ってくれますから、確かに軟弱でもあります。ABSが組み込まれているので、繊細なブレーキコントロールは大胆になりました。ドカンと岩を踏みつけるような感覚でブレーキペダルを蹴り込みます。それでもタイヤロックはしません。

 確かに腕の差も少なくなりました。すべてを電子制御が救ってくれるので、コントロール能力の甘いドライバーにとってはありがたいでしょう。

 ですが、プロドライバーの名誉のために付け加えるならば、それでもテクニックの優劣は現れます。電子制御システムをいかに巧みに扱うのかもテクニックのひとつです。高度なDTCが組み込まれている「BMW S 1000 RR」であっても、誰もが300km/hでドリフト進入ができないでしょうから。

 ともあれ、ライダーにとってもドライバーにとっても、歓迎されるべくシステムには違いはありません。

【画像】電子制御システムがバリバリのマシンを見る(8枚)

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Writer: 木下隆之

1960年5月5日生まれ。明治学院大学卒業後、出版社編集部勤務し独立。プロレーシングドライバーとして全日本選手権レースで優勝するなど国内外のトップカテゴリーで活躍。スーパー耐久レースでは5度のチャンピオン獲得。最多勝記録更新中。ニュルブルクリンク24時間レースでも優勝。自動車評論家としても活動。日本カーオブザイヤー選考委員。日本ボートオブザイヤー選考委員。

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