【現地】2023年「マン島TTレース」 レコードラップを叩き出した予選4日目の様子

現存する世界最古のバイクレースとして知られる「マン島TTレース(Isle of Man TT Races)」が、2023年5月29日~6月10日の日程で始まりました。予選4日目の模様をお伝えします。

晴天に恵まれ記録更新!

 全長約60kmの公道を閉鎖して行なわれる伝統の公道レース、「マン島TTレース(Isle of Man TT Races)」(以下、TTレース)の予選4日目が晴天に恵まれた6月1日、木曜日の現地時刻18時30分から行なわれ、2輪とサイドカーともにレコードラップが誕生しました。

「スーパーバイク」クラスでレコードラップを叩き出したピーター・ヒックマン選手。TTマウンテンコースは山岳電鉄の線路を横断する。建造100年以上の木製列車の前を、時速300キロ近くで走り抜ける
「スーパーバイク」クラスでレコードラップを叩き出したピーター・ヒックマン選手。TTマウンテンコースは山岳電鉄の線路を横断する。建造100年以上の木製列車の前を、時速300キロ近くで走り抜ける

 この日はまず、主に排気量1000ccクラスの「スーパーバイク」と「スーパーストック」クラスが、続いて600ccクラスが中心の「スーパースポーツ」と650ccの「スーパーツイン」クラスが走行。最後に「サイドカー」クラスの走行となりました。

 TTレースは、マン島の変わりやすい天候による影響や、道路閉鎖時に路上駐車車両の排除が間に合わなかったり、消防車や救急車など、市民の緊急事態などの影響で時間通り始まらないことがよくあります。今年はこの日まで、初日以外は予定時刻通りに始まっています。

 TTマウンテンコースと呼ばれる1周約60kmの公道サーキットで新たな記録を打ち立てたのは、昨年の「スーパーバイク」と「シニアTT」(最終日に行なわれる最終レース。スーパーバイククラスのレースを尊敬の念を込めて、かつての最高峰クラスの名前を冠付けている。事実上スーパーバイクレース2)で優勝しているピーター・ヒックマン選手(BMW M 1000 RR)です。

 スタート地点の停止状態からのスタンディング・スタートの記録ですが、平均時速は133.797マイル(214.075km/h)で、マイケル・ダンロップ選手(Honda CBR1000RR-R Fireblade)をわずかに上回りました。

「サイドカー」クラスでもコースレコードのラップタイムが誕生した。今年も優勝を狙うトムとベン・バーチャルの兄弟組
「サイドカー」クラスでもコースレコードのラップタイムが誕生した。今年も優勝を狙うトムとベン・バーチャルの兄弟組

「サイドカー」クラスでは、元世界グランプリ王者でもあるベン・バーチャル選手とトム・バーチャル選手組が、自らのラップレコードを更新する平均時速119.414マイル(191.062km/h)を叩き出しました。

「スーパーストック」クラスは、ダンロップ選手(Honda CBR1000RR-R Fireblade)がこの日の一番時計でしたが、前日のヒックマン選手の記録を上回ることはできませんでした。

「スーパースポーツ」クラスは、もともと軽量級を得意とするダンロップ選手(Yamaha YZF-R6)が平均時速127.557マイル(204.091km/h)を刻み、予選1位を守っています。

 ちなみに、TTレースやイギリス・アイルランドの公道レースでは、同じ選手がクラスによって違うメーカーに乗るのは普通のことです。

 日本から参戦している山中正之選手はこの日、「スーパースポーツ」クラスにホンダ「CBR600RR」で出走。3周を完走し、51位(52台中)のリザルトとなっています。

道路閉鎖はマン島政府が法律を施行して管理している。マウンテンエリアのバンガローに至るカフェ入口にも看板が。走行中はここを出入りできなくなる
道路閉鎖はマン島政府が法律を施行して管理している。マウンテンエリアのバンガローに至るカフェ入口にも看板が。走行中はここを出入りできなくなる

 ところで、1周約60kmもの長大な公道を長時間にわたり、どうやって閉鎖するのでしょうか。これには、マン島の地勢と政治的な特徴が関係してきます。マン島は政治的には国としてのイギリス(日本政府の呼び方は英国:グレートブリテン及び北アイルランド連合王国)には含まれません。

 マン島は正式にはクラウン・ディペンデンシー(王室属の地域)であり、政治的にもイギリスから独立しています。ゆるやかなる連体と言われる英国連邦にも属しますが、クラウン・ディペンデンシーも含めて政治的な意味はなく、現代では象徴としての属となっています。

 このためマン島は独自の法律を持ち、レースのために公道を閉鎖することが可能となっています。

 1990年代まで、TTマウンテンコースはTTレースウィーク中、道路閉鎖していない時間帯は双方通行のままでしたが、海外からの観戦客らによる交通事故が相次いだため、現在はマン島の法律によってマウンテンエリアをウィーク中、TTコースと同じ向きで一方通行とする措置が取られています。

予選セッション最後にバンガローでマシンを止めた、サイドカーのライアン&カラム・クロウ兄弟チーム。エンジントラブルとの判断で、オレンジ色のベストを着たセクターマーシャルが状況を聞いているところ。右側を走行するバイクは走行終了のコース確認で走っているトラベリング・マーシャル
予選セッション最後にバンガローでマシンを止めた、サイドカーのライアン&カラム・クロウ兄弟チーム。エンジントラブルとの判断で、オレンジ色のベストを着たセクターマーシャルが状況を聞いているところ。右側を走行するバイクは走行終了のコース確認で走っているトラベリング・マーシャル

 一方通行とするエリアの入り口と主要な交差点や出口は、車線規制のためパイロンや規制看板などが設置されます。これをレース前に撤去し、閉鎖解除のためにまた設置するのですが、マン島政府建設省のスタッフによる「コンボイ・チーム」によって迅速に作業が行われます。

 また、TTコース沿いには大小さまざまな交差点があり、こちらもボランティアのマーシャルたちによって柵やパイロン、ロープなどによって隅々まで閉鎖&解除の作業が行なわれています。

 数千人もの関係者によって支えられているマン島TTレースは6月2日、金曜日にいよいよ予選最終日となります。走行開始は13時(日本時間:21時)からとなります。

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Writer: 小林ゆき(モーターサイクルジャーナリスト)

モーターサイクルジャーナリスト・ライダーとして、メディアへの出演や寄稿など精力的に活動中。バイクで日本一周、海外ツーリング経験も豊富。二輪専門誌「クラブマン」元編集部員。レースはライダーのほか、鈴鹿8耐ではチーム監督として参戦経験も。世界最古の公道バイクレース・マン島TTレースへは1996年から通い続けている。

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