加速度的に進化するヤマハの電動トライアルマシン「TY-E 2.2」 そこから広がる可能性
ヤマハは電動トライアルマシン「TY-E 2.2」を、『ジャパンモビリティショー2023』で展示しました。2023年シーズンの全日本トライアル選手権シリーズに、黒山健一選手とともに参戦中の車両です。2018年から世界選手権、今季は全日本を戦う「TY-E」は、どんな進化を遂げてきたのでしょうか。そして、そのテクノロジーはどこに、どのように反映されているのでしょうか。
実戦で培ってきたノウハウが、電動ならではの進化を続ける
『ジャパンモビリティショー2023』のプレスデー(10月25日)に行なわれたヤマハのプレスブリーフィングは、ライダーが操るバイクが中央ステージに登場する演出から始まりました。ステージを囲む報道陣たちの手前でブレーキングしたかと思えば、ステージ奥に設置されたセットを駆け上がる──。トライアルライダー黒山健一選手とヤマハの電動トライアルマシン「TY-E 2.2」によるデモンストレーションです。人馬一体となってひらひらと「TY-E 2.2」を走らせる黒山選手のパフォーマンスに、バックミュージックが響きます。東京ビッグサイトという屋内で披露されたそれは、間違いなく電動トライアル車ならではのパフォーマンスでした

そんなデモンストレーションを披露したヤマハの電動トライアルマシン「TY-E」について確認しましょう。
そもそもは、ヤマハの研究開発統括部で業務のうちの5%を利用できる「Evolving R&D」活動のひとつで、それがプロジェクト化されて生まれたのが「TY-E」です。
レースへの参戦は2018年が初年度。トライアル世界選手権併催の「Trial E Cup」に黒山選手とともに参戦し、フランス大会では優勝を飾りました。2019年も参戦しましたが、2020年、2021年は休止しています。
2022年はトライアル世界選手権Trial2クラスに参戦。このシーズンから「Trial E Cup」はなくなり、内燃機関のマシンと混走になりました。

2023年シーズンは全日本トライアル選手権に初めて電動マシンをエントリーさせ、国内最高峰クラスであるIAスーパークラスに、内燃機関のマシンと混走の形でフル参戦しています。なお、2018年、2019年までは「TY-E」、2022年は「TY-E 2.0」、2023年は開幕戦から第4戦までが「TY-E 2.1」で、第5戦北海道・和寒大会から「TY-E 2.2」が投入されました。
レーシングマシンのため、当然ながらシーズンのたびに細かなアップデート、あるいは技術規則に合わせた変更があるわけです。
軽量化よりフォーカスしたもの
今回、そんなヤマハの電動トライアルマシンについて話を聞きました。伺ったのは、ヤマハ発動機MS統括部MS戦略部レース支援グループ主査、また、ヤマハ・ファクトリー・レーシングチームの監督を務める佐藤美之さんです。

「初期の2018年、世界選手権でデビューした時から比べると、フレームが大幅に変わりました。また、モーターユニット関係とバッテリー。大きく分けると、この3つがアップデートされたという形です」
佐藤さんは初期型からの進化についてそう語ります。アップデートに関して最も改善されたのは、航続距離の向上を目的としたバッテリー性能でした。なお、バッテリーについては「TY-E」が1個搭載だったところ、「TY-E 2.0」から2個搭載になっています。
「トライアルは1日2回レースがあります。2018年型では1ラップ10セクションの途中でバッテリーの交換をしなければならなかったのですが、現行マシンに関しては、バッテリー性能が向上したことで、バッテリーを交換しなくても1ラップを戦えるようになりました。というのも、世界選手権では2019年からバッテリーを途中で交換してはいけない、というレギュレーションになったからです。そのために交換の必要がないよう、バッテリー性能を上げました」
今回はパワーの向上もひとつの改善ポイントで、軽量化ではなくあえて出力向上にフォーカスしたということです。
現在、多くの電動バイクが抱える課題のひとつに車両重量があります。それはレースマシンであっても同様で、例えばロードレース世界選手権MotoGP併催の電動バイクレース『FIM Enel MotoE World Championship』のワンメイクマシン、ドゥカティ「V21L」は、レーシングマシンでありながら車両重量は225kgです。参考までに、同等の車格を持つMotoGPマシンは、最低重量が157kg。スーパーバイク世界選手権は168kg。これらを比べれば、電動マシンの車両重量の課題に思い至ることができます。

ここで疑問が浮上します。トライアルとは、ロードレースのように速さを競うのではなく、岩や大木などの障害物をバイクに乗ったまま、いかに足を着かずに乗り越えていくか、という競技です。より軽量なマシンが求められるはずですが、それよりも出力向上に重点を置いたのはなぜだったのでしょうか。
これにはレーシングマシンならではの、そして黎明期の電動レースらしい背景がありました
「2019年までは世界選手権に電動クラスがあったのですが、2022年からなくなってしまったのです。エンジン車との混走になったことで、エンジンと電動の真っ向勝負になります。よって、エンジンと戦えるモーターユニットを作らなければならない、という話になり、エンジン車と戦っていけるようにモーターユニットを開発してきたのです」
また、電子制御についても改善が進んでいます。「ライダーの感性とマシンの特性を合わせる適合が、特に電動マシンには必要不可欠です」と、佐藤さんは語ります。
「レース会場には電子制御専門のスタッフがいるほどです。TY-E 2.2はギアが付いていないので、オートマチック車のようにスロットルを開けるとマシンが前進します。電動はエンジンと違って一気にトルクが出るのですが、こういう軽い(トライアル)バイクだと、完全に立ってしまうほどのパワーが出るんです。(ライダーの)アクセルコントロールに加えて、機械の制御によってさらにその出力を滑らかにしているんです」
「選手が坂を上るとき、1回なのか、2回に分けて上りたいのか。そのときのアクセルコントロールとリアタイヤの回転がどれだけ一致するか、が重要になるんです。ライダーの感性とマシンの特性を合わせるのが、電子制御です」
「また、電動マシンはガソリン車と違って、だんだんエネルギーが小さくなっていくのです」と、佐藤さんは電動マシンならではの難しさにも言及しました。
内燃機関マシンの場合、ガソリン量の減少により重量が変わり、走りに影響が出ることはありますが、電動マシンの場合はそうではありません。バッテリー残量が減るとパワーも落ちていきます。一般的に、電動バイクの場合、バッテリー100%の状態と20%の状態では、同じようにアクセルを開けても得られるパワーは同じではないのです。
「トライアルのように高い坂を上っていかないといけない競技では、バッテリーの残量に左右されます。それから、バッテリーが高温になると性能を出しにくくなる、ということもあります。電動にはそういう難しさがありますね」








