人気の軽ワゴンと、ハーレー新型に見る開発事情とは!? ~木下隆之の、またがっちゃいましたVol.221~
レーシングドライバーの木下隆之さん(筆者)は、人気の軽ワゴン各種とハーレーの新型2機種、その開発事情の違いが興味深いと言います。どういうことなのでしょうか?
微妙な仕様違いで低価格、ではツマラナイ
軽自動車の世界では、圧倒的な居住空間を備えた背の高いワゴンが人気です。ホンダは「N-BOX」と「N-BOXカスタム」をリリースし、販売で不動の首位を独走しています。ダイハツも「タント」と「タント・カスタム」をこのジャンルに送り込み奮闘。これまでは多くのファンに支持されていました。

そしてこのジャンルに、スズキは「スペーシア」と「スペーシア・カスタム」を刷新して投入しました。フルモデルチェンジのタイミングがライバルのやや後発という意味では、後出しジャンケンのようでもあり、ヒットの予感がします。
それにしても、僕(筆者:木下隆之)がこのジャンルで興味深いと思うのは、この3メーカーすべてが、比較的ファニーな印象のベースモデルと、やや能動的なカスタムを用意していることです。あえて言うならば、女性的と男性的、家庭的とスポーツフィール、日常と非日常。二段構えのモデル構成としていることです。
3メーカーとも、標準モデルに対して野生的な造形のモデル名を「カスタム」としていることは、偶然ではないでしょう。
動力性能も同様な味付けであり、標準車はNAエンジン(ターボではない自然吸気エンジン)が主体であり、カスタムには強力なターボエンジンを与えていることも特徴です。
ただし、エンジニアリングには大きな違いはありません。例えばスペーシアを例にとれば、ベーシックモデルもカスタムも、走りを左右する点でタイヤの銘柄しか違いがないのです。
ターボが組み込まれているか否かによってパワー差があるのにも関わらず、ボディやフレームはもちろんのこと、サスペンションもスプリングも共通です。
厳密に突き詰めるならば、前後重量配分も絶対的なパワーも異なるわけですから、それぞれのサスペンション系に細工をしなければなりません。ですが、味付けの違いはタイヤの特性だけに頼っているのです。
これにはコストエフェクトに敏感な軽自動車という性質が影響しています。それぞれに作り分ければ、その分生産コストが高くなります。それは価格に転嫁せざるを得ません。それでは価格的な競争力に劣ります。そのため、タイヤだけの変更でフィーリングを色分けするという手法が取られているわけです。
というような昨今のクルマ開発事情に慣れていると、話題のハーレー・ダビッドソン新作である「X350」と「X500」の作り込みには腰を抜かしかけます。いずれも、正真正銘「ハーレー」ブランドであることに違いはありませんが、パワー特性の異なる並列2気筒エンジンを搭載しています。
フレームもサスペンション形式も異なります。タンクやシートの形状にも違いがあります。ハンドルの形状も、ウインカーの造形すら別のモノが組み付けられているのです。
ライディングフィールも異なります。「X350」はステップが後退しており、タンクを抱え込むようなレーサースタイルのライディングポジションであり、車体との一体感が強調されています。
一方の「X500」は、ステップは平均的な位置にあり、アップライトな姿勢になります。ハンドルは幅広く、それでいてヒラヒラと舞うように走ります。同じハーレー「X」シリーズでありながら、まったく違うバイクのようなのです。
そしてこの「X」シリーズの最大の売りは、安価であることです。「X350」が69万9800円、「X500」が83万9800円(いずれも消費税10%込み)。近い排気量クラスの国産バイクと、ほぼ同レベルの値付けです。
つまり、スペーシアの開発手法の例にあてはめれば、コストダウンを進めたはずなのに、わざわざ仕様を作り分けている。それでいて安価な設定に抑えている。その点が、じつに興味深く思えました。
ともあれ、金太郎飴のようにどれもこれもフィーリングが共通しているのも飽きを誘います。個性が溢れているという点では、歓迎すべきことかもしれませんね。
Writer: 木下隆之
1960年5月5日生まれ。明治学院大学卒業後、出版社編集部勤務し独立。プロレーシングドライバーとして全日本選手権レースで優勝するなど国内外のトップカテゴリーで活躍。スーパー耐久レースでは5度のチャンピオン獲得。最多勝記録更新中。ニュルブルクリンク24時間レースでも優勝。自動車評論家としても活動。日本カーオブザイヤー選考委員。日本ボートオブザイヤー選考委員。











